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【読書メモ】たった一人の分析から事業は成長する 実践 顧客起点マーケティング

昨年kindleで購入したものの積読状態になっていたので、いかんいかんと思いつつ読んでみた。

P&G・ロート製薬・ロクシタンジャポン・スマートニュースにてマーケティングディレクター/執行役員など要職を歴任してきた西口一希さん著作の本。

西口さん自身が実践の中で身につけた顧客を理解するためのフレームワークやマーケティング戦略構築の方法論がまとめられており、マーケティング担当者やマーケティングマネージャーが事業を成長させるために何をすべきなのか?良いヒントをもらえる本だと思いました。

本の中で出てくる「顧客ピラミッド( 5セグマップ)」と「 9セグマップ」という顧客分析のフレームワークや、一人ひとりの顧客に焦点を当てる「 N1分析」はビジネスを成長させる「アイデア」を開発する上で重要な方法論。現場でスモールスタートでも活用できるものだと思います。

本記事では特に興味深かったポイントをまとめておきたいと思います。

①「顧客起点マーケティング」は一人の顧客を起点にビジネスを構築する 

P&Gの経営危機を立て直した当時CEO
A・G・ラフリー氏の「Consumer is Boss」というメッセージのとおり顧客こそがボスであると考える。

「顧客は誰なのか?」「顧客にとってどんな意味があるのか?」を一貫して問いかけて、組織全体で意識の向け先を変えていく。

②マーケット全体を顧客セグメントに分類し、可視化・定量化する 

マーケティングが投資対象とする顧客全体の人数や構成比(%)を正しく把握するため、ビジネスの対象とする顧客を5つに分解する「顧客ピラミッド」のフレームワークを活用する。

この、顧客を複数のセグメントに分類した図をこの本の中では「セグマップ」と称している。

顧客ピラミッドは別名「 5セグマップ」と呼ぶ。さらに、ブランド選好度の軸を加えて顧客全体を9つに分解する「 9セグマップ」のフレームワーク。上記を用いて販売促進とブランディングを同時に可視化する。

出所 たった一人の分析から事業は成長する 実践 顧客起点マーケティング
出所 たった一人の分析から事業は成長する 実践 顧客起点マーケティング

③N1分析から「アイデア」を生み出し、定量的に検証して投資する

一人の名前を持つ具体的な顧客、〝 N=1〟を徹底的に理解する。

名前の見えない複数の誰かではなく、実在する一人のお客様に会って、ブランドとの初めての出会いからこれまでの経験に丁寧に耳を傾ければ、購買行動とその行動を左右する深層心理の関係が有機的に繋がる。その深い理解と共感を通じて、ビジネスを成長させる(※)。

※補足
本書の中で西口さん自身が直接カスタマーにヒアリングしていることが分かる描写がいくつもありました。ex.Smartnews時代はアプリを利用している奥さんからプロダクト・コミュニケーションアイデアの着想を得ていたり。

前述のフレームワークを活用して、特定の顧客セグメントから一人を抽出して「 N1分析」を行い、購買行動を左右する言語化されていない深層心理のニーズをつかんで「アイデア」を開発して、定量的な検証も行って打ち手を検討していく。

実施したら、結果的にセグメントが狙い通りに動いたのか、各セグメントの人数や構成比(%)を確認して、評価。顧客分析のフレームワークは、一度作成したら定期的に数字を更新し、継続的に運用していく。

