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【日本映画】エゴイスト|愛はエゴか、エゴは愛か《ネタバレなし》
制作発表された時から、絶対見に行くと決めていた作品。
平日の朝10時に見に行き、泣き腫らした目でそのまま仕事に向かいました(笑)
「この小説は、血とか紙(戸籍)で限定された家族だけが『家族』ではないのかもしれないということが、少しでも『希望』の形で伝えられるような作品にしたい」という原作者の言葉が、映画を見終わった後に「これが伝えたいことだったんだな」とちゃんと伝わってくるような素晴らしい作品でした。
恋人たちの『愛』から家族との『愛』まで、『愛はエゴか、エゴは愛か』
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ストーリー ★★★★☆
演技 ★★★★★
もう一度見たい度 ★★★★★
総合 ★★★★★
製作国:日本(2023年)
原作:高山真「エゴイスト」
監督:松永大司
脚本:松永大司、狗飼恭子
企画・プロデューサー:明石直弓
上映時間:120分
※画像は公式サイト、公式Twitterよりお借りしております。
あらすじ/予告編
14 歳で⺟を失い、⽥舎町でゲイである⾃分を隠して鬱屈とした思春期を過ごした浩輔。今は東京の出版社でファッション誌の編集者として働き、仕事が終われば気の置けない友人たちと気ままな時間を過ごしている。そんな彼が出会ったのは、シングルマザーである⺟を⽀えながら暮らす、パーソナルトレーナーの龍太。
自分を守る鎧のようにハイブランドの服に身を包み、気ままながらもどこか虚勢を張って生きている浩輔と、最初は戸惑いながらも浩輔から差し伸べられた救いの手をとった、自分の美しさに無頓着で健気な龍太。惹かれ合った2人は、時に龍太の⺟も交えながら満ち⾜りた時間を重ねていく。亡き⺟への想いを抱えた浩輔にとって、⺟に寄り添う龍太をサポートし、愛し合う時間は幸せなものだった。しかし彼らの前に突然、思いもよらない運命が押し寄せる――。
鎧を身に纏う
斉藤浩輔(鈴木亮平)は自分のセクシャリティを隠していない。
いつもゲイの友達たちとゴシップに明け暮れて、
東京に出てきてから30歳を超える今までたくさんのオトコたちと遊んできた。
仕事も順調でファッション誌の編集者としてバリバリ働いている。
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母親の命日には毎年ローカル線が何時間かに一本しか止まらないような田舎にある実家に帰る。
浩輔は実家に帰るときは東京で着ていたら仲間たちに馬鹿にされてしまうような
ロゴが分かりやすいところにデザインされているような
“ザ・ブランド品”の高級で派手な衣服を身に纏っていく。
それは学生時代に浩輔のことを「おんなおとこ」だといじめていた
同級生や、その時の自分の気持ちから自分を守るための鎧であり、
未だに地元でくすぶっている同級生に向けて
東京で雑誌の編集者として成功している浩輔が持てる剣でもある。
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鎧を脱ぎ捨てられる人と出逢う
いつものように仲間たちと飲んでいるときに
『浩輔も身体がだらしなくなってきた』という話になり、
「アンタは金あるんだから、パーソナルトレーナーとか付けてやった方がいいんじゃない」と言われ、
知り合いにパーソナルトレーナーをやってて仕事探してる子がいるという仲間から
中村龍太(宮沢氷魚)を紹介してもらう。
若い龍太はピュアで透明感があり、それが浩輔には新鮮だった。
二人の関係は『斉藤さんと中村くん』から『浩輔さんと龍太』になるまで時間はかからなかった。
トレーニングがある日は必ずと言っていいほど、浩輔の家で身体を重ねた。
龍太がマンションを出て駅まで歩いていくのを、
高級マンションの最上階のベランダから見送るのが日課になっていた。
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家族だから、言えない
東京にいるときの浩輔は自分がゲイであることを周りに隠してはいない。
だけど、家族にはまだカミングアウト出来ていない。
中学生の時に亡くなってしまった母に病床で
「浩輔にお嫁さんが出来るまでは生きていなきゃね」と言われた時には
「僕が大きくなったらお医者さんになってお母さんの病気を治すね」と
話をはぐらかしてしまった。
帰省して母の仏壇に手を合わせているときに
