down the river 最終章②
県内にある有名な私立大学の小さな講堂にユウ達新入社員20名は集合していた。
受け入れ側である大学のお偉方の長い話を乗り越え、追い打ちをかける様に会社の教育担当の長い話を聞き終えるとようやく座学が始まった。
高校レベルの主要5教科の復習、応用、そしてその少し上の学習をする。
『おいおい…俺達にこんなん教えて何を求めてんだよ…。幹部候補の連中だけやらせりゃいいじゃねえかよ…。』
ユウは心の中で愚痴を吐くものの、高校の時の様に机に突っ伏して眠るわけにもいかない。
人事課の教育担当が鬼の様な顔で睨みを効かせているからだ。
もし居眠りでもしようものなら胸ぐらを掴まれ放り出されてしまう。
既に今までの研修でそうして放り出された人間が数名いるのだ。
国立大学出身で高校時代は剣道でインターハイに出場し、しかも表彰台に乗るという文武両道を絵に描いた様なこの教育担当に刃向かえる新入社員などいる訳がない。
『勘弁してくれよ…。ったくよ…。』
昼食を挟み、午後もひたすら座学だ。
昼食後の座学はまさに拷問と言っても差し支え無い。
『こ、こりゃ会社内の研修の方が数倍楽だ…辛すぎるよ…でも頑張らねぇと。今週末はリハーサルだし、再来週はお楽しみだ!気合い入れていくぞ!』
ユウは餌を目の前にぶら下げて何とか17時の終業時間まで走り切る事が出来た。
・・・
「お前達には研修期間中嫌という程毎日同じ事を言ってやる。お前達は金を貰ってるんだ!働かせてもらってるんだ!心に刻め!眠りコケて金が貰えるほど社会は甘くない!以上!さっさと帰りの支度をしろ!」
人事課の教育担当の檄が講堂に響き渡り、ようやく解散となった。
『なんだ偉そうに。モテなさそうなツラしやがってよ。』
ユウは舌打ちしながら荷物をまとめていると人事課の教育担当の怒号が再び響き渡った。
「さっさと荷物をまとめんか!全員でまとまって校内から出なきゃいかんのだ!モタモタして大学に迷惑をかけるな!馬鹿どもが!」
『うるせぇなぁこのクソが…。』
ユウは心の中で悪態をつくが従うしかない。
この教育担当の言う通り大学側のセキュリティ上、一応部外者であるユウ達は教育担当に連れられまとめて敷地内から出なければならないのだ。
「整理が出来たらさっさと並べ!」
『刑務所かここは…』
ユウ達は言われた通り1列に並ぶと教育担当を先頭に講堂から出て数分歩き校内から出た。
「朝配ったパンフレットに明日のスケジュールが書いてある。遅刻は許さん!さっさと帰って身体を休めろ!解散だ!」
「お疲れ様でした!」
「お疲れ様っした!」
辺りに「お疲れ様でした」の声が響き渡り、ようやくユウは自由となった。
教育担当が背を向け、その場を去るとユウの同期入社の社員達が一斉にため息をついた。
ユウは話し込む同期達を尻目にさっさと宿泊先のビジネスホテルへと歩みを進めた。
この大学から徒歩で約10分の場所にそのビジネスホテルはある。
小規模繁華街を抜けて、ホテルにたどり着いたユウはチェックインを済ませ、会社から支給された夕食券を鞄から取り出すと食堂へと向かった。
「ビール…か…ビールでも飲もうかな…。なんだか疲れちまった…。」
ユウは食堂へ向かう途中、ホテルの中にある売店で缶ビールを購入した。
食堂の受け付けで夕食券を係に渡して中に入ると主菜、副菜、漬物が乗せられたトレーを渡された。
同期達の姿は無い。
ユウが一番乗りだ。
トレーを無造作に渡されても何をどうしていいのかわからないし、聞く人もいない。
ユウがオタオタしていると受け付けの係がやって来た。
「後はあそこにご飯と汁物がありますのでご自分で…」
「へぁ?あぁ…あ、ありがとうございます…ど、どうも…。」
ユウは係に言われた通りご飯とみそ汁を遠慮がちに盛ると窓際の席に着いた。
2階の食堂からは繁華街の灯りがよく見える。
「イタダキマス…」
ユウは小さく呟くと缶ビールを開けて喉へとその中身を流し込んだ。
350mlの半分程を飲み込むとユウは思わず声を出した。
「ぐはぁ…はあぁ…」
ユウはこのビールという飲み物に良い思い出は無い。
中学生にして、同性の同級生からビールで酔い潰され、そのままレイプされるという過去を持つユウはビールというものに良い印象は持っていなかった。
ところが現在はそんな過去を帳消しにしてしまうほどビールが美味く感じてしまっている。
「げっぷぶふぅっ…」
『なんでこんな苦いのにこんな美味いんだろ…。苦いのに美味いな…本当に美味い…美味いなぁ。』
先日乱交の後に酔い潰れたのもビールを飲み過ぎたせいだ。
ユウにとってトラウマになろうかというビールというものが今はもはや無くてはならないものと化しているのだ。
ユウはそのまま夕食をさっと済ませると自分の部屋へと戻った。
・・・
「ふぅ…」
部屋でシャワーを済ませたユウは備え付けの小さな椅子に座ると煙草に火を点けた。
「この先どうすんだろな俺は…親は喜んでくれた。今まで俺が親にした唯一の親孝行だろうな。父親が働いている会社の親会社に息子が就職する…これ程の親孝行はあるまい…。」
急に涙が溢れそうになった。
「だが…親にすべき最大の親孝行である孫を見せるという事は俺はしてやれないかもしれない…。今の俺はもはや両性愛とは違う…完全に俺は同性愛者だ。頭の中は✕✕✕しかない…。真里…真理が最後だったのかも…。真理が最後のチャンスだったのかも…。」
遂にユウの目から涙が溢れた。
「俺にとって正解はどれだったんだ…一体どれが俺にとって一番良かったんだろ…。」
ユウは初めて参加した乱交を思い出した。
一番年齢が高いと見れる男性で40代くらい、後は20代後半から30代で構成された裸の10人にウィッグ、化粧を施され、まるでドレスの様な華やかなワンピースで着飾り、背筋を伸ばして正座をしたユウと佐々木が囲まれている。
ユウと佐々木が囲まれているのは店内のカラオケステージの様な場所だ。
そこには大きな薄手の白いシーツが敷かれており、ここで2人は犯される。
「今日はトットちゃんだけじゃなくて、トットちゃんの同級生ユウちゃんにも来てもらