2023年のゲーム音楽と周辺曲を振り返る【ポケモン/メタルギア/ライザ/OW2/音ゲー/インディー他】
こんにちは、ゲーム音楽DJのすいそです。
2023年もたくさんのゲーム音楽がリリースされました。その中でも、コラボやメディアミックス、アレンジなど、自分が近年着目している”ゲーム周辺曲”について、紹介しつつ語っていきたいと思います。サントラには収録されていない、でもゲームファンならきっと楽しめる、ゲーム周辺曲の世界へレッツゴー。
ガッチュー! / Giga【ポケットモンスター】
2023年はまず何といっても「ポケミク」(「ポケモン feat. 初音ミク Project VOLTAGE 18 Types/Songs」)の年でした。Matt Cabやポルカドットスティングレイも参加した「Pokémon Music Collective」の流れを汲む展開で、DECO*27、ピノキオピー、cosMo@暴走Pといった名だたる顔ぶれで送る「ポケミク」第7弾楽曲として12月15日にリリースされたのがこの「ガッチュー!」です。
ユニット・REOLでの活動や、近年ではAdoへの楽曲提供などでも知られるGiga(ギガP)によるハイフィーなグリッチホップ。ボカロPとしての顔をルーツに持ち、トライバルな要素を取り入れた密度の高いベースミュージックを武器とする彼の本領が発揮されています。
エンジェリックなマラタウンのコーラスから始まり、ゲームSE&鳴き声サンプリングやKAITOによるポケモン図鑑の読み上げ、そこにウォンキーな音使いも交えつつ、コンプレクストロばりに目まぐるしく畳みかける展開に度肝を抜かれます。この情報量の多さと解像度の高さというのは、ボカロやネットミュージックを経由した今日の音楽シーンにおいて熱狂を呼び起こす共通点としてある気がします。「ポケミク」はどの曲も全力で楽しませてもらっていますが、計り知れない挑戦とプレッシャーの上にある表象であることは間違いないでしょう。神がかったマッチングを成立させる企画・プロデューサー陣、MV制作やプロモに関わられている方々含め感謝しかありません。
Biri-Biri / YOASOBI【ポケットモンスター スカーレット・ヴァイオレット】
さて、まさにその、文脈的ハイレゾミュージックの代表格にしてトップランナーのYOASOBI。アニソン界をごりごりと塗り広げていく飛竜乗雲の勢いについては最早説明不要ですが、それを『ポケモン』でやってくるかという驚きがここでもありました。
ややセンセーショナルな意味合いも込めて夜行性とカテゴライズされることのある音楽スタイル(「ポケミク」シリーズでも、稲葉曇の「電気予報」がしっかり存在感出してましたね)ですが、この曲にいたってはリキッドなドラムンベースが主体になっているのがかなり面白いです。トラップ的なビートも混ぜながら、軽妙に、でもやっぱりエモーショナルに見せていくワザアリなトラックメイクセンスと表現力にはシビれます。
SNEAKING / Mori Calliope【METAL GEAR SOLID: MASTER COLLECTION Vol.1】
この曲に、前述の『ポケモン』関連楽曲群とテクスト的連続性を感じたのは自分だけはないはず。”ポップミュージックのアーティストが”、”ゲーム音楽を引用(サンプリング)し”、”公式でリリースする”というこの一連のムーヴメントに、ゲームと音楽を追いかけ続けてきた者として胸打たれています。
Mori Calliope(森カリオペ)はホロライブEnglish所属のバーチャルライバー/ラッパー。英日二刀流のリリックワークが特徴で、作詞のみならず作編曲を手掛けることもある異才のミュージシャンです。音ゲーでは「DEAD BEATS」(『テトテコネクト』)、「Q」(『グルーヴコースター ワイワイパーティー!!!』)、「失礼しますが、RIP♡」(『チュウニズム SUN PLUS』)などが各機種に収録されています。
「SNEAKING」はChaki Zulu、Nvmbrrと共作したハイブリッドトラップで、散りばめられた『MGS』ネタはリリックに留まらず、音としても存在感のあるアクセントとして顔を出します。特に中盤のブレイクとして引用されている「Yell "Dead Cell”」のアーメンは、聴こえた瞬間信用度爆上がりでした。
ゲーム音楽をアレンジして歌う遊びは、公式非公式問わず古今東西で行われてきていました。近年のオフィシャルの動きとしてはSEGAが積極的で、『ソニック・ザ・ヘッジホッグ』の「Green Hill Zone」を本家DREAMS COME TRUEが歌ったり(「次のせ~の!で -ON THE GREEN HILL-」)、レトロゲームギークとしても知られるMCU(KICK THE CAN CREW)が『ファンタジーゾーン』『ペンゴ』などをテーマに歌ったり(「MCU × SEGA Sound Collection」)と、オタクを喜ばせるツボを押さえた企画をリリースしています。
今後もこういった動きが各メーカーで巻き起こっていくといいですね。期待してます。
