「人を育てる」意味と取扱い方
結論から言いますと、
「教育(育成)は絶対に必要である。
しかし、教育(育成)さえすればできるビジネスなんてない」
です。
学術的に表現するならば
「教育(育成)は、必須条件ではあっても、十分条件ではない」
ということです。ですから、教育だけ推進しても実はなかなか効果が出るものではありません。よく学生の就活アンケートなどで、入社を決めた理由として
「教育が充実しているから」
と言った内容をみかけますが、気を付けてください。教育"だけ"充実している組織では得るものは少ないものです。なぜなら、その学んだ知識を活かす場がなければ、つまり『復習(実践)』できる場がなければ、あっという間に風化して何も残らなくなってしまうからです。
ここ最近、何度も載せているようにラーニングピラミッドがそれを物語っています。
教育する目的を知れば自ずとわかります。
教育はなぜするのか?
それは、その教育通りに現場業務で進めることで、
「一定の成功」
「一定のパフォーマンス向上」
が見込めるからです。何も知らないままでは、知らないがゆえに行動できません。教育によって「知識」を与えるのは、この「行動」するための準備として絶対に必要だからです。
たとえば教育したのに、現場では教育内容と異なることを求められた場合、教育した意味はあると言えるのでしょうか?
答えは「ほぼない」です。
そのため、「教育」と現場の「仕組み」は常に対になっていなければなりません。
まず、現場の「仕組み」と言う答えが用意され、その答えを導くプロセス(手順や手続きなど)を理解してもらい、実際にその通りに業務で活かしてもらうため、「教育」と言う支援プログラムが求められるわけです。
よって、現場で活かせない、活かす気がない内容の教育はまったく効果が期待できません。どんなに質の高い教育であっても、
費用対効果が出ない
のです。教育を実施することの目的が何なのか
「これから取り組むべきプロセスを理解してもらうため」なのか
「教育していることに満足したいため」なのか
きちんと明確にしておいた方が良いでしょう。もし前者が目的なのであれば、まず先に『答え』となる現場に則したルールや仕組みを構築しなければなりません。
さて、会社全体の取組みとしての教育とは別に、上司だからこそ、部下を指導する立場として「人を育てる」ことができなければなりません。
特に、プレイングマネージャーと呼ばれる人たちは、個人の成果のみならず、チームで成果を挙げることが求められます。自分ひとりが頑張るのではなく、全体としてどれだけの成果を生み出せるのか。それが問われるわけです。
そのため「人を育てる」ことも、プレイングマネージャーの大切な仕事、すなわち給与のうちになってきます。もちろん「教える」という仕事は簡単ではありません。なにせ、相手あっての仕事です。
チームマネジメント以上に大変なこともあるでしょう。
こちらがコツコツ丁寧に指導したところで、人と人の相性もあるでしょうから、必ずしも実を結ぶ保証はありません。
もちろん、他の人に何かしらの情報を伝えることは簡単です。
その行為は「教える」と呼べるでしょう。
しかし「教えた」からといって、それが必ずしも「伝わる」とは限りません。コミュニケーションとはそういうものです。相手の理解の仕方に沿う形で教えられないと、なかなか知識や情報は伝わらないものです。
最終的には、どのような伝え方がもっとも効果的なのかを考えて、それぞれの人に合わせた教え方ができるのがベストです。具体的な教え方については、それぞれの相手に合わせて考えていくのが望ましいわけですが、いくつか共通的に押さえておきたいポイントもあります。
ポイント1:怒鳴って問題を解決しようとしない
一つ目は、怒鳴って問題を解決しようとしないということです。
うまく伝わっているときは、教えている方も気分が良いものです。しかし、逆になかなか伝わらないとイライラが募ってきます。なかなか伝わらないとき、感情的に相手に怒りをぶつけ、「なぜできないんだ!」「なんでこんなこともわからないんだ!」のような修辞的疑問を発するのは是非ともやめておきましょう。
何も改善しないばかりか、相手との心理的な距離が広がってしまい、
ますます教えるのが難しくなってしまいます。
ポイント2:人はそれぞれであることを忘れない
私自身の経験から言えることですが、人はそれぞれ違います。具体的な説明を好む人、ビジュアル的説明を好む人、文章的説明を好む人、実に多種多様です。
また、ある分野については非常に物覚えがいいのに、別の分野についてはなかなか覚えられない、ということもあります。誰か一人をモデルケースにして、
「あいつなら、これでうまくやっているのに」
のような比較をするのは、非生産的なのでやめておきましょう。その発想自体、『人間』と言うものを理解していない証拠であり、逆に浅はかさを露呈することになります。
ポイント3:人は失敗する・間違える・忘れる
人間はプログラミングできるロボットではないので、一度教えたからといって相手がその通りに行動できるとは限りません。身体の中に浸透するまでに何度か失敗を繰り返すことは珍しくありませんし、一度覚えても時間が経てば忘れることも頻繁にあります。
