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アキレス最後の戦い / 「許されざる者」

たまには有名な映画についても書いておきたい。
1992年の映画「許されざる者」(原題は Unforgiven)は、アカデミー賞で4つの賞に輝き、クリント・イーストウッド監督の傑作の一つに挙げられる作品だが、しかし同時に眠い映画でもある。
この映画は脚本が優れていて、ホメロスの「イリアス」をよく参照した、要するにアキレウスの西部劇である。なおかつ、悩めるアキレウスこと主人公のマニー(クリント・イーストウッド)に付き添うのは、嘘つきで臆病者のキッドである。いわゆる従来の西部劇の型を破壊していて、そういう意味において、画面の暗い「真昼の決闘」と言うこともできる。
しかし、ボソボソと話すマニーは老人だし、キッドはアホ丸出しだし、ビッグ・ウイスキーという街にたどり着くまでに寝てしまいそうになる。こうした低調なトーンはアンチ西部劇として意図したものだろうが、そもそも西部劇に浪漫を感じない僕には修行のような時である。
ビッグ・ウイスキーに着くと二人組のカウボーイや、リトル・ビル(ジーン・ハックマン)たちを暗殺することになるのだが、ここでも進行が遅い。そもそも、懸賞金が欲しくてカウボーイを撃ち殺し、ついでに保安官たちも殺すというだけの話なのだから、もう少しイベントを盛り込んでも良かっただろう。「イリアス」のようなトーンで描かれる物語はよくできているので、あとは遊びに当たるような出来事が欲しかったところだ。老人の語る紙芝居のようなスピード感である。
よく出来ているが、眠い、というのが僕の感想であり、イーストウッド監督の代表作を訊かれたら間違いなく2008年の「グラン・トリノ」を挙げる。「許されざる者」はアカデミー賞の作品賞を受賞したが、この年はどう考えても「セント・オブ・ウーマン/夢の香り」が受賞すべきであった。


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