すだちくん

田舎者。

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最近の記事

残りの人生を考えて / 「スタンド・バイ・ミー」

どんなものにも推奨年齢がある。1986年の映画「スタンド・バイ・ミー」は、中学生の頃に観るとちょうどいい作品の一つだ。もちろん大人になってから観ても良い作品だと感じるし、若い頃とは感想がきっと変わる筈だが、30歳を越えても本作を"お気に入り"に挙げている人はちゃんと成長しなかったのかなと心配になる。 この映画は、1982年にスティーヴン・キングが発表した短篇 The Body が原作である。短篇ゆえにテーマが絞られており、本作では大人になるということが描かれている。いわゆる

    • 時の過ぎゆくままに / 「長江哀歌」

      たまに度肝を抜かれるような映画に出会うことがある。賈樟柯(ジャ・ジャンクー)監督の2006年の映画「長江哀歌」はそんな作品だ。この映画は、あらすじを見せるための108分ではなく、いわゆるアートである。 三峡ダムによって水没していく街、奉節県が舞台だ。山西省からやってきたサンミン(韓三明)は、16年前に別れた妻と娘を探している。また一方、シェンホンという女(趙濤)もまた山西省から、約2年も音信不通の夫グォビンを探しにやってくる。物語はこの2人がそれぞれの配偶者を捜索する姿と、奉

      • マークは香港映画の項羽 / 「男たちの挽歌」

        呉宇森(ジョン・ウー)監督の1986年の映画「男たちの挽歌」は、クエンティン・タランティーノをはじめ世界のアクション映画の制作者たちに大きな影響を与えた。実は、本作は日本の任侠映画、特に深作欣二監督の作品からインスパイアされたものだが、しかし「男たちの挽歌」の知名度には遠く及ばない。その大きな理由は、主演の周潤發(チョウ・ユンファ)にある。 この映画で周潤發が演じたマーク(馬克)という人物は、冒頭に掲げた写真のように偽札に火を付けてタバコを吸ったり、サングラスをかけて拳銃を片

        • 男が抱えている恐れ / 「ガープの世界」

          もともと多くの映画は、有名な文学作品を下敷きにして撮られていた。やがて文学よりもノンフィクションが充実してくると、アメリカの映画スタジオはこぞってギャング映画や大企業の不正、政治問題をテーマにした作品を制作し始めた。もちろんビジネスとしての映画が主流となってからも、ハリウッドでは優れた文学を映像にしている。"名作"という評価を得ることができれば、立派なビジネスになるからだ。「明日に向って撃て!」と「スティング」という、ポール・ニューマンとロバート・レッドフォードのコンビの作品

          女はつらいよ / 「ボルベール〈帰郷〉」

          いわゆるエンターテイメントよりもアートに寄っている映画の方が好きなので、前回の記事「ニュー・シネマ・パラダイス」に続いて今回はペドロ・アルモドヴァル監督の2006年の映画「ボルベール〈帰郷〉」について書く。イタリアやスペインの映画には、生きていく上での心の力がよく描かれている。 この映画は、3つの異なる世代の女たちの物語だ。母イレーネ、ライムンダ(ペネロペ・クルス)とソーレの姉妹、そしてライムンダの娘パウラ。実家はラ・マンチャ地方の村であり、主人公のライムンダたちはマドリード

          女はつらいよ / 「ボルベール〈帰郷〉」

          心のなかの映画館 / 「ニュー・シネマ・パラダイス」

          年齢を重ねると映画の感想も変わるものだ。ジュゼッペ・トルナトーレ監督の1988年の映画「ニュー・シネマ・パラダイス」といえば、映画好きなら知らない人はいないほどの人気作だが、若い頃はアルフレードのことがよく理解できていなかったと思う。僕はかつて124分の国際版を観ていたはずだが、今日では4K修復され、174分のディレクターズ・カットが公開されている。 子のいないアルフレードは主人公トトの父親がわりであり、仕事場である映画館で親しく交流するのだが、しかしトトに対して映写技師のよ

          心のなかの映画館 / 「ニュー・シネマ・パラダイス」

          砂の谷のナウシカ / 「DUNE/デューン 砂の惑星」

          すったもんだの末にようやく製作費を集めたドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の映画「DUNE」とは、映画スタジオが「スター・ウォーズ」に代わるSFシリーズを切望して生まれた"商品"である。主演に選ばれたティモシー・シャラメは特に女から人気があるらしく、まだ28歳だ。ホワイトアスパラガスみたいな男だが、近頃はこういう見た目がウケるのだろう。「指輪物語」や「ハリー・ポッター」シリーズのように、続篇を制作するだけで儲かる金のなる木をワーナー・ブラザースは育てようとしている。 さて、こうしたSF

          砂の谷のナウシカ / 「DUNE/デューン 砂の惑星」

          制作する前の出来事の方が面白い / 「デューン/砂の惑星」

          映画を制作するということは、それが大作であるほど大勢のスタッフや多額の金が必要になるため、制作する前の出来事が映画そのものより面白いことがある。 「DUNE/デューン 砂の惑星」はまさにそうした、映画スタジオと制作者たちの悪戦苦闘の賜物である。 まず、ベトナム戦争中の1965年にフランク・ハーバートという売れない作家が「DUNE」というSF小説を刊行した。この小説はフランクがオレゴン州フローレンスを旅した時に、街のそばに広がる Oregon Dunes (オレゴン砂丘)と呼ば

