スタッフ教育が大事なのは、周知の事実です。が、スタッフ教育の肝は、ご存じですか?
宇宙一外食産業が好きな須田です。
今回はスタッフの育成に関してのお話をしようと思います。
先だって近所のチェーン展開している焼き鳥屋さんに、妻と二人で行ってきました。
世田谷と多摩地区で展開している企業ですが、ホールスタッフのほとんどは大学生のアルバイト君たちで賄っています。
いつもの感じで焼き鳥とお酒を楽しんでいましたが、サービスしてくれる女性スタッフと男性スタッフのサービスに大きなムラがあり、それが気になってきます。
妻も、ちょっと気になっているようで、「随分と人によって感じが変わるお店だね!」と、言い出しました。
それほど、スタッフの対応によって、お店に対する印象に違いが出ています。
例えば、追加のドリンクをオーダーすると、女性スタッフは自然な笑顔で、マニュアル以上のひとことを添えてオーダーを受けてくれて、提供時にはお待たせしました~と、静かにグラスを置いてくれます。
一方、男性スタッフは無口に徹しています。
“徹している” と感じるほど、強い意志を感じるほどに無口なだけでなく、全身から発せられる印象から、強い拒絶感が伝わってきます。
提供時にも無言で、グラスもコースターのことなど無視して、置きたいところの “ドン” と置いて行きます。
そこで、女性スタッフに聞いてみました。
彼女は社員で22歳、新入社員として入社した1年目だとか。
学生時代よりこの会社でアルバイトをしていて、スカウトされてそのまま社員として入社したそうです。
接客は大好きだと仰っておりました。
余談ですが、こういった人材が飲食業界に50万人ぐらい来ると良いなと、海より深く、山より高く思います。
こういったスタッフは、人材というだけではなく、人財だと思います。
一方、男性スタッフは近くの大学に通う学生さんで、4年生だそうです。
このコロナにもかかわらず、就職先も決まったそうで、学生生活の最後のアルバイトをしているということでした。
疑問に思って彼女に質問してみました。
「彼は今日、ここで何か嫌なことでもあった?」
「店長とやりあったとか、何かあったんじゃない?」と。
すると、そのようなことはなく、彼はいつもこのような印象なんだそうです。
スタッフとは、ある程度笑顔で話せるけれど、社員の前と、お客様の前に出ると一言も発しなくなるそうで、何度そのことを注意しても、トレーニングをしても改善しないそうで、会社としてもあきらめてしまったそうです。
もう間もなく大学も卒業で、すると、アルバイトも卒業となります。
どうしてもシフトが埋まらないときにだけ、入って貰っているそうです。
完全に、シフトが埋まらないときの、補充要員となっているようです。
さて、この状況をあなたならどうしますか?
嘆かわしいことですが、多かれ少なかれ、状況の多少の違いはあるにせよ、同様のスタッフを雇用したことはありませんか?
そもそも、笑顔のない子を採用したことに、最初の課題がありますが、そこは置いておいて、もうスタッフとして雇用して、しかもホールに立ってもらっている訳ですから。
さて、あなたならどうしますか?
勿論、指導とか、教育とかの話になると思います。
行動が変わるまで、何度でもトレーニングをすることを、選択すると思います。
多少の違いはあったとしても、教育・トレーニングに力を入れることになると思います。
もし、私ならと考えると、やはり私もトレーニングをすると思います。
でも、ことの大小はあったとしても、トレーニングだけでは改善しないことも多々あり、この彼がそのことの一例と言えます。
何度もトレーニングをして改善しない結果、対象者に対してのトレーニングを諦めてしまいます。
トレーニングをすることに疲れて、トレーニングの成果が出ないことに落胆して、場合によっては、トレーナーによっては、自己否定や無力感に囚われることもあります。
責任感が強く、愛情の深いトレーナーに、多くあらわれるパターンです。
少し話はズレますが、このようなことを回避するためにも、リクルートは大事になります。
どのような資質の人材を集めるか、集まった人材の中から、誰をメンバーとして向かい入れるかが、最も大事になります。
人材のことに関する “種” は、このリクルートにかかっています。
リクルートに関しては、また違う機会にお話しします。
さて、本題に戻ります。
この彼は、どうすれば成長するでしょうか?
