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この義太夫バカ‥推します「仏果を得ず」(三浦しをん著)

SuiSuiと申します。昨日「はじめてのnote」を書きました。そして私と同じ日に「はじめてのnote」を書いた多くの方の文章を読みました。

たった1日のうちに、こんなにたくさんの人が「何か書こう」と決心していること。中でも中学生や高校生の何人かの方が「自分を表現することは苦手だけど、がんばって書きたい」と記しているのを見て、なんだか胸アツでした。この夏の終わりにnoteを始めた同期の皆さん、がんばりましょう。

さて、本棚から引き抜いて今日読んでいたのは

三浦しをんさんの「仏果を得ず」(双葉社文庫)


超要約すると…文楽の義太夫に魅せられて、芸の道に突き進む青年の成長物語、です。

この要約だと全然面白くなさそうですね。でも、私は、今まで読んだ6冊の三浦しをんさんの小説のうち、一番好きです。「風が強く吹いている」よりも、「舟を編む」よりも、「神去なあなあ日常」よりも。そしてこれらが好きな人は、きっと楽しめると思います。

あ、心配しないでください。私も生で文楽を見たことは一度もありません。それなのにこんなに面白い。作家の力です。

文楽の物語が主人公を引っ張る


全八章は文楽の演目がタイトルとなり、第一章の「幕開き三番叟」から、第八章の「仮名手本忠臣蔵」まで文楽の物語を背景に、主人公・健(たける)くんの恋愛物語も進行。

健太夫、いい奴なんですよ。推しです


文楽は「江戸時代の現代劇」。忠義が命より大切な時代、その登場人物の気持ちに共感していくのは、正直難しい。文楽一筋、義太夫バカの健にしても、「理解できない、釈然としない」と悩みはつきない、それでもその気持ちをつかみたいと、師匠に扇子で頭を張られながら精進する日々…。

これ、すごくないですか。だって江戸の遊女とか、鎌倉時代の武士にも「自分に共感できるところがあるはず」と信じて疑わないから、理解できないことに悩む。師匠の銀大夫が語れば劇場中が物語に入りこんで涙するのに…と、悩み、むきになって稽古する。健太夫(たけるだゆう)、いい奴なんですよ。

ちと挟みますと、私の趣味であるクラシックバレエでも同じで、お姫様だ王子様だ、白鳥だ妖精だ…と、ストーリーは荒唐無稽でちっとも共感できないのに、音楽とともに素晴らしいダンサーが舞台で演じたら、観客、泣いちゃうんですよ。自分とはるか遠いはずのものに共感させる力が、洋の東西を問わず古典にはあるのでしょうか。

稽古だけしてても、たぶん掴めない


「仏果を得ず」の健くんは、稽古だけでは得らればかった文楽の登場人物への共感と愛情を、恋愛や、師匠や、三味線の相方との関わりの中で、そして舞台で、本番で観客に向かって語ることで、掴んでいきます。

これ、普通のストーリーにしたら、もしかしたら「当たり前でしょ」だったかもしれないなぁ。文楽の物語と絡みあっているから、健、君はそこまで掴んだのか…という驚きがあったんだなぁ。

ここまで書いて、文楽を見たくなりました。国立劇場の立て直し問題が決着しないのが、すごく気になってきました。もし主人公の健太夫が現実にいたら、今、47歳くらい? これは…国立劇場、早く完成させてあげてください。 






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