④顧客ピラミッド活用の一連の流れ 5ステップ

1.顧客ピラミッド作成 
誰でもできる簡単な調査で顧客を5つのセグメントに分解 

2.セグメント分析
行動データと心理データから各セグメントの基本的な顧客特性を分析 

3.N1分析
セグメントごとの「一人の顧客(N=1)」にインタビューして、認知や購買のきっかけと深層心理を分析 

4.アイデア創出
N1分析を元に、その顧客の行動と心理状態を変える「アイデア」を考案 

5.アイデア検証
「アイデア」をコンセプトに変換し、定量的調査でポテンシャルを評価して実践し、顧客ピラミッドの動きを確認していく。

⑤マーケティング上の「アイデア」は、独自性と便益の組み合わせ

そもそもマーケティングの4Pを考える前に、この「アイデア」を明確にすることこそが、最も重要。「アイデア」は具体的なN1から得られる。

「アイデア」を端的に定義すると、「独自性」と「便益」の四象限で表すことができる。

出所 たった一人の分析から事業は成長する 実践 顧客起点マーケティング

独自性と便益を兼ね備えた「アイデア」があるかどうかが、マーケティング上で最も重要な要素。

便益とは、顧客にとって都合がよく利益のあることを意味する。ベネフィットやメリットとも表されますが、それを利用することで得られる有形、無形の価値であり、「便利、得、有利、快、楽」などがある。

⑥マーケティングにおける独自性とは比較優位性ではない

マイケル・ E・ポーターが著書『競争の戦略』で使用した言葉で、本来は独自性を意図して提唱されていますが、一般的には、競合と同じ便益において「〜がより高い、強い、優しい、うるおう、清潔に……」などの比較優位性の意味だと誤解されている。

独自性がなく、比較優位性のみであれば、独自性×便益四象限のコモディティに近い状態で戦っていることになり、ポーターが提唱した元々の差別化の意味とも異なる。

⑦「プロダクトアイデア」と「コミュニケーションアイデア」は異なる  

商品やサービスそのものとなる「プロダクトアイデア」と、商品やサービスを対象顧客に認知してもらうための手段である「コミュニケーションアイデア」がある。

「プロダクトアイデア」を創出するのは簡単ではありませんが、独自性と便益を両立する「アイデア」を創出することは、マーケティング責務の一つ。

出所 たった一人の分析から事業は成長する 実践 顧客起点マーケティング

⑧「プロダクトアイデア」の早期認知形成が強いブランドを創る

マーケティングにおいて重要な「プロダクトアイデア」と「コミュニケーションアイデア」に加えて、マーケティングが成功する上で、もう一つ重要なことは早期の認知形成。

強い独自性と強い便益を伴った「プロダクトアイデア」が開発できても、模倣してきた追随者にポジションを奪われ、ニッチな類似ブランドになってしまうことは多くある。

強い「プロダクトアイデア」と「コミュニケーションアイデア」に加えて「ターゲット顧客での早期の認知形成」が成功の3要素だと言える。

⑨ブランドの成長ポテンシャル3つ

1.そもそも知らない(未認知) 
マーケティング投資対象のターゲット顧客層と訴求内容の見直し。メディア戦略(選択や投資量)の見直し(特にマスメディアを使用しない場合の認知形成は限定的になりがち)。

2.知っているが買う理由や動機がない(未認知かつ未購買)
ターゲット顧客層と訴求内容の見直し(「プロダクトアイデア」の問題か、「コミュニケーションアイデア」の問題かを見極めて「アイデア」を強化する) 。

便益に対して価格が適切かどうか見直し(許容される価格を見極めて改定) 。

そもそものプロダクトアイデアの改良(独自性がないのか、便益がないのか、四象限で精査し強化する) 

3.知っていて買いたいが販路がない/わからない(認知かつ未購買) 
販路自体の拡大強化、もしくは、どこで買えるのかという販路自体の認知形成の強化。

⑩顧客ピラミッドを作成し、セグメントを特定した上で N1を抽出する 

顧客ピラミッドを作成しその商品やサービスの顧客層全体を、次の5つにセグメント分類する方法。

・ロイヤル顧客 
・一般顧客 
・離反顧客 
・認知・未購買顧客
・未認知顧客

マーケティングの投資対象である潜在顧客層を含めてターゲット全体を包括的に捉えているので、現在の顧客だけでなく、離反顧客や、認知はしているものの一度も買ったことがない未購買者、またブランドの未認知者も含める。

⑪行動データと心理データから顧客化、ロイヤル顧客化の理由を見つける 

行動データは、その分析を通じて、最適なタイミングで最適なマーケティング提案を行うことで、売上や利益に貢献していく。

特に EC事業や単品通販業界は、顧客の行動データを詳細に分析し、リアルタイムで ABテストを繰り返しながら、利益性の高いビジネスを構築しています。  しかし、行動データ分析だけではまだ不十分。その行動を左右する「心理的理由」を深く探る必要があるから。心理面を理由し再現性のある投資拡大を行っていく。