「そんなことは一度もない!」
と言う人はまずいないでしょう。いたら、その人は完全記憶ができる人だけです。自分にできないことを、他人に強要するのはナンセンスです。
教える人は、すでに自分が簡単にできてしまっているので、それをできるのは当たり前のことだと感じてしまいますが、それは事実とはほど遠いので注意が必要です。
ポイント4:失敗から学べるようにする
人は失敗して学びます。
失敗からしか成長できません。
学校の勉強でも、テスト前に何度も設問を解く中で、何度も計算ミスや理解不良で失敗しながら、何度も何度も繰り返し反復していく中で正解をしみこませていったはずです。一度見聞きしただけで、一切のミスなく100%の理解に至る人間は存在しません。
必ず、大なり小なりの失敗やミスを繰り返して、修得していっているはずです。失敗することで、「何が失敗でないのか」(=何が成功なのか)を学びますし、そこからどうやったら失敗しないのかも学ぶのです。
ある程度先回りして、そうした失敗に陥らないコツを教えておくことも大切ですが、それ以上に、実際に失敗して、そこから学べるようにしておくことがはるかに重要です。
失敗したら、その行為を振り返って、どうすればよかったのかを考える時間を設けます。あるいは、失敗をチームで共有して問題解決にあたります。いわゆる『振り返り』、PDCAの『Check』や『Action』を指します。
そうしたことに時間が使えるならば、失敗は良質の経験へと変身します。
逆に、失敗したら目くじら立てて怒り、
「次からは注意しろよ」
「次からは気を付けるようにしてください」
とだけ言って済ませるようでは、何の経験にもなっていません。「気を付ける」「注意する」「頑張る」「努力する」と言ったフレーズでしか反省できないのは、一番最低な振り返りですので、これは是非とも避けたいところです。
ポイント5:教材やマニュアルをまとめておく
「教える」という場合、AさんがBさんに直接的に情報を伝達する、といった関係性がイメージされますが、必ずしも直接的である必要はありません。そもそも、教えるAさんが
・常に教えてくれる立場にいるとは限らない
・時間が経って、教えてる内容が変わっているかもしれない
と言ったリスクがあるので、直接的に口頭で教えるだけと言うのはオススメできません。マニュアル・虎の巻・アンチョコといった具合に、知識・情報をまとめておいて、必要に応じてそれを参照できるようにしておくことも、
間接的で、永続的な「教える」になります。
直接的に教える場合は、どうしても自分が動ける範囲でしか「教える」ことができません。これは、組織として人が増えてくると大きな問題になってきます。
また、意欲のある人ならば、どんどん自分で新しいことを吸収したいでしょうが、これもやはり直接的な教授では対応に限界があります。だからこそ、自分で学べる環境を整備しておくわけです。もちろん、直接的に教えることは有効です。特に、現場での疑問にダイレクトにフィードバックを返せるのが大きな魅力です。
ですので、そうした直接的教えを主軸としながら、それを補佐するために間接的に学べる教材やマニュアルを作っておくことのが有効でしょう。日常的に自分の知識や経験をノートにまとめているプレイングマネージャーなら、それを少し改造するだけで、他人でも使える知識ブックができあがります。
こうした観点からも、普段からノートをとっておくことをオススメします。
私は、失敗や成功をすると、必ずその原因を探りますが、その過程で、誰がやっても同じ結果を導き出せそうな
「プロセス化」
「仕組み化」
できるものについては、必ず資料にまとめるようにしています。
大抵のことはなんでもそうですが、
「他人に教えることができる」
「資料におこすことができる」
と言う時点で、既に平均的な人でも行動できるレベルで言語化することが可能なわけですから、言語化できる以上、必ず「誰がやっても同じ結果になる」仕組みとできるはずです。
そういった手続きや手順は、マニュアル化しておくと、ベテランでも新人でも、もちろんバイトであっても、同じパフォーマンスが出せるようになります。知らないことでも、書かれた通りにやってみたらなんとなく上手くいった…から、体験を経て色々学んでもらうことも可能になります。
「教える」「伝える」「指導する」というのも、コミュニケーションの一種です。相手の知的レベルにあわせて、説明の仕方を一つひとつ変えなければならないかもしれませんし、当然、一筋縄ではいきません。
それは、『お客さま』を相手にするのと同じような感覚です。
逆に言えば、"知らない人に教え、理解してもらう"と言う行為は、フロントに立って、お客さま相手に説明したり、交渉したりするスキルと変わらないわけです。
つまり、「教える」スキルが磨かれれば磨かれるほど、「客先で前面に立って対応できる」スキルが向上されるということでもあるのです。
私が、社外教育よりも社内教育を重要視する理由は、そこにあります。
社内教育が熟練されるほど、フロントに立てる人材が比例して増加するということだからです。なかなか難しい業務ではありますが、それでも先のことを考えれば、一番力を入れて取り組んでいきたい業務ということを覚えておいてください。