ゴールデンレイ / 三月のパンタシア【ライザのアトリエ ~常闇の女王と秘密の隠れ家~】
ゲーム原作アニメも、ゲーム周辺曲が生まれるシーンとして注目しています。今年は『NieR:Automata Ver1.1a』『アリス・ギア・アイギス Expansion』『アイドルマスター ミリオンライブ!』『アークナイツ【冬隠帰路/PERISH IN FROST】』などがありましたね。劇場版としては『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』も話題を席巻しました。Netflix発アニメ『悪魔城ドラキュラ -キャッスルヴァニア-: 月夜のノクターン』は、テーマ曲がバチバチに「乾坤の血族」のアレンジなのでファンは要チェックです。あとは『ポケモンコンシェルジュ』の公開がまもなく(12月28日)ですね。
アニメ『ライザのアトリエ ~常闇の女王と秘密の隠れ家~』は、シリーズ1作目の序盤のストーリーをじっくりと追いかけるような内容でしたが、ひと夏の冒険というテーマに特化したうまい切り取り方だったと思います。変身バンクみたいなキメキメの調合シーン、好きでした。
三月のパンタシア・みあが歌うこのオープニング曲の作編曲を手掛けたのは、シンガーからアニメーターまでマルチな顔を持つボカロPのはるまきごはん。代表作「メルティランドナイトメア」は『CHUNITHM CRYSTAL PLUS』など多くの音ゲーに収録されています。ほかにゲーム系では『プロセカ』にキタニタツヤとの共作「月光」を、リミックスコンピ「Electronica Tunes -FINAL FANTASY Series-」には『FF13』の「色のない世界」のアレンジを提供しています。
ピアノとフルートに、有機的なクラップでリズムが特徴付けられた三拍子。サビでタイトルを歌うフレーズの部分だけリズムのアクセントが変化するのが気持ちよくて好きです。このフォルクローレ感は原作の音楽性も参照しているのでしょうか。世界観と調和する瑞々しいサウンドでした。
RHYTHM CONNECT / TRIANGLE (AZK・櫻井海亜・山北早紀)【太鼓の達人 RHYTHM CONNECT】
そろそろ音ゲーの話をしていきます。『太鼓の達人』の新展開、11月1日にリリースされたスマホ向けタイトル『太鼓の達人 RHYTHM CONNECT』のテーマソングです。
来ましたね、シティポップ系シンセファンク。アジア圏へのリーチを意識しているからこそのこの曲調なのでしょう。去年「プラスティック・ラブ」と「真夜中のドア/Stay With Me」がゲームに収録されたときもひとりで大騒ぎしていましたが、そこから地続きの展開と自分は受け止めました。
今年のゲーム音楽界もシティポップの熱気がまだまだありました。『アークナイツ』大陸版の夏イベント楽曲「Misty Memory」(「火山旅夢OST」収録)、『STONKS-9800: Stock Market Simulator』トレーラーで使用された「愛 Need You」、『Flipwitch』BGM「Tengoku Love」などなど。ただ、どれも日本を意識していながら海外発の展開だったのが個人的には悔しさも感じていました。
そこへバンナム所属コンポーザーからこれが新曲として放たれるアツさといったらもう。熱賛激賛の思いです。最高ですありがとうございます。
Gunners in the Rain / Mili【Deemo II】
そらMiliもシティポップやりますって。マジで衝撃でした。
『ワールドフリッパー』『魔法使いの約束』への楽曲提供、『Library Of Ruina』への参加に続き、『Ender Lilies』では全編のBGMを担当するなど、ゲーム音楽界で目の離せない存在となっている多国籍音楽ユニット・Mili。昨年10周年を迎え、リリースされたアルバム「Key Ingredient」にも「A Turtle's Heart」のリアレンジが1曲目に収録されましたが、Miliにとって『Deemo』は活動の軸であり原点です。そのホームで、尚新しい音楽性を打ち出してきていることに震えます。
湿度の高いカッティングギターがアダルトコンテンポラリーな香りを醸すミドルナンバー。静かに立ち止まるようなサビの物憂げなトーンと、終わりに被さってゆっくり歩き去るようなギターの対比が好きです。
I'm a Loser [2023] / 樽木栄一郎【GUITARFREAKS 9thMIX & drummania 8thMIX】
古参音ゲーマーにはショッキングな事実を伝えることになるのですが落ち着いて聞いてください。「I'm a Loser」が『GUITARFREAKS & drummania』に収録されてから今年で20年(ここで意識を失う)が経ちました。その曲名から一部界隈でミーム化し、すっかりクリスマスの定番ソングとなった本楽曲ですが、まさかの20周年記念でこの季節に合わせて新バージョンがリリースです。これは最早勝利では。
