down the river 第三章 第二部〜飛翔 Hymn to death〜
※本編を読まれる前に重要なお知らせです。
今回の第三章 第二部〜飛翔Hymn to death〜ではLGBT、セクシャルマイノリティの方を差別、揶揄する表現が使用されています。
事実に基づき制作されていることと、その時代背景を再現する為にあえて表現方法を変更せずに、そのまま使用しています。LGBT、セクシャルマイノリティの方々を差別、揶揄することは著者の意向とは著しく異なります。不快に思われた方へこの場を借りてお詫び申し上げます。それでは本編をお楽しみください。
ユウの家から自転車で約10分、比較的大きな店舗を構えるファストフード店がある。
そのファストフード店をアルバイト先に選んだユウは先輩から仕事を教えてもらっていた。
先輩といっても1学年下であり、高校1年生だ
。
まだ幼さの残る顔付きだが、仕事はテキパキとこなしその雰囲気はベテランと言っても過言ではない。
「初日だっていうのに、新田さん結構やるじゃないっスか。うぅん…じゃあここ任せちゃっていいですか?」
その先輩は輝く笑顔で陰鬱な顔で仕事をしているユウに声をかけた。
この先輩にずっと付きっきりでいてもらうより慣れてはいないが1人で仕事をしていた方がよっぽど良い。
「もちろんです。1人でやれる事はどんどん1人でやりますよ。」
ユウは間を置かず、待ってましたと言わんばかりに返事をした。
「そうですか!助かっちゃうっス!んじゃ分からない事あれば僕に声かけてください。僕レジに出てますからね!」
そう言うと、その先輩はレジへと出て行った。
ユウは早速任された大量の洗い物の下洗いを始めた。
『予想以上にこの雰囲気だりぃなぁ…。なんでこいつらこんなキラキラしてんの?』
アルバイトの店員は皆輝いている。
男子は皆爽やかで、女子も美人揃いだ。
『縁のない世界だな…こりゃ…。タハハ…。まぁな、こいつらだって俺が知ってる世界は知らないわけだからな…あぁ俺にだって美人の彼女が居たんだぜ?見せびらかしたかったよな、このキラキラした奴らによ。えぇ!新田みたいな奴にこんな美人の彼女がぁ!?みたいなのしてみたかったな。真里…。』
ユウの傷は当然まだ癒えていない。
しかしユウの心はまだどこかしら余裕がある様だ。
中学生時代があまりにも壮絶過ぎた為だろうか。
そしてその壮絶な時代をユウは乗り越えた訳ではない事も理解している。
自ら考えて行動し、乗り越えてきた訳ではない。
試練を乗り越えるのに最も必要なものは頭脳でも行動力でもないし、忍耐力もそこまで必要ない。
ユウの出した結論は「時間」である。
どれほどの時間が必要なのか当然定量化出来るものではないがただただ時間さえ経過すれば何事も恐るに足らないという事をユウ知っているのだ。
傷が自然治癒するまで、自分の気持ちが落ち着くまで、もしくは最大最強の救いである「死」というゴールまで、ただひたすら殻の中に閉じこもり防御の姿勢で時間が過ぎるのを待てば良い。
その考えが今の余裕に繋がっている。
それにしても凄い洗い物の量だ。
ユウは一心不乱に下洗いを続けているとあっという間に30分経過し、時計は午後6時を指していた。
「おはようございます!!」
「おはようございまぁす!!」
「おはようございます!!お?交代来たな?高橋くん!貞本くん!!お疲れ様!あがんなよ!!」
元気なやり取りが店内に響く。
『んああ…うるせぇなぁ…。夕方なのにおはようございますって…意味がわからん。訳のわかんねぇ文化を押し付けんじゃ…』
ユウの悪態が途中で止まった。
先刻まで少しあった心の余裕が一気に崩壊したのだ。
『た、たか…敬人…。く、栗栖さん…。』
「有田くん、この時間からだったんだ。何時まで?」
「あぁ俺短いよ?2時間だけだ。栗栖は?」
「えぇ…いいなぁ。あたし9時まで…」
「ハハハ…俺はこの後も色々あんの。普通の生活じゃねぇんだから。」
『な、なんで…?え…?敬人?お、お前…え?なんで?』
ユウの洗い物をしていた手が完全に止まった。
「有田くん!!高橋くんあがったからさ!新人バイトに付いてあげて!!今シンクで下洗いしてるよ!」
店長の大きな声が響く。
その声、その言葉の意味をユウは理解すると居ても立っても居られなくなってしまった。
『お、おい、待て店長。待て待て!』
