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演技に見えない女優 / 「世界にひとつのプレイブック」

おそらく演技の上手い人は、演じているように見せない技術が優れている。自然体と呼ばれる姿だ。いまハリウッドで最も演技力のある女優といえば、ジェニファー・ローレンスだろう。2012年の映画「世界にひとつのプレイブック」での演技でアカデミー主演女優賞を22歳で受賞したが、本作でジェニファーは心を病んだティファニーになりきっていた。監督のデヴィッド・O・ラッセルはオーディションにおいて、ジェニファーの年齢ではブラッドリー・クーパーの相手役として若すぎると考えていたそうだが、オーディションでのジェニファーの演技に圧倒され、起用することを決めたという。
この映画には、超能力を持つ者も、優れた才能がある者も登場しない。妻に不倫されたことで精神を病んだパット(ブラッドリー・クーパー)と、夫に先立たれて不安定な心を抱えるティファニー(ジェニファー・ローレンス)を中心に、フィラデルフィアの郊外に住むどうしようもない人たちばかりが登場する作品だ。
パットは劇中で明示されていないものの、おそらく双極性障害、いわゆる躁鬱病と、強迫性障害を抱えており、ティファニーは不安や孤独を抱えて投薬治療をしていた女だ。アメリカの映画はこうしたメンタルの問題について取り上げることが多い。すぐに隠したりタブー視するどこかの列島とは大違いだ。また、パットの父親はノミ行為に熱心なフィラデルフィア・イーグルスの熱狂的なファンであり、母親はどこにもでもいそうな少し神経質な女として描かれている。つまり、パットの家族はアメリカに"ありがちな家庭"である。
こうした環境の中で、パットとティファニーが互いにダンスを通じて魅かれていくという、悪い時でも良いことの兆しがあるよ(silver lining)、という前向きなメッセージの映画だ。2008年に出版されたマシュー・クイックの著した原作は The Silver Linings Playbook である。これが日本へ来ると「世界にひとつのプレイブック」になるから訳が分からない。
さて、ジェニファーはケンタッキー州のルイビル出身という"南部の女"なのだが、子供の頃はチームスポーツが大嫌いで友達もほとんどいなかったという。父親が牧場を持っていたので、そこで乗馬ばかりしているうちに、教会で演じる劇で演技の面白さに目覚めたという。まさに天職なのだろう。「ハンガー・ゲーム」などのシリーズ作品で有名だが、出演したどの映画でも存在感は他の役者を圧倒している。こうした雰囲気をまとうことのできる人は少ない。出演作は必ず観たくなる女優だ。

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