事実データを元にした分析や交渉では、マトリクスが使いこなせないと、論理的な説明が難しい
おっと、上の画像はマトリクス違いでしたね。いやー、懐かしい。あまり覚えてないけど。
たとえば、ある家電量販店の相談窓口にお客さまからの多様なご意見がたくさん寄せられている…そんなシチュエーションを仮定しましょう。次の定例会議では、上司や他のマネージャーたちにその内容を説明する予定です。
盲目的に箇条書きにしてもいいのですが、あまりにたくさんだと会議で説明しても、参考情報程度にしかならず、判断材料しては効果が乏しくなることが予想されます。
そこで「どんな声が寄せられているのか」その傾向がわかるように、マトリクスに書いてみましょう。
・言葉遣いが乱暴、不適切 10件
・長時間待たされる 5件
・説明が不親切 7件
・マニュアル通りの対応でそっけない 7件
・業務知識が乏しい 4件
・待ち時間に流れる音楽が耳障り 5件
・担当者間の引継ぎがよくない 3件
・声が暗くて、聞き取りにくい 6件
・電話がなかなかなつながらない 11件
・トイレが不衛生 1件
上記意見の中から適当に選んでマトリクスに反映してみてください(すべてをプロットする必要はありません)。みなさんならどんなマトリクスを作成するでしょうか。
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もちろん、先ほど書いたように箇条書きでもかまいません。が、これを見た上司や他のマネージャーたちはそこから何をどうジャッジするのでしょうか。これを報告した「目的」は何でしょう。
おそらくは、
「現状維持のままでは顧客満足度が低下するため、
改善が必要と思われる」ものについて
という議題にでもなっているのではないでしょうか。では、仮にそうだったとして箇条書きで書かれていた場合、上司や他のマネージャーたちはどんな基準に則ってジャッジしがちだと思いますか?
「指摘の多い順」ですかね?
でも、本当にそれでいいのですか?
なまじ件数が書かれているとそのように考えてしまいがちですよね。
そう言う心理が動くように件数を表示しているのですからなおさらです。ですが、これらのお客さまのご意見は件数が多いほど速やかに改善欲しい順であるとは限りませんよね。すべて同じお客さまが言っているわけではないのですから。
そこで、マトリクスの登場です。
たとえば、ごく一般的な問題解決マトリクスに当てはめるのであれば、「重要度」と「緊急性」の2軸で分析するのが自然ではないでしょうか。優先度付けをするには、最も適した軸となるからです。そうすると、
こんな感じになるのではないでしょうか。
別に「重要度 × 緊急性」にしなくてもいいのですが、4象限で傾向を見る以上、あまり偏ることなくそれなりに分散しているように見られる切り口を設定した方が見る側としてもわかりやすいし、判断もしやすくなるのではないかと思います。
こうすれば
重要度が高いもの:必須で対応する
緊急性が高いもの:優先順位を高くする
という判断ができますので、
重要度:高 × 緊急性:高 = 即対応。必達
重要度:高 × 緊急性:低 = 必達。緊急性の高いものを優先
重要度:低 × 緊急性:高 = 余裕があれば対応
重要度:低 × 緊急性:低 = 状況が変化するまでしばらく様子見
というような判断基準を作ることも可能です。基本的にすべて改善することを前提とするのであれば、あまり「重要度」という切り口は意味を為しません。「やるか、やらないか」という次元の話ではなくなっているからです。
そのような場合は「必要経費 × 期待効果」という切り口で分析してみてもいいかもしれません。実際、企業がいくつかの事業やアイデアに対して来期予算を振り分けて投資する場合なんかには、こう言った切り口で分析するのは当然のように使われています。
このように、マトリクス(に限った話ではありませんが)や初歩的な分析ツールをきちんと使いこなせていないと、ビジネスにおいて論理的な判断は下せなくなってしまいます。そうするとどうなるかと言うと、おなじみの「勘・経験・度胸(通称、KKD)」による舵取りが行われてしまうことになります。
もちろんマトリクスにこだわる必要性は皆無です。それでもマトリクスは有用であると言い切れる根拠は