昨年、『beatmania APPEND YebisuMIX』初出曲の新ミックス「Ain't It Good (Goo Goo Garage Mix)」がリリースされたことも記憶に新しいですが、今年は「I'm a Loser [2023]」と来ましたか。
原曲からBPMが下がり、アシッドジャズ感マシマシで艶のあるグルーヴに。ひとりの夜にさらにしっとりと寄り添うこと請け合いでしょう。今年は、貴方の知り合いや友人ももれなく「I'm a Loser [2023]」を聴いています。普段はあどけない顔して世間話してるあの娘も「I'm a Loser [2023]」を聴いています。
Perfect Night / LE SSERAFIM【Overwatch 2】
K-POPでガラージの波が来てますね。『JUST DANCE 2024』の収録曲リストにJung Kookの「Seven」があるのを見て大変にっこりしました。
LE SSERAFIMは日韓混合の5人組。『Overwatch 2』とのコラボ楽曲「Perfect Night」は韓国の音楽制作チーム13(シプサムズ)が作編曲を手掛けています。音の詰まった現代EDMの潮流から離れ、トラップやベースミュージックとも方向性の違う軽やかなツーステップです。ウェットなギターもAOR的な落ち着いた雰囲気がありますね。
今年の『Overwatch 2』関連楽曲でいえば、MFSの曲「BOW」がキリコのテーマとして使われていました。Submerseによるジューク/フットワーク系リミックスが個人的に激アツです。
『League of Legends』のK/DAしかり、ゲームのシーンと接続して音楽プロデュースが行われ、世に広がっていくのを見るのは楽しいですね。音楽性が単純に好みなのもあり、K-POPには引き続き注目しています。
Condensed Milk (NGA Remix) / cyber milk ちゃん【Bomb Rush Cyberfunk】
8月にTeam Reptileよりリリースされた『Bomb Rush Cyberfunk』収録曲。強めの『JET SET RADIO』(夢)世界で強めの長沼英樹(現実)カットアップファンクが流れたりもするゲームなのですが、そのミュージックリストの中でひときわ異彩を放っていたcyber milk ちゃんの曲「Condensed Milk」のリミックスです。『Cyberpunk 2077』の「PONPON SHIT」の時にも感じましたが、(海外からの)日本のポップスを見つめる視線みたいなものが垣間見えて面白いです。どうアンテナを伸ばしてこの曲をキャッチしたのでしょうね。ビンビンすぎでしょ。
原曲のチルホップとは打って変わってのフューチャーハウス。四つ打ちに付点8分の歪みベース、エナジェティックなシンセリフや後半トラップっぽい流れもあって、その上をずっとウィスパーのふわふわチョップが飛び交っているのが相当好きです。
INTERNET YAMERO / Aiobahn feat. KOTOKO【NEEDY GIRL OVERDOSE】
ラストです。この曲を語らずに2023年終えられません。
『NEEDY GIRL OVERDOSE』の1周年記念として3月にリリースされた、「INTERNET OVERDOSE」に次ぐAiobahn×KOTOKOによるインターネット礼賛毒電波バイラルソングです。Aiobahnといえば、秋に『ブルーアーカイブ』に楽曲提供したことでも話題になりましたね。余談になりますが、今年やっとのこさサントラに収録された「Unwelcome School」のガバリミックスが彼のYouTubeチャンネルにアップされているので、先生方におかれましてはぜひご確認いただければと存じます。
前作のユーロビート+ハードベースからシンセウェイヴ+ガバになっても躁鬱っぷりは健在で、むしろ落差が増して境界も薄れていっています。最高になった後なんてほぼハッピーハードコアです。走馬灯のようにスラングを撒き散らしながらビルドアップして突き抜けていくのには笑うしかなかったです。
これだけハイコンテクストな存在が、ゲームから離れて大バズを起こしていく様を見るのは痛快でした。ただ、この曲で初めてガバキックを聴いた少年少女や、この曲をきっかけに自分が生まれる前の美少女ゲームに辿り着いた少年少女がきっといるはずで、彼ら彼女らは数年後にどんな歪みを開花させているのでしょうか。ああ見たい。自分はこの曲でインターネットをやめられない理由が増えました。
今年もいろいろありましたね。みなさんはどんなゲーム音楽と出会いましたか。よかったら教えてください。
自分はこの年末に「怒首領蜂最大往生 輪廻転生 -再生録-」と「404 GAME RE:SET -エラーゲームリセット- Memorial Album」を買って、「Nintendo Switch ポケモン スーパーミュージック・コレクション 3タイトルセット」を予約しました。あとはSteamのウィンターセールと向き合いながら過ごそうと思います。今年もありがとうございました。