大きな返事と共に敬人が近付いてくる。
学校ならば簡単に逃げ出せるが今は賃金を貰っている立場だ。
全てを放り出して逃げる訳にはいかない。
ユウの鼓動が速まる。
「ユ、ユウ…か?お前…。」
「し、新人アルバイトの…あ、新田…で…です…。よろしくお、お願いします…。」
・・・
「記憶が…飛んでるな…俺…なんか…その…ちゃんと教えられてたか…?」
ユウと敬人は奇しくも同じ時間に仕事上がりだった。
裏手の駐輪場で2人は煙草を吸っていた。
仕事中敬人は随分と戸惑っていた様だ。
敬人はそれを詫びていた様だが、ユウも同じだ。
どうやって今この時間に、この場所に辿り着いたのかさっぱり分からない。
「あ、あぁ…た、多分…俺もあんまり覚えてなくて…。ね、ねぇタカちゃん煙草変えた?」
いつも敬人から放たれていた匂いではない。
「あぁ。これ…。これか?」
敬人は汚れたズボンのポケットからマルボロを取り出して見せた。
「タカちゃん、煙草甘いの好きだったよね。キャスターマイルド…だっけ?マルボロ臭くて嫌だって…確か…」
「あ、あぁ、その…何となく…何となくだよ…。」
「…。」
「…。」
『無責任だな。お前は…。お前はいいよ…勝手に求めるだけだからな…。』
血管がはち切れんばかりに反り上がっている男性の象徴にユウは目を向けた。
今にもズボンを破いてしまいそうな勢いだ。
『だめだなぁ…俺の下半身は…。』
「ねぇタカち…」
「じゃ、じ、じゃあな。ユウ…お疲れ…俺明日も早いんだ。」
「あ、う…じ、」
ユウが返事を迷っている間に敬人は素早く煙草を消し、自転車に乗るとさっさとその場からいなくなってしまった。
「タカちゃん…なんでこのタイミングで現れるんだよ…。なんで…」
ここでユウは身体の異変に気が付いて、右手から吸いかけの煙草を落として自らの両肩を抱いた。
「う…か、身体が熱い…な、なんだ?」
男性の象徴はズボンの中で更に反り返り、左右の乳首が立ち上がり、乳輪が収縮しているのがわかる。
「くあぁ…く、くそっ…お、俺は…普通に戻ったはずなのに…な、なんだよ!この感じは…。ハァハァ…」
久しぶりに遭遇した敬人という雄が、普通という感覚を取り戻したはずのユウから雌の部分を引き出してしまったのだ。
男性の象徴の先端からは透明の粘液が止めどなく溢れてくる。
「く、くそっ!なんでこのタイミングなんだ!俺が何をした…!」
真里のセリフと泣き顔と別れ話をした時の敬人のセリフと顔が交互にユウの頭の中で再生される。
「普通の恋愛がしたい!」
「俺は普通の恋愛がしてみたかった…」
「普通に結婚して子ども産みたい!」
「俺はお前の様に女を愛する事は出来ない…。」
「私は百合子と生きていく…」
「本当に終わりなんだな…」
「百合子は喜んでくれたわ!」
「ユウ…なぜだ…」
「私の身体も喜んだ!」
「ユウ…」
「助けてよ!新田さん!」
「ユウ!」
ユウの頭の中で再生される真里のセリフと泣き顔は段々と渦を巻いてその形を歪ませていく。
対照的に敬人の顔はよりクリアになり、頭の中を大きく占領していく。
そして最後に浮かんできた映像は、棺桶に横たわるあの日の亮子だった。
そしてその古い悲しみに浸る前に狂気を帯びた亮子の父親の顔が再生される。
「お前…ホモだったんだな…。」
プッとユウの頭の中で何かが弾けた。
「もう…いいのかな。もう…迷う必要は無いのかな…。俺はこうして生きていくしかないのかな…。フフフ…悪いのかよ…お前ら普通の人間に何がわかる…。フフフ…俺はホモじゃねぇ。どちらも愛せる特別な人間だよ…。」
ユウは歪んだ笑いを吐き捨てると自分の右の乳首を強く摘まんだ。
「アッ…」
ユウは小さく喘ぐと天を見上げた。
「た、単純な話だよ…な…。俺はどちらも愛せる人間。真理は女。タカちゃんは男。凄く単純な話。今の俺は男を求めてる。ただ、ただそれだけだ。男…男が欲しい…。」
ユウは自転車に跨がり、家へと戻っていった。
・・・
「佐々木くん、今、俺凄い男が欲しいんだよ。おかしい…かな…。」
「ハハハ、あたしは新田くんの事おかしいとは言えないでしょ。」
「それもそうか…。タハハ…何か…こう…凄い嫌なんだよね。真里…女の子と別れたらすぐ男が欲しくなるってこの感覚がさ…。」
「別に?嫌なんだよねって意味がよくわからないよ?」
ユウと佐々木は学校帰りに学校近くの海岸にいた。
