ソダーバーグは良いやつ / 「ザ・ランドロマット -パナマ文書流出-」
1989年に「セックスと嘘とビデオテープ」で監督としてデビューし、いきなりパルム・ドールを受賞するという鮮烈な登場を果たしたスティーヴン・ソダーバーグは、10代の頃から映画を制作するほどの熱心な映画マニアだ。まだこのブログでソダーバーグの作品を取り上げたことはないものの、大ヒットした「オーシャンズ」シリーズをはじめ「エリン・ブロコビッチ」「トラフィック」「インフォーマント!」「コンテイジョン」など、世の中の問題に向き合う作品を数多く撮っている。いわば職人のような男だ。
2019年にソダーバーグは、ゲイリー・オールドマンやアントニオ・バンデラスなど多くのスターを起用して「ザ・ランドロマット -パナマ文書流出-」をNetflixで公開した。これは2016年に報道されて世界中で大騒ぎになった"パナマ文書"をめぐるコメディ風の映画だ。電通をはじめ日本を代表する多くの企業や政治家の名前も登場する、世界規模の租税回避スキャンダルなのだが、もちろんこの列島は完全に報道が規制あるいは管制されているので、日本人のほとんどはパナマの法律事務所モサック・フォンセカの名前すら知らないだろう。日本語しか読めないということは、それだけ世界すなわち情報が限定されてしまうということをもう少し自覚した方が良い。
さて、この手の映画は"映画"というよりも、こうした問題について考えてみてほしいという制作者たちの意図がはっきりした作品なので、映像作品と呼ぶ方が正確だろう。メリル・ストリープやジェフリー・ライトも短い時間ながら出演し、寸劇を通してパナマ文書をめぐる問題を観客に伝えている。NetflixやAmazon primeはこのような、どうみても劇場公開に向いていない作品を自前で配信できるから素晴らしい。文学のような映画や、世の中の問題を追求する作品など、いわゆる一般ウケしなさそうな映画を配信できるということは映画というメディアにとってとても良いことだと思う。
ソダーバーグ監督は毎年のように作品を公開している。近頃流行しているスーパーヒーロー映画について「重力に逆らったり指からビームを出すくせに、誰もセックスしないじゃないか」と、急所を衝くような批判をしたので僕は非常に好感を抱いた。その通りだ。ソダーバーグは人間と世の中をちゃんと見つめている。こういう監督の撮る映画は"信頼できる"ので、近いうちにどれかの作品について取り上げようと思っている。