知らないことは反省もできない / 「ディア・ハンター」
3時間にも及ぶ大作なんて、よほどの作品でなければ観る気もしないだろう。
「ディア・ハンター」はそんな傑作の1本だ。
スラヴ系アメリカ人の若者3人がベトナム戦争へ出征し、それぞれ異なる人生を歩んでいくことになる様を描いたこの映画は、劇中のロシアンルーレットのシーンであまりにも有名になった。ちなみに、著名なジャーナリストから、ベトコンが捕虜とロシアンルーレットをしたなんて話は聞いたことがない、と批判されてしまったが、これは映画である。誤解した人も少なくないかもしれないが、そのくらいベトナム戦争という出来事は、この時代のアメリカ人に看過することのできない傷を負わせた。
映画のなかでリンダ(メリル・ストリープ)に上掲のセリフを言わせたように、戦争はそれに関わった者の人生を歪めてしまう。出征する前に鹿狩りをしていた時、主人公のマイク(ロバート・デ・ニーロ)が友人ニック(クリストファー・ウォーケン)に one shot (一発だ)と言って仕留めていたのに、その one shot で友人を失い、もう二度と同じように鹿を狩ることができなくなる。そして誰もがそんな経験をみずから望んではいなかったということが戦争なのだ。
だから戦争をやめましょう、というロジックは頭が悪くて大嫌いだ。
まず、どうして戦争になるのか、どのような経緯だったのか、どのように休戦あるいは停戦に至ったのか、そうしたことを把握して初めて、反省し、未来への糧にすることができる。だからアメリカは第二次世界大戦も朝鮮戦争もベトナム戦争も、どんどん映画や小説の題材にし、読者や観客もそれを受け入れている。ゆえにアメリカは戦争の仕方が"キレイに"なってきた。ドイツはなぜあのような失敗をしたのか、学校で子どもに徹底的に教育している。
この列島の人は今、大日本帝国がどこの地域でどのように戦争をし、敗戦したのか、簡単に説明できるだろうか。戦後に多くの日本人が観た戦争映画はいくつあるのだろう。何も知らない者が"二度と戦争を起こしません"なんて冗談である。戦争は政府が始めるものなのだ。君の意見なんか聞かない。
だから「ディア・ハンター」のラストシーンは God Bless America を皆で歌うシーンだった。"アメリカのために"戦った者が、死んだり、精神を病んだりして、皆の生活が歪んでいくなかで、アメリカは守られるかもしれないが、多くの国民が傷付いているじゃないか、ということだ。ましてやそれが太平洋を隔てたベトナムのことなら尚更である。
戦争はそれを推進した政治家ではなく、国民を傷付けるのだ。
生還したものの精神を病んで行方不明になった僕の大叔父が今の日本を見たら何と言うだろう。平和になって良かった、だろうか。きっと違う。
国がこんなことになるなんて考えたことあるか、だろう。
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