          制作する前の出来事の方が面白い / 「デューン/砂の惑星」

          これがアメリカの強さ / 「ブルース・ブラザーズ」

          シカゴを舞台にした映画といえば「スティング」や「逃亡者」など数多くの作品があるものの、やはり1980年の映画「ブルース・ブラザーズ」が筆頭になるだろう。コメディ番組「サタデー・ナイト・ライブ」に登場するキャラクターを主人公にした、この"おバカ"な映画は全米で大人気になり、日本のバラエティ番組は本作の音楽をはじめ演出などを真似しまくった。ユニバーサル・ピクチャーズの作品なので、しばらく前までUSJにおいてもブルース・ブラザーズのショーが開催されていたそうだ。この列島ではTOHO

          これがアメリカの強さ / 「ブルース・ブラザーズ」

          語られたことの持つ力 / 「グリーンマイル」

          "感動する映画ランキング"の常連であるフランク・ダラボン監督の1994年の映画「ショーシャンクの空に」は、キリスト教あるいはイエス・キリストをモチーフにした作品であると以前に書いた。僕は本作を観ても感動なんてしなかった。アンディは脱獄できて良かったね、レッドと仲良くね、という程度だ。こういうストーリーのどこに感動するのか是非教えてほしいくらいだ。 さて、フランク・ダラボン監督はこの5年後に、やはりスティーヴン・キングの小説が原作の映画「グリーンマイル」を撮った。こちらの方が

          語られたことの持つ力 / 「グリーンマイル」

          暑い国から帰ったスパイ / 「グッド・シェパード」

          スパイ映画といえばイギリスの十八番だが、アメリカにも優れた作品がある。ただ、よく出来たスパイ映画とはすなわち実際の世界に近付いたものになるため、どうしても事前知識が必要になり、物語を楽しむことのできる客が少なくなってしまう。俳優として名高いロバート・デ・ニーロが監督を務めた2006年の映画「グッド・シェパード」は、マット・デイモンを主演に迎え、アンジェリーナ・ジョリーやエディ・レッドメイン、アレック・ボールドウィンなど著名なスターが参加したアメリカのスパイ映画の力作であるがゆ

          暑い国から帰ったスパイ / 「グッド・シェパード」

          ランキング首位はあかん / 「市民ケーン」

          映画を好きな人なら、誰もがランキングを目にしたことがあると思う。ホラー映画ベスト10や、感動する映画100選のようなリストを眺め、観たことのない作品について調べたことがあるはずだ。こうしたランキングの中でも、特に"名作ランキング"の首位をいつも占めている作品といえば、オーソン・ウェルズが監督と主演を務めた1941年の映画「市民ケーン」(原題は Citizen Kane)だ。 僕はこうしたモノクロの映画をランキングの首位に据えることには反対である。なぜなら、どの映画を観ようかな

          ランキング首位はあかん / 「市民ケーン」

          病んだ父子カンタービレ / 「シャイン」

          僕の父親が好きだったエピソードは、僕が幼稚園に通っていた時の話だ。ある時、幼稚園の担任が何かの活動の際にヴィヴァルディ作曲のヴァイオリン協奏曲「四季」を園内に流した。クラシック音楽の大ファンだった父のせいで、音楽に詳しい僕は「これヴィヴァルディだよ」と担任に言ったらしい。もちろん担任は喫驚し、後日両親に一体どんな教育をしているのかと感心したそうだ。教育なんて大層なものではなく、昼夜を問わず父がクラシック音楽を家屋でも車でも流していたに過ぎない。 人が親から受ける影響は多大であ

          病んだ父子カンタービレ / 「シャイン」

          ネオレアリズモの集大成 / 「若者のすべて」

          戦後から1960年頃までイタリアの映画界を席巻したネオレアリズモという運動は、ひどく荒廃した世の中の現況をありのままに表現しようという、イタリア共産党とも近しい流行だったが、フェデリコ・フェリーニ監督はひと足早くここから離れ、1960年に「甘い生活」を発表した。その同じ年、ルキノ・ヴィスコンティ監督はネオレアリズモの総決算のような映画「若者のすべて」を撮った。 なお、原題は Rocco e i suoi fratelli であり、この英語の題名は Rocco and His

          ネオレアリズモの集大成 / 「若者のすべて」

          これは美しい愛の物語 / 「ブロークバック・マウンテン」

          ヒラリー・クリントンが大統領選を争っていた頃、glass ceiling という単語が流行った。ガラス製の天井という意味で、要するにマイノリティや弱者が昇進する時に何らかの"見えない上限"があるだろうという指摘だ。もちろん、ヒラリーやカマラ・ハリスが敗退した理由は"女だから"ではないが、アン・リー監督の2005年の映画「ブロークバック・マウンテン」がアカデミー作品賞を逃した理由は"ホモだから"である。ずいぶん時が経ってから、ハリウッド・リポーターという雑誌がアカデミー会員に誌

          これは美しい愛の物語 / 「ブロークバック・マウンテン」

          韓国の問題を描く大捜査線 / 「殺人の追憶」

          日本列島で「冬のソナタ」が大流行し、韓国のテレビドラマや映画が初めて人気になった2003年、韓国でポン・ジュノ監督の映画「殺人の追憶」が公開された。ヨン様ブームは"韓流"という単語を生み出し、「シュリ」や「JSA」など多くの韓国映画が日本で評価された時代だった。そのなかでも「殺人の追憶」は特に高い評価を受け、やがてポン・ジュノ監督は2019年の映画「パラサイト 半地下の家族」でアカデミー賞を席巻することになる。 「殺人の追憶」は「パラサイト 半地下の家族」なんかより遥かに良い

          韓国の問題を描く大捜査線 / 「殺人の追憶」