成長しないまでも、過不足なくサービスが出来るようになるでしょうか。
もっと言ってしまうと、どうすれば “時給に見合った” 作業をさせることが出来るでしょうか。
私の経験上得た答えは、アルバイト君1人1人に、ここでの出来事の全てを、自分のこととして認識させることで、改善できるということです。
アルバイトにおける仕事 = 今後の人生に影響を及ぼす
このことを理解していただくように、指導しています。
私が前提条件として、常に意識していることがあります。
色々な考え方がありますが、アルバイトをする側が、お店に対して提供していることは、時間と労力です。
その方の時間を提供してもらい、その決められた時間内は、決められたルールに則って、決められた作業をしてもらうことで、対価を支払うシステムがアルバイトという契約形態です。
そこには、成果の云々は本来求められていません。
サービスを提供しなければならない対象者が入店した時には、決められた言葉を発する、決められた姿勢をとる、対象者から呼ばれたらそこに行く、オーダーがあれば聞く、それを必要な相手に伝える、出来上がった商品を確実にテーブルの上に置く、この作業を繰り返す。
これが、アルバイト君が提供した時間内で行う作業の内容です。
これらを行うことで対価を得られるシステムが、アルバイトという雇用形態です。
ここまで読んでみて、いかがでしょうか?
ある方は納得をして、ある方は不愉快になって、またある方は考え込んでしまったかもしれません、どのような感情が湧いたとしても、それでよろしいと思います。
その湧いてしまった“感情の元”が、あなたの判断基準です。
そこに気付けるだけで、素晴らしいことです。
上記の記事を読んで、
「そう、その通り、アルバイトにこれ以上求めることはない、これ以上を求めるからめんどくさくなるんだよ!」と、思っている方もいると思います。
「これはおかしいだろ、なんでちゃんと面倒をみてやんないんだ。そもそもお客様に失礼だろう。 この子も輝かないだろう!」と、思っている方も確実にいると思います。
この、あなたが感じている “感情の元” が、その後の結果を引き寄せています。
ですから、問題の本質は、対象となるアルバイト君の課題ではなく、トレーニングをしているサイドの課題であり、効果的な教育システムを構築出来ていない会社サイドの問題です。
もっと根源的な元を探ると、そもそもの告知を行う時に何を考えていたのか、どのような感情で告知をしたかにまで、遡ることとなります。
今回は、採用後のことにフォーカスしていきますので、採用前のことは改めてお伝えします。
話しを戻します。
告知をしようと考えて、募集の文章を書きます。
その時に、何を感じていますか?
「良いアルバイトが来ないかなぁ」
「どうせ又、募集しても来ないだろうな」
「所詮アルバイトだから、どんなんでもいいから来てくれよ」
「ボンボン応募が来たらどうしよう、しかもいいスタッフばかりで迷うことになったら、どうしよう 大変だなぁ!」
さて、どれが一番近かったでしょうか?
