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もみじの手ぎゅっと握った日は遥かバックミラーに映る秋夕焼

【はなのうた】

うちから会社に通っていた娘が転勤になった。しかしうちからも通えない距離ではなく、すぐには引っ越さなかった。会社からは交通費が出るし、しかも新幹線通勤も認められて今時の会社はエライ親切。ほんとに新幹線で行くような距離じゃないのに。もう引っ越さなくてもよいのでは…?

バスと新幹線を乗り継いでうち(実家)から通うか、それとも会社に近い場所にアパートを借りるか。無論アパート代も住宅手当が出て70%は会社負担だ。(会社員てスバラシイ)

恐らく会社としては、新幹線の交通費VS住宅手当は同じくらいなのだろう。どちらでも好きな方をと。だから娘はお金以外のことも色々と考え合わせ、半年くらい熟慮の末(笑)ついに引越して行ったのだった。

*

娘が家を出ていくのは2回目だ。
1回目は県外の大学に通うため。18歳の時だった。
大学の近くの安い学生アパートを一緒に探して家財道具を揃え、近所のスーパーや駅やバス停やゴミ捨て場などのチェックも欠かさず、まるで自分が大学生になり独り暮らしを始めるようなウキウキ気分で引越しを手伝った。

だけどこんなウキウキ気分になるまでには葛藤もあった。
大学に合格したことは嬉しかったが、娘とはもう一生、一緒に暮らすことは無いかもしれない。大学を出たらどこかの街に就職をして、どこかの誰かと結婚をして……。考えないようにしてもチラっと頭をよぎり、車を運転しながら寂しくて号泣するなどしていた。
あぁ、私はあまり出来の良くない親だったなぁ。うまくできなかったよ。ごめん。

*

しかし、娘はうちに帰ってきた。
まぁいろいろあって割愛するが、とにかく帰って来たら来たで厄介である。嬉しい気持ち30%くらいに留め、今からでも遅くない、反省を踏まえて出来のいい親を目指してがんばろうと思った。がんばり方もわからずに。


子育ての本はなぜ途中で終わるのか。青年期という壁のことを知らなくて、私の失敗は続く。

『見守る』というのは本当に難しい。つい手を出し口を出したくなる。子どもが転ばないように、笑われないように、怒られないように、迷惑をかけないように。。。もう立派な大人の娘の何がそんなに心配なのか?まだ何を教育しようと?ウザいって。わかってる。

「心配心配って言えばいいと思ってさ!」

好きにしたいなら私の目の届かないところでしてくれ。
ウザ干渉を自制して口を出さず、しかし放置もせず『温かく見守る』というストレスよ。

そうして親も子もだんだん嫌気がさしてきて「出ていく」ってなるのはある意味健全で、いまが自立のタイミングなのだと諦めることにする。

今度こそ、もう一生一緒に暮らすことはないかもしれない。

引越しも会社が費用を出してくれるって。業者が来て荷物を運び出し、部屋は空っぽになった。私は何も手伝うことがない。

*

車の運転中は、やはり考えないようにしても考えてしまう。
親だからってカッコつけて心配だとか言ってたけど、言葉のチョイスを間違えた。心配ではなく大切って言えばよかったんだ。嫌気がさす時があっても本当は大好きなんでしょ?大人になって離れていくのが寂しかったんでしょ?

ふとバックミラーを見ると、秋の夕焼けが美しく燃えている。思いがけない励ましに背中が温かく感じられる。後ろは見ないけど、バックミラーならこっそり見てもいいよね。

あの夕焼けの中にかつての私がいる。
「車が来たら危ないよ」
駆け出したくてうずうずしている子の、もみじのような小さな手をぎゅっと握って離さないように気を付けている、かつての私が。


もみじのて ぎゅっとにぎったひははるか
バックミラーにうつる あきゆやけ

はなのうた



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