父から「誰かいい人はいないのか。母さんだって孫の顔が見てみたいだろ」と言われても
適当に返事することしか出来なかった。
小さい頃からいじめられていたことも、家族に話せてないから
同窓会のお知らせが届いていると言われても
「仕事が忙しくていけないから、捨てといて」と仕事のせいにするしかなかった。
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龍太もまたシングルマザーで自分を育ててくれた最愛の母に
カミングアウト出来ず、ずっと隠している。
浩輔を実家に連れていくときも恋人と紹介することが出来ず、
お世話になっている人だと紹介するしかなかった。
家族だからこそ、自分を愛してくれている人だからこそ、
距離が近すぎるからこそ、言えないことがある。
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『エゴイスト』
初めてのトレーニングの後、一緒に帰っているときに
龍太は「ちょっと待ってください」と言って
お寿司屋の外にあるメニューだけ見て戻ってきた。
どうしたのと聞くと「お母さんにお土産で買っていこうと思ったけど高かった」と笑いながら言った。
それからというもの、龍太が部屋に来る度に浩輔はお母さんへの手土産を龍太に渡した。
断る龍太に「僕が渡したいだけだから、お母さんへの手土産だから龍太に断る権利ないよ」と
茶化しながら無理矢理にでも渡す。
それは相手から望まれていることではなく、
自分がしてあげたい、したいと思う『エゴ』なのだ。
母を早くに亡くした浩輔は、自分は母が闘病中に幼くて何も出来なかったから
少しでも龍太の力になりたいと思い、病気がちな母親のために頑張っている龍太を純粋に応援したいと思った。
だけど、どこか龍太の母に自分の母の面影を重ね、龍太に自分を重ねていた。
浩輔は龍太だけでなく、龍太の母も自分の家族のように愛することを決める。
愛はエゴか、エゴは愛かー
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映画を見たあとに、久しぶりに映画のパンフレットを買い、
その足で本屋さんに行き原作の小説も買いました。
こんなにも作品に携わった人がどのような気持ちで作り上げていったのか、
原作者を知る人たちやLGBTQ+の当事者の人たちがこの作品を見てどう思ったのかを
知りたくなる作品は初めてでした。
映画を見に行く前は原作も読んだこと無かったし
予告編もあらすじもちゃんと見ることなく、
ただ『鈴木亮平と宮本氷魚のゲイ映画』だとしか思っていなかったから
途中からの展開に驚きが隠せず、後半はずっと涙が止まりませんでした。
鈴木亮平が演じるゲイの役が、いかにもゲイの人が好きそうだと
みんなが思いそうな『エリートの30代イケメン』ではなくて
ところどころで所作や言葉尻りがいわゆる“オネエ”っぽいのとか、
ゲイ仲間たちとゴシップで盛り上がったり、居酒屋から出て帰るときに
人目も気にせず仲間たちと変なノリに大爆笑してるところも
すごく人としてリアリティがあってよかったです。
本作の原作小説は作者の高山真さんの自伝的小説であるため
浩輔には高山さんの人となりや人生が反映されている。
色々なインタビューを読むと、高山さんは既に亡くなっているが
監督だけではなく役者さん達も実際の高山さんの人となりを知るために
高山さんと親交のある人たちに取材を重ねていたり、
LGBTQ+当事者の方々のリアルな声を聞きに行ったと書いてあり
本作がLGBTQ+当事者以外の人が思うステレオタイプな『ゲイ映画』ではなく
リアリティな作品に仕上がっているのはそういった制作に携わった人たちの
思いから実現したんだなと思いました。
あと、個人的には柄本明の演技が好きなで
本作では浩輔の父親役として出演していて
出演シーンは少しですが、柄本明が出てきただけで
場の空気感が締まるというか、、、あの雰囲気が本作でも見れて良かったです!
阿川佐和子さんの演じる龍太のお母さんもすごく良かったです。
本作で阿川さんを初めて知ったら絶対本職が俳優でないことを信じられなかったと思います。
やっぱり主役だけでなく、脇役のバイプレーヤーの俳優さん達が
演技上手い人たちだと作品が何倍にもいいものになりますよね!
本作を最後まで見ると本作の題名がなぜ『エゴイスト』なのかがわかり、
自分が『愛』だと思っているものは何なのかをもう一度考えてみたくなりました。
小説を読み終わったらすぐに、また劇場に足を運んで
ハンカチを片手に二度目の『エゴイスト』を見たいと思います!