どの考えが有っても構いませんが、この考えの通りの応募者が集まります。
その集まった応募者の中から、本意・不本意に限らずに採用をします。
「どうせ又、募集しても来ないだろうな」
「所詮アルバイトだから、どんなんでもいいから来てくれよ」
と、考えていた、もしくは心の奥底で感じていた通りのアルバイト君が応募してきます。
そして、この考え方が基準になって、スタッフとなったアルバイト君にトレーニングをしてしまいます。
アルバイト君が、何を感じているのか、どのように考えているのかを考えることなく、トレーニングの “カリキュラムを消化” していきます。
行っていることは、トレーニングによって確実に成長が出来るようにサポートをすることではなく、“カリキュラムを消化すること” に意識を持っていかれます。
そして、習熟度が低いまま、未完成のまま、現場に放り投げてしまいます。
すると、多くの失敗をしてしまいます。
そして、失敗をすると、こう言います。
「ちゃんと教えたよね!」
「ちゃんと言ったよね」
「なんで出来ないの? こんなこと誰でも出来るよ!」と。
そして、何が起きるのかと言いますと、冒頭の彼の様な、不幸なモンスターアルバイト君が出来上がります。
なので、最低限の作業をして、決められた時間お店に居て、時間を切り売りすることでお金を貰おうとします。
必要以外のことは一切やらなくなります。
誰ともコミュニケーションをとらなくなります、特に社員とは。
今後の人生で一切かかわることのない、こんな店の馬鹿な社員の話なんて聞く気もありません。
と、深く、強く、思っています。
こうやって、頑なに凝り固まったアルバイト君が製造されていきます。
折角、何かの縁があって出会っているのに、お互いが成長できるステージだって用意できたはずなのに、お店が間違った心情と観念とトレーニングをしたことによって、“人材” を “人罪” にしてしまいました。
“人財”に出来たかもしれないのに、“人罪” にしてしまいました。
人材不足は私が知っている限り、40年は継続していると思います。
初めて現場に立った16歳の段階で、既に人材不足だったと思います。
飲食業界は、夢も希望もない、ブラックな業界なんでしょうか。
これは、事実でもあり、間違ってもいます。
人の基本的才能に、大きな違いはありません。
人を優秀な人財にするのも、モンスターにしてしまうのも、原因は同じで、環境が作り上げてしまいます。
アルバイト君の意識の部分は、ほんの少しです。
そもそも、お店側がアルバイト君をちゃんと成長させる意思を持ち、正しい意図を持つこと、確実に成長をサポートするシステムと体制を整えることと、持つことが最も大切なことです。
そして、この店で出会うであろう出来事が、今後の君の人生を明るく照らす、プラスの作用となるように働くこと、そのためにお店は出来る限りのサポートをすると、伝えることが大事です。
私は、このシステムを学ぶために、原田メソッドを学び、心理学の一種であるサイグラムを学び、アメリカで開発されたメソッドを学んできました。
心と思考と行動の関係を、いくつもの学問とメソッドと、実際の体験に基づいて、自分なりに体系化してきました。
スタッフ教育の肝は、優秀なトレーナーを育成することです。
トレーナー育成トレーニングが、最も大事なことです。
以前は店長教育なども行いましたが、今は行いません。
店長教育のよりも、トレーナーの育成と、それ以上に、経営者の考え方の質をより良くすることの方が大事なことに気づいたので、店長教育は行いません。
間違った教育と概念を学び取ってしまった店長の元では、輝けるアルバイト君は誕生しないからです。
店長を輝かせるシステムがあってこそ、アルバイト君は輝きます。
元を正すことが重要です。
そして、アルバイト君には、このお店での経験が、自分のこれからの人生に良い影響を及ぼすように、多くのことを学びなさい、そのように自らが考えて、自分で判断して行動をしなさいと伝えます。
OJTの一番最初、オリエンテーションの段階で、十分な時間を割いて伝えるようにしています。
共感と共鳴を重視して、伝えるようにしています。
オリエンテーションで、必ずする質問があります。
「今迄多くの飲食店を利用してきたと思いますが、“これは最悪だった” という経験はありますか? できれば一人ずつ教えてください。」
すると、出てくる出てくる、何年も前の出来事が、感情と共に、まるで昨日起こったがごとくに、出てきます。
次に、質問をします。