⑫量的調査でデータ分析する際の代表的な問い5つ

1.ブランドの認知(ブランド名を知っているかどうか) 

2.ブランド選好度(そのブランドを買いたい、または使いたいと考えているか)

3.属性イメージ(形容詞や修飾語や擬人的表現で、どのように認識しているか、どのような機能イメージや便益属性を感じているか) 

4.メディア接触(マスメディア、 SNSなどのデジタルメディア含めて、通常のメディア接触習慣や信頼度) 

5.広告の認知経路(いつ、どこで、どんなメディアや機会を通じてブランドを認知したのか、ブランドイメージを形成したのか)

⑬N1分析の重要性とアイデアの手がかりを探さすこと

実在のロイヤル顧客の話を徹底的に聞いて、本人が自身を理解している以上にこちら側が理解するくらいの N1分析を行う。

本当にお客様の心を捉える商品企画やコミュニケーション提案は、具体的な名前をお持ちのN1起点、N1分析で進めることこそが絶対に必要。

ロイヤル顧客 10人にN1分析を行い、一人ひとりのカスタマージャーニーを描けば、ブランドとの初めての出会い、認知、初回購買(使用)、継続購買、購買頻度の変化が十人十色で見えます。

ピラミッドで言えば、下の層から上の層へどう移行していったかがわかります。それは広告訴求だったり、ブランドの使用体験、口コミだったりするが、重要なのは、どんな「アイデア」 =独自性と便益を感じ取ったかです。   

N1インタビューで、思わず驚く、笑ってしまう、信じがたいと思えるような事実がその手がかりです。聞いたことがあるな、想定通りだなと思えるような既視感のある話や予想の範疇に入る内容には、手がかりはありません。

「アイデア」の手がかりは、これまでに聞いたことや見たことのない、特殊だったり非常識だと思えるような使用目的や使用方法や場面、商品に関連する個人的な経験や心理状態にあります。

ここから独自性を抽出し、そこで得られる便益を明示することで「アイデア」となるのです。 ロイヤル顧客から、想像していなかったような特殊なきっかけや事実を見つけられたら、それを具体的な便益との組み合わせで「アイデア」化し、一般顧客やほかのセグメントに拡大して再現することで、セグメント全体の上位への移行を促せる可能性が高い。

「アイデア」創出のために有効な調査は、統計学とは違います。確かに大まかな傾向や差を知るには、一定の N数が必要ですが、大量な人数を調査するほど「アイデア」がつかめるというのは誤解。具体的なN=1の個人レベルまで徹底的に深堀りしなければ、マーケティングの成果は望めない。論理だけで突き詰めたマーケティングには限界がある。

⑭アイデアをコンセプトテストにかけて再現性を確認する

その「アイデア」に再現性はあるか「アイデア」の候補が複数見つかれば、具体的なコンセプト立案として、コンセプト受容性を見定めるための量的調査でのコンセプトテストを推奨。

⑮そもそもコンセプトとは何か?

コンセプトとは、「独自性と便益(アイデア)」 +「価格と商品・サービス情報」を指す。
顧客ピラミッドの各セグメントにおいて、このコンセプトに対する購買(使用)意向、独自性を感じるかを5段階評価で簡単にスクリーニングすれば、およその可能性はセグメントごとに見えてきます。

最後に
記事上は割愛しているものの、本書ではブランディング(認知)まで含めて成果は計測可能で投資対象として科学的に議論できると述べられています。

ブランド全体を統括する方が本書の方法論と戦略構築を実践できると利益のトップラインを上げる動きを加速させることができると思いました。

今の自分の業務領域から考えると1段、2段上の視点の仕事だなと思いつつも活用できる内容は組織内で実践していきたいと思います。

テクノロジーの進化だけに囚われず、顧客の行動と心理を読み解きつつ仕事に励んでいきたいと思いました。



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