図書館にすすめ 遊学紀行3
はじめに
最近、図書館を利用したのはいつですか?
数年、あるいは数十年図書館を利用していない社会人の方も多いのではないでしょうか。
「本なんて読まないから」
こういう人も少なくないと思います。
私自身も小学校~高校の図書館を利用する機会はほとんどありませんでした。
図書館を利用するようになったのは、大学に入学した以降の話です。
充実した大学図書館というものは大学生が読みたいものは大抵揃っています。大学図書館というのは比較的遅い時間まで営業している場合が多く、閲覧デスクも大きく勉強する環境としては最適です。
また、広大な大学図書館の本棚は歩き回って見るだけでも楽しいです。
今回は勉強方法の一つの提案として遊学紀行シリーズの記事を書いていきます。
まずは方法論に入る前に概念的な話からさせていただきます。
図書館とは何か。
図書館というのは単なる書籍等の保管場所ではありません。絵本から学術書まで、体系的に整理された知の集積所であり、同時にそれらを自由に探索できる開かれた空間です。
図書館の持つ機能は大きく三つあります。
まずは書庫としての機能。書籍の収納、整理、そして検索しやすくすることで、私たちは必要な知識に効率的にアクセスできます。図書館では書籍管理にNDC(日本十進分類法)という体系的な分類コードを採用しており、これにより関連書籍の検索が容易になっています。
次に読書室としての機能。静かで集中できる学習環境の中で、じっくりと本と向き合うことができます。
そしてレファレンスサービスとしての機能。司書による専門的な情報探索支援により、利用者は求める資料や情報により確実にたどり着けます。「こんな内容の本を探しているのですが…」「この分野について調べたいのですが…」といった相談に対して、司書が専門知識を活かして最適な資料を提案してくれます。
現代は電子化が進み、書誌情報へのアクセスが容易になっています。だからこそ、信頼できる情報源を提供し、体系的な学びを支援する場所として、図書館の価値に気づくべきであると考えています。
私も含めて、金銭的な事情などから個人で大容量の書斎や本棚を所有している人はなかなかいません(たまに本棚に全振りのお家紹介みたいなものをメディアで見かけますが、かなり特殊な例だと思っています)。
「電子書籍で良いじゃん」
という考え方を持つ方も多くいますし、実際、保管場所という観点からいえば電子書籍としてタブレット端末やスマートフォンに書籍が入っているというのはかなり有用だと思います。
しかし、現代ではすべての書籍を電子化できているわけではありませんし、書棚にズラっと書籍が並んでいるところで、「この本おもしろそうだな」と手に取ってみる体験は、決して電子書籍では味わえません。
これは電子辞書と紙の辞書を比べた時の違いにも似ています。
書棚での一覧性の高さや、偶然目に入った書籍からインスピレーションを得られる感覚は、図書館ならではの価値であり、それはスキルとしての側面も持っています。このような感覚を養える場所として、図書館は唯一無二の存在だと考えています。
何から読めばよいのか
図書館という知の集積所を最大限に活用するには、ある程度の方法論を知っておく必要があります。ある程度専門的な学びをしたい場合、どの本から手をつけていけばよいのか迷うことも多いでしょう。
本の種類
まず注目したいのは、図書館に所蔵されている資料の性質です。
大きく分けると専門書と一般書があり、これらは明確に異なる特徴を持っています。
専門書は研究者や専門家による執筆で、参考文献や注釈が充実しており、学術的な検証を経ています。
一方、一般書は最新のトピックスや実務的な知識を得るのに適していますが、時として十分な検証を経ていない情報が含まれることもあります。
学びを深めるためには、まず専門書で基礎的な理解を固めることをお勧めします。
ただし、いきなり難しい専門書に取り組むのではなく、入門書から段階的にアプローチしていくことが重要です。
図書館のNDC(日本十進分類法)による分類は、同じ分野の様々なレベルの本を探すのに役立ちます。
入門書を読む際は、一冊に限定せず、複数の本を比較しながら読むことで、その分野における多様な視点や解釈に触れることができます。この過程で、基本的な用語や概念を着実に理解していくことができるでしょう。わからない点があれば、図書館司書に相談するのも有効な方法です。司書は専門的な観点から、あなたのレベルや目的に合った書籍を提案してくれるはずです。
特に入門書は新書であることが多いです。新書とは細長いフォーマットの本のサイズのことで、有名な新書の出版社には岩波新書、講談社現代新書、新潮新書、ちくま新書などがあります。比較的シンプルな表紙デザインで、出版社ごとに統一されているのが特徴です。
では、実際に入門書を探してみましょう。
例えば私がこれから哲学を学ぶなら
今から”哲学”を学びたいと思ったとします。
その場合、どこから手をつければ良いでしょうか?
私ならば・・・
まず、国立国会図書館で「哲学」と検索します。
105,875件がヒットしました。
多すぎます...