「では逆に、こんな素晴らしい体験をしたということを教えてください」
すると、酷い体験の半分ぐらいが出てきます。
この質問の答えが出てきている間、私が行っていることは、共感・共鳴することです。
「わぁ それは大変だったね!」
「それホント⁈ それは酷いね」
「えっ うそでしょ ありえないね」
「そうですか それは喜んだでしょう 嬉しかったねぇ」
「良かったねぇ もし自分だったらと思うと」
「そのスタッフさんに感謝ですね! 今でも忘れられないステキな思い出ですね」
こんな感じです。
そして、最後に付け加えます。
「今、皆さんが話してくれた内容と同じことを、あなたもきっとしてしまいます。」
「あなたが経験したことと同じことを、今度は、あなたたちがやってしまいます。」
「なぜなら、その経験の情報が既に、頭にインプットされているからです。」
「であるならば、どちらの経験をしたいですか?」
「今でも、怒りの感情を持ち続けている経験と、嬉しさと喜びと感謝と感動に満たされた経験と、どちらを選択しますか」 と。
するとこの結果、全員がステキな経験を提供すると、コミットメントします。
グループワークとして行いますから、集団心理も働いてサービスマンとしてのあるべき在り方を、コミットメントします。
チームとしての、纏まりも生まれてきます。
トレーニング中にふさわしくない、望まない何かが起こった際には、
「オリエンテーションで話したこと共有したことがあったよね、嫌な経験の話をみんなでシェアしたよね! 今、あなたが行った作業、その考え方は、あの時の経験と同じじゃない?」
「全員で、ステキな経験を提供しようって決めた基準に照らし合わせて、どうかな? どう思う」と、聞くことにしています。
決して、答えは提供しません。
私がすることは、アルバイト君に考えてもらう、心理的なスペースを確保するだけです。
私は、アルバイト君自らが答えを導き出すまで、待つことだけです。
すると、正しい答えを、有意義な経験を導き出す答えを自ら宣言してくれます。
私は、ただ待つだけです。
人は、自分の言葉を実践するようにプログラミングされています。
ですから、答えが出るまで待つだけ、その方向を示唆するだけです。
でも多くの場合、トレーナーをしている方は、待ちきれなくて答えを押し付けてしまいます。
そして、
「言ったよね!」
「教えたよね!」と、なってしまいます。
そして、冒頭のようなモンスターアルバイトを作ってしまいます。
私のミッションに、「お店のスタッフに笑顔を提供する スタッフから笑顔を引き出す」ということがあります。
“チョット面倒なオヤジ” と、妻には言われていますが。
スタッフから最高の笑顔を引きだすことを、使命にしています。
さて、このミッションは、この日も果たせました。
焼き鳥を楽しんで、最後に締めでお茶漬けをお願いしました。
提供は、この男の子がしてくれました。
それまでの間に少しずつ話して、少し心を許してくれているような状態でしたが、最後に提供されたお茶漬けのご飯が冷たくて、
「もしかして、レンチンご飯なの?」と、聞いたところ、そうだと言います。
そこで、キッチンにお客様から指摘があったこと、提供時に厨房でチェックをして欲しいこと、そしてアルバイトの自分も気が付かなかったことを詫びて、自分も注意しますがキッチンもチェックしてくださいと、キッチンに伝えてきてと、お願いしました。
オープンキッチンで、客席から厨房のやり取りが見えます。
お客様に言われたことなので、彼はそのままを、伝えた通りに言っていました。
すると、なんと厨房スタッフが、彼に謝りました。
嫌な経験をさせてしまったと、謝ってきました。
それを聞いて、彼は心底驚いていました。
きっとそれまでは、何があっても、お互いに前向きなコミュニケーションはとってこなかったのでしょう。
そのアルバイトの彼から、前向きなシステム改善の提案と、自己研鑽の言葉が発せられたことに、厨房スタッフも驚いていた様子でした。
チンチンに熱いお茶漬けが、間もなく到着しました。
嫌がらせのように、チンチンに熱々です。
「おっ 美味そうじゃん。 お茶漬けはこうじゃないとね ちゃんと伝えてくれてありがとう 就職しても頑張ってね 君なら大丈夫だね!」
彼に、心からのお礼を伝えました。
今日一番の、もの凄く良い笑顔でした。
そろそろ春メニューを考える頃ですね。
本来は!
次回は、そのことをお伝えします。
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