何をメモするべきか
メモは新たな知識の習得だけではなく「"確実に"遂行する」ために行うものです。それが家事であれ仕事であれ、基本的には同じです。勉強にしたって同じことでしょう。
「人間」というひどく曖昧な存在であるからこそ、過信せず、記録をとる。
頭がいい人、優れた人であれば必ずと言っていいほど実践しています。
簡単なことでも、簡単だと思ってしまうがゆえに、忘れやすい自分を過信しようとせず、忘れないために書いておくことはとても重要なのです。
しかし、そのメモの取り方にも頭がいい人と惜しい人では微妙にその内容が異なってきます。
ミスを確実に防止するにはメモを取ることが欠かせません。
「そんなことねーよ」
という声が聞こえてきそうですが、果たしてそうでしょうか。今言われたこと、今覚えたことをすぐ実践に移せるのであればひょっとすると高い確度でミスを起こさずに進めることができるかも知れません。
ですが、それが3日前に言われたこと、1ヶ月前に見聞きしたこと、半年前に見た番組の内容であればどうでしょう。
今でも何かを確認せずに、ミスを起こさず実施することは可能でしょうか。
私たちはいろいろな仕事をいきなりすべて覚えることが難しいため、大抵が新入社員の頃からメモを取ることを習慣化させられてきました。昨今ではどうかわかりませんが、少なくとも私たちが新人のころは「とにかくメモを取れ」と言われ続けてきたものです。
ですから、最近では新入社員教育を担当するにあたって驚くことの1つに、こちらの指示に対してメモを取る人と取らない人がいることでした。
「なぜメモを取らないんだろう?」
そんな疑問を持ちつつも「きちんとやるべきことをやるのであれば細かいことまで口を出すのはやめよう」と思い、あまり注意しませんでした。
ところがメモを取る人と取らない人で、いずれ差が出てきます。
メモを取らない人は忘れ物をしたり、段取りを間違えたり、効率が悪かったりということが、統計的に見てもメモを取る人にくらべてずっと多いのです。メモを取らない人の問題点は、
聞いたその場で覚えた気になって、しかもその状態がずっと維持できると勘違いをしてしまい、自分で何でもわかったものと思い込んでしまう
ことです。
新入社員向けの指導ですから、こちらが指示することやルールの説明などは、決して難しいことではありません。その場で聞けば誰でも理解できることなので、メモを取る必要を感じないのでしょう。
ですが、そうした甘い考え方を日頃からしてしまい、それが習慣化してしまうことでいずれ仕事がうまくいかない人の典型パターンとなってしまいます。結果を見てみれば簡単なことさえミスをしてしまうことが多くなる確率がグッと高くなっているはずです。
これは、いろんな職場で同様なことが言えます。
学生時代の勉強でもそうだったでしょう。
上司の指示を聞いてわかっていたつもりが報告に行くと認識の違いがあったり、聞き漏らしがあったり、忘れていたり…。
実際のところ、メモを取るか取らないかは、人それぞれの基準というものがあります。
人はどんなときにメモを取って、どんなときに取らないのか。
この判断基準でその人の仕事の成功確率は雲泥の差となっているはずです。
ミスが多い人のメモを取る基準は、
「知っているか、知らないか」
です。知らないことや初めて聞くことはメモを取ります。知っていることはその人にとって当たり前だと思ってしまい、いちいちメモするのはバカらしいと感じてしまいます。
だから、その当たり前のことをいずれ忘れてしまった際に確認できる方法が無く、結果としてミスをしてしまうわけです。
一方でミスを起こしにくい人のメモを取る基準は
「そのことが自分にとって重要であるか、ないか」
です。たとえ知っていることでも、重要なことは決して忘れないようにメモをするためミスが圧倒的に少なくなります。万が一にでもミスをしてしまうと致命的だと考えれば、あるいは自分自身の記憶力にタカをくくっていなければ「いずれ忘れてしまうかもしれない」と考えます。つまりミスを犯さないための備忘録として使っているのです。
「今、知っているかどうか」
「そのことを今常識と思っているかどうか」
は関係ありません。未来においてメモを持たなかったことで
「ミスを起こす可能性があるか否か」
「ミスを起こした場合に困ったことになるかならないか」
で判断します。今はどうでもいいのです。
人の記憶はあてにならないものです。
それこそ当たり前のことで、メモを取る必要もないくらい誰もがわかっていることです。
仕事を確実にこなすために、万全を尽くすのが優れた人です。
基本的に新人教育などでもミスを取ることはあまり強制しませんが、メモを取らなかった新人よりも、メモを取って確認する新人の方が圧倒的にうっかりミスや忘れ物が減るのは言うまでもありません。
また、指示を受けたときにはメモを取ることに加えて、
・復唱
・確認
を行えることも非常に重要です。
何度もお伝えしてきたように、エビングハウスの忘却曲線によって人間の脳の記憶に対する定着率の低さは大きいものです。そしてその解決方法として、反復による復習や確認が有効であることも、既に実験の成果でわかっています。
なにより、メモを取ることで「いつでも見直すことができる」という心理的安全性を確保しておくことで余計な不安を抱える可能性をゼロにしておけるのですから、そう考えられるだけでも新人であれば相当優秀なのではないかと思いませんか?
実際の仕事の現場では、誰かが「ここは重要ですからメモを取りなさい」「ここは試験に出ますよ」などとは言ってくれませんので、自分の判断と理解を頼りにメモを取ることになります。
ですから、メモをしたうえで復唱し、間違いがないか、また双方に誤解(情報の共有漏れ)がないかといったことを確認する必要があるのです。こうしてミスを防止することでやり直しなどの無駄がなくなり、仕事の質も効率も上がっていくわけです。
私は、この「メモ」の有用性を拡大解釈すると、議事録もまったく同じ効果、効能を示してくれるものであり、そのために記録するものだと考えています。
けして顧客との間で責任の擦り付け合いを行うことを目的とするものではありません。
そう言う意味では「議事録」をどれだけ上手に活用しているか、という観点で見てみても、その人の優秀さを図る1つの試金石となるのではないでしょうか。