これでは読みたい本を特定できません。
次に
NDCで哲学がどう分類されているのか見てみましょう。
この表から哲学がNDCコードで100~139に分類されているのがわかるかと思います。
倫理学も広義の哲学だろうというツッコミはなしでお願いします。
100哲学、110哲学各論、120東洋思想、130西洋哲学とかのキリの良い数字は、その分野の概念的な書籍であることが多いです。
今回、私は哲学初学者の設定ですので、検索項目にNDC100を追加します。
1,438件でさっきよりだいぶマシですが、まだ多いです。
もっと絞ってみましょう。
次に検索ボックスに「哲学 新書」といれてNDC100で検索してみましょう。
検索結果88件!いい感じです。
ここまでくれば哲学初学者でも読みたい本の検索ができるでしょう。
読みたい入門書が複数決まったら自分の自治体の図書館なりで検索して所蔵してあれば借りてみましょう。
入門書を10冊も読めば入門書の良し悪し(入門書と書いてあっても難解なものもたくさんあります)、自分に合うかどうか、自分が次に何を読んで学べよいのかわかってくるはずです。
入門書の次は
ある程度入門書で基礎を固めたら、次は教科書や専門書に進みます。
ここで重要なのは、最初から通読しようとせず、まずは事典的に使うという姿勢です。
例えば、入門書で興味を持った概念について、教科書や専門書でより詳しく調べる。
このように、徐々に理解を深めていく方法が効果的です。
図書館での学習では、読んだ内容を適切に記録することも重要です。
静かな環境の中で、じっくりとノートを取ることができるのは図書館の大きな利点です。特に意識したいのは、書籍の内容と自分の解釈を明確に区別することです。
重要だと感じた箇所は、出典とともに正確に記録し、それに対する自分の考えは別途書き留めておくようにしましょう。
現代ではデジタルツールの活用も有効です。タブレットやノートPCを使って効率的にメモを取り、後で整理することができます。
ただし、図書館という実空間での学びの価値を忘れてはいけません。書棚を実際に歩き回り、手に取った本をパラパラとめくることで、思いがけない発見が得られることもあります。
このような偶然の出会いは、デジタルだけでは得られない図書館ならではの魅力です。
また、図書館の書棚配置を活用すると、関連する分野へと自然に視野を広げることができます。
例えば、哲学に興味を持って調べていたら、隣はだいたい心理学や宗教です。
そうしたら次は心理学の棚をのぞいてみる。
このような分野横断的な探索が、より深い理解と創造的な思考につながっていきます。
自分の生活に図書館を
図書館での学びを深めるためには、定期的に通うという習慣作りも重要です。
多くの公共図書館は、平日は夜遅くまで、休日も終日開館していることが多く、自分のライフスタイルに合わせて利用することができます。
例えば、仕事帰りに立ち寄って1時間でも読書の時間を作る、週末の午前中を図書館で過ごすなど、自分なりのリズムを見つけていくことをお勧めします。
ただし、完璧主義に陥る必要はありません。
図書館での学びは、あくまでも自分の知的好奇心を満たし、視野を広げていくためのものです。
一度中断しても、また再開すればよい。
むしろ、様々な分野に興味を持ち、時には「三日坊主」的に新しいテーマに手を伸ばしてみることも、知識の幅を広げる上では有効な方法です。
図書館には、その静謐な空間ならではの集中力を高める効果があります。
しかし、ただ黙々と本を読むだけでなく、得た知識を自分の中で咀嚼し、自分なりの考えを深めていく場としても活用できます。
コミュニティに参加してみる
図書館の閲覧席で、読んだ内容について、持ち帰って家族に話してみるとか、友人に話してみるとかアウトプットの機会を持つことで、さらに深い学びが得られるはずです。
また、多くの図書館では定期的に読書会や講演会などのイベントも開催しています。
これらに参加することで、同じような知的関心を持つ人々と出会い、対話を通じて新たな気づきを得ることもできます。知識の共有や意見交換は、自分の理解を深め、新たな視点を得る貴重な機会となります。
まとめ
図書館での学びは、必ずしも具体的な目標や成果を求めるものである必要はありません。
時には、ただ書棚の間を歩き回り、気になる本を手に取ってみる。そんな探索的な時間の使い方も、知的好奇心を刺激し、予期せぬ発見をもたらすことがあります。
興味深いのは図書館という場所が持つ「時間の重層性」です。
古い年代の本から最新の研究書まで、さまざまな時代の知識が一堂に会している空間は、私たちに広い視野と深い洞察をもたらしてくれます。
デジタル時代だからこそ、このような実空間での学びの価値は、むしろ高まっていると言えるでしょう。
図書館は、単なる本の保管場所ではありません。
それは、私たちの知的成長を支え、新たな可能性を開く場所といえます。
日々の生活の中に、図書館での学びの時間を組み込むことで、より豊かな知的生活を築いていくことができるでしょう。
そして何より、図書館という場所には、知の探求を共にする仲間との出会いが待っているかもしれません。
同じような興味を持つ人々と知識を共有し、対話を重ねることで、学びはさらに深く、豊かなものとなっていくはずです。
図書館を活用した学びは、生涯にわたる知的冒険の出発点となります。
その一歩を踏み出すために、まずは近くの図書館を訪れてみてはいかがでしょうか。
きっと、あなたの知的好奇心を刺激する何かが、そこで待っているはずです。
あとがき
図書館大好き人間として、日本の行ってみたい図書館があるので少しだけ紹介させていただきます。
2022年7月にオープンした比較的新しい大型公共図書館で、金沢市にあります。
同じく金沢市には金沢海みらい図書館というこちらも比較的新しく斬新なデザインの図書館があります。
県立図書館、市立図書館両方に魅力のある図書館を兼ね備える石川県金沢市の図書館への教育的投資が恐るべしという印象です。
金沢に旅行に行った際には立ち寄りたい場所ですね。
行ってみたい図書館の紹介が終わったところで、私にとっての人生での学びにおいては図書館での学び、書籍での学びというものは切っても切れない関係にあります。遊学紀行にて図書館の活用法について話せたのは、現代の活字離れや図書館離れに警告とまではいきませんが、図書館の啓蒙活動としては意義のあることであったなら嬉しいです。
図書館論ではありませんが、いずれ読書論としてショーペンハウアーの『Parerga und Paralipomena』の2巻 第24章 「読書と書物について」も紹介する機会があったら良いと思います。
最後まで読んでいただきありがとうございました。