
我思ふ Pt.135 過去の古傷19
↑の続き
東北地方最強クラスであろう仙台駅の中でたっぷりとウォーキングというか、トレッキングというか、クライミングというか、まぁどうでもいいや。
とにかく一杯歩いたの。
迷子になったの!
文句ある!?
しつこいようだけど俺の名誉の為に言っておく!
スマートフォン、アイフォンなんか無ぇんだよ!
それが90年代末期じゃあ!
オホン。
失礼した。
仙台駅から「五月雨をあつめて早し最上川」の町までどれほどかかったかは覚えていない。
金もあまり持っていないので鈍行列車で行ったから半日近くかかったのではないか。
夜行バスでの不眠が災いしたのか電車内はがっつりと眠ってしまったので風景も時間もよく覚えていない。
正午少し前に美結が住む町の最寄り駅に到着した記憶がある。
美結が住む町の最寄り駅に降り立った私は目を剥いた。
田舎である。
それも超ド級の田舎である。
週末の昼間で、晴天にも関わらず人、車が全く見えない上に、物音までしない。
恐怖を感じるほどの静けさだ。
「こ、これは…マ、マジですか…。」
私は咥えていた煙草を落としそうになった。
私の生息域も相当な田舎だと思う。
ど田舎と言っても問題無いレベルだ。
そんなど田舎から出てきたこの私が呆然としてしまうほどの田舎だ。
「おいおい…や、やばくねぇか?ここ…とりあえず…み、美結に電話か。」
0.5コールで美結は電話に出た。
お前はウチのバンドのギタリストか。
私は電話をしながら小銭を出して駅前に一つしかない自動販売機でコーヒーを買おうとした。
「もしもし!た、たける様!?つ、着いたの!?」
「うん…着いたよ。今ね、駅前で煙草休憩してる。」
「た、たける様…。」
美結の声が詰まる。
このタイミングで鬱状態…?
そんな馬鹿な。
私はコーヒーを買うその手を止めた。
「んん?どうした?」
私は平静を装いながら声を絞り出した。
「ね、ねぇたける様?たける様、今…じ、自動販売機のところに居る?」
「ん?そう。コーヒーでも飲もうかなって。」
気が付くと、少しいじった風の2000ccクラスの排気音がする。
私はコーヒーを購入して、後ろを振り向いた。
「た、たける様ぁ!!あたし!あたしだよ!美結!!美結です!!」
100mほど先に停車してある車高を落とした五代目トヨタマークⅡの後部座席から小さな女の子が降りてきて、私の方へ走ってきた。
私は思わず煙草を落としてしまった。
しかし、それを拾う事なくその女の子を真っ直ぐ見つめた。
美結だ。
写真で見た美結だ。
しかし…写真で見るよりも数倍美しい。
そしてその瞬間は訪れる。
「たける様ぁああ!!」
美結はポフっと小さな音を立てて、小さな体を私に預けて思い切り抱き着いてきた。
『な、なんて小さい…これほど小さいとは…』
身長183cmである私の水月辺りに美結の脳天がある事から140cm〜145cmといったところだろうか。
物音がしない町、族車っぽいマークⅡなど色々と言いたい事はあるが、ここは一旦この小さな女の子を抱き締めてやりたい。
私は抱き着いてきた美結を抱き締めた。
美結は「ハァゥ…」と吐息を漏らした。
強く抱き締め過ぎたのか。
「もっとぉ…もっと思い切り…思い切り抱き締めて…」
予想外の言葉だったが私は、その言葉に従った。
私が力を込めると、美結はうっとりした表情で私の顔を見上げた。
続く
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
よろしければフォローお願いします。