『二次元で表現できる』
ことが挙げられます。二次元で表現できることは得てしてデメリットとなることも当然あります。たとえば「複雑な分析が難しい」とか。でも、通常のビジネスにおいてきちんと課題や問題を分解しておけば、複雑な分析が必要になるケースというのは滅多に起こりえません。つまり、デメリットはデメリットとして機能しないことが殆どなのです。
そしてメリットは、二次元で表現できるがゆえに、シンプルで見る者の理解を促しやすい(≒ 分析/解釈しやすい)ということです。課題、問題をシンプルにすることができれば、分析、解析もシンプルにすることが可能ですから当然メリットとして機能してきますね。
では、次のようなケースならどうでしょう。
たとえば、社内の従業者にアンケートを実施し、情報セキュリティ上の問題点を挙げてもらったと仮定します。目的は「今後、社内でどのような強化をしていくべきか」を話し合うための資料を作成するためです。
アンケートの結果から、どの様な意見が寄せられているのか、傾向がわかるようにマトリクスで表現してみてください。
・会社のPCを許可なく持ち出すことができる
・セキュリティパッチの適用は1回/月しか実施していない
・メール利用について、会社としてルールは設けられていない
・暗号化ソフトを導入しているが、利用は義務付けられていない
・社内への入退室は、誰でも簡単にできてしまう
・USBメモリで、誰でも簡単に社内データが持ち出せる
・サーバーのアクセスログを取得、チェック、保管していない
・システムへのログインパスワードの変更を義務付けていない
・指定のウィルス対策ソフトを、各自でインストールしてもらっている
・外出先でノートPCの盗難・紛失時の対策が考えられていない
・FAXやプリンターの上に紙が置かれっぱなしになっている
・印刷物については、特に利用ルールが設けられていない
上記意見の中から、適当に選んでマトリクスに反映してみてください(すべてをプロットする必要はありません)。みなさんなら、どんなマトリクスを作成するでしょうか。
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ここでは、あらかじめ「目的」を明確にしていますが、きちんと目的に合致し、活用できる軸となっていますでしょうか。「今後、社内でどのような教科をしていくべきか、話し合うため」の資料なので、
・誰に対策を講じるべきか?
・何を優先的に対策を講じるべきか?
という観点から考えられないと、話し合いは進まないかもしれません。
横軸は、決裁者がジャッジしやすいように費用面で整理していますが、インシデントが実際に起こりうる可能性の高さや、発生した場合を想定した緊急度、あるいは被害の大きさなどを軸にしてもいいかもしれません。
アンケートを取って「データ」化するのはとても重要なことです。
AIがそうであるように、人も検討し、判断するに足る「データ」が無ければ、正しい判断なんてできません。ですが、データだけがあっても無意味です。そのデータをどのように有効活用するのか、そのアルゴリズムが必要なのです。
AIを例に挙げたので、同じように用いるならば、AIはデータだけがあっても動きません。データを元にどういう判断をすればいいのか、そのためのプログラムが必要です。ここで言うアルゴリズムとは、AIでいうところの「プログラム」のことを意味します。「プログラム」と「データ」この2つが揃って初めて適切な判断が可能になるのです。
ですから、「データ」を集めることをゴールにしてしまって、集まってしまったら満足しているようでは、いつまで経っても論理的な考え方にはたどり着きません。
4つの象限に分割することで、漫然と見ていたデータ群の中から、
どこから順番に手を打つべきか
を検討することが容易になります。この場合ですと、「費用が安い」ところからであれば、取り組みやすいのではないでしょうか。
どこから手を付けるべきか、その優先度をつけようと複数人のチームや組織で検討する時、このようにグループ分けしてみると、整理や検討がしやすいし、また自分の意見を通したい時、他の人に対して視覚的に根拠を示すことができ、説得や納得を引き出しやすいという効果が期待できます。