ここは平日だと仕事をさぼるのに適していると言えるほど人気も車通りもまばらだ。
現に社用車が何台か乱雑に駐車されており、中でサラリーマンが大口を開いて居眠りをしている。
「新田くん、人間は強がってても結局さみしがりなんだよ。居場所を失えば次の居場所を探すのは当たり前の事よ?」
佐々木は相変わらずユウの前では惜しげなく女性の様な言葉を使う。
仕草も女性そのものだ。
「居場所…。」
「そう。別に悪い事じゃない。あたしはそう思うな。来て。」
「お、おい…。」
ユウは佐々木に手を引かれテトラポットの影に連れていかれた。
さすがに力は尋常ではない。
「簡単に言うと新田くんは男が欲しいんだよね?」
佐々木はニコリと微笑むと、ユウのズボンとパンツを下ろし男性の象徴をさらけ出した。
「お、おい、佐々木くん!」
ユウは慌てているものの抵抗している様子は無い。
ユウの男性の象徴は冷たく、爽やかな冬の潮風と佐々木の視線を浴びてムクムクと膨れ上がり、冬の気温に対抗するかの様に熱を帯びていく。
「新田くん、あたしと行く?」
「行く…ってなんだよ…っアッ…き、気持ちいい…。」
佐々木の舌がユウの男性の象徴を陵辱する。
男の快感の得方を知り尽くした舌使いだ。
佐々木は下方から舌を這わせたかと思うと一気に先端からガポッと咥えた。
「うあっ!くっ!」
ユウは堪らず声を上げた。
『ひ、比較にならねぇ…タカちゃん、友原、弓下、さと美、真理…全員比べ物にならねぇ…。』
「新田くん、あたしともっと男を知ろうよ。もっと、色んな方法があるよ?」
ユウの男性の象徴から糸を引きながら口を離した佐々木は今のユウにとって何とも魅力的な誘い文句を放った。
「い、色んな方法…。俺も知らない世界かな?」
ユウは興味がありそうな笑顔を浮かべると佐々木の後頭部に右手を当てて、佐々木の口へ自らの男性の象徴を突っ込んだ。
そして激しく前後に佐々木の頭を振った。
「ん…ん…んっ…ん…」
ユウは佐々木の口を塞がれた喘ぎ声の中で、激しい絶頂を迎えた。
「ん…。」
佐々木はゆっくりとユウの絶頂の証を飲み込むと、ネバついた口を開き、飲み込んだ証拠を見せた。
そしてユウの質問への答えをネバつきの取れない口で述べた。
「うん、新田くんの知らない世界だよ。行こうよ。男が欲しいんでしょ?」
「ハァハァ…何だよそれ。教えてほしいけど俺はどうすればいいんだ?」
「その前に…✕✕✕をしまいなよ。人に見られちゃうよ?」
ユウは慌ててヌラヌラと光る男性の象徴をしまい込んだ。
「新田くんは何か勘違いしてるよ?うぅん…それにしても一杯出したね。」
佐々木は口を右手で拭うと満面の笑みをユウに披露した。
「勘違いって…何だ?どういう事?」
「新田くんがライブで話していた事をようく、よぉく聞いてたらさ、あたし思ったの。この人考え過ぎてるって。いいのよ、新田くん。✕✕✕が欲しいなら欲しいって言えばいいの。何を悩んでるのよ。」
「いや…その…」
「新田くん、何に縛られてるの?勘違いしちゃダメ。あたし達は自由よ?自由なの。他人の目が何なのよ。居場所…居場所が欲しいだけなの、人間なんて。居場所は自分で作るものよ?女の子と別れてから男が欲しくなった?どこが悪いの?✕✕✕が欲しければ求めればいいじゃない。」
「でも、元彼女は、普通に結婚して、子どもを産みたいって。それは俺も理解できるし、俺が男を求めてればお母さんには俺の子どもは見せてあげれないって事になる。」
「その為に自分自身に嘘をつける?出来るの?そんな事。」
「いや…それは…」
「行こうよ!新田くん!」
佐々木はユウの手を引くと砂浜を駆け出した。
この日、ユウの行く先は決まった。
ユウの迷いは無くなった。
そしてユウの物語は最終章を迎える。
1995年 某日
俺はこの道を歩む
お母さん
ごめん
ユウは自宅の机に刻んだ
それは今も残り
その机も残っている
ユウ
見てるか
お前の物語を
※未成年者の飲酒、喫煙は法律で禁止されています。
本作品内での飲酒、喫煙シーンはストーリー進行上必要な表現であり、未成年者の飲酒、喫煙を助長するものではありません。
※いつもご覧いただきありがとうございます。down the river 最終章①は本日から6日以内に更新予定です。
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