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消えた後に残るもの〜柴田元幸➕大竹雅生『鍵のかかった部屋』 増刷記念セッション

柴田元幸➕大竹雅生『鍵のかかった部屋』 &『幻影の書』増刷記念セッションに行ってきた。
場所は三軒茶屋のブックカフェ、トワイライライト。

学生の頃から大好きなポール・オースターが亡くなって4ヵ月が経ち、そろそろきちんと悼む機会を持ちたいと思っていた。
折りしもユリイカから特集本が出たと知り、あわててネットで注文。
ついでにオースターについてネット検索していて見つけたのが今回のイベントだった。

「大竹さんのギターにのせて柴田さんの朗読を聴けるなんて!」と心踊るも束の間、すでにイベントは2日後に迫っており、当然、定員に達している。
がっかり。そういえば同日はオザケンのライブの日。こちらもチケットを取れなかったのだった。

とはいえキャンセル待ちを受け付けてくださっていたので、ダメ元でメールを出しておいた。それが前日、席が空いたとご連絡いただき、文字どおり飛び上がって喜んだ。

当日は台風の影響で大雨の予想もあったが、朝起きるとその気配もなく、
交通機関もきちんと時間どおり動いていた。

初めて訪れたトワイライライトは細い入り口のビルの3階にあった。
誰もが近所に欲しいと思うようなブックカフェだ。

ドリンクを飲みつつ開始を待っていると、やがて何気なく大竹さんが席につき、すーっと演奏を初める。一瞬でその場の空気が変わり、続いて登場した柴田さんが『鍵のかかった部屋』の冒頭を朗読し始めた。

人生はわれわれの力の及ばぬやり方でわれわれを引きまわし、……そして死は毎日のようにわれわれの身の上に起こるのだ。

最後に読み上げたこの一節が、その場にいたすべての人の心に沁みていくようだった。

柴田さんの朗読、久々に聴いたけれど、言葉一つひとつの存在感が際立つような読み上げ方で、その場面の状況をくっきり思い浮かべることができる。温かみのある声と、ちょうどいい抑揚感。聴いていてすごく心地良い。朗読っていいなあ。
それに大竹さんのギターの演奏が加わると、たちまち特別な雰囲気が作られて、聴き手はその中に没頭するしかなくなる。時間も空間も無くなって、ただそこに存在し、物語の中に引き込まれる感覚。

なんとも贅沢な体験だ。

柴田さんはその後、『幻影の書』と『4321』からもたっぷり朗読してくれた。

『幻影の書』の中の「トランプ52枚が全部自分に不利になるように仕組まれてたら、唯一の勝つ手段はルールを破ることしかない…たとえ取り押さえられたとしても、立派に戦ってダウンしたということ」(完全に正確な引用ではありません)という部分にぐっとくる。
オースターの、そして亡くなった人の死をそんなふうに捉えたいし、
自分も死ぬまで精一杯、抗おう、戦おうと強く思う。

その流れで朗読された『4321』の一節もまた、胸に迫るものがあった。
そして大竹さんのギター演奏もひたすら格好良かった。

後、オースターが歌手である娘さんのために書いた歌詞、
「セイラー・ガール」もとても良かったな。彼女の歌で聴いてみたい。

我々は消えてしまうしかなく、その残響もやがて消えるけれど、
その清々しさが存在する一つの価値なんだよね。

思えばこうしたイベントに参加したのは10年ぶりくらい。
やはりライブ・イベントは良いな。

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