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工芸品の魅力を伝えるしごと。

工芸品を販売する仕事は、奥が深い。挑戦の連続である。
手作業で作られるものや自然素材を使用したものには、その特性ゆえの難しさがある。

例えば、麻で作られた下着。ある商品は、数回の使用で穴が空いてしまうことがあった。この問題は、素材の特性と製造過程に起因するものだ。
麻の生地は元々硬くてチクチクするのが特徴。それを下着として快適に使えるように滑らかな生地に仕上げるため、どうしても強度が弱くなる。
また、通気性を高めるために生地が薄く作られている部分があるのも原因のひとつだ。
さらに、麻はその年の気候や育成環境によって品質が変わり、工場の環境も影響する。結果として、初期不良と見られる現象が発生する年もある。

同様のことは陶器などの工芸品にもある。美濃焼のお皿でも、割れやすい年がある。その原因は、その年の天気による土の状態や窯の温度など、さまざまな要因が絡み合っている。一見同じ商品でも、自然素材や手作業が多く関わる工芸品では、同じ強度や仕上がりを保証するのが難しい。これこそが、工芸品の個性でもあり、魅力でもある。


しかし、これをお客さんにどのように伝えるかが課題だ。
工芸品は手作業ゆえに色味や形、風合いがひとつひとつ異なる。
その揺らぎや違いも”味”と捉えていただける場合もあれば、不良品と感じられることもある。特に全国に展開する店舗では、多くのお客さんが平均的な品質や規格に基づいた期待を持って来店される。

地方の小さな工芸品であれば、”出会い”として受け入れられることも、大型店舗ではクレームとなることが少なくない。


例えば、木製の置物。木の乾燥具合や環境によって木が反ったり小さなひび割れが生じることもある。これは自然素材の特性であり、同じものが二つとない証でもある。しかし、説明がなければ不良品と捉えられることもある。
このような中で、いかに工芸品の背景や魅力をお客さんに伝えられるか。いかに”個性”として楽しんでいただけるか。それが工芸品を販売するスタッフとして最も考えなければならない点だ。

難しい。しかし、それ以上にやりがいがある。工芸品の価値を正しく理解し、愛着を持って使い続ける喜びを伝えることができれば、お客さんの生活に寄り添う特別な一品となる。私自身も実際に商品を使い、その良さを体感しながら、お客さんに心からお勧めできるものを届けると決めている。

工芸品を売る仕事に正解はない。同じ商品でも、お客さんごとに伝え方や感じ方が異なるからだ。それでも、ものづくりに込められた想いや、使う人の生活を彩る工芸品の魅力を一人でも多くの人に届けたい。そのために、これからも日々努力を重ね、学び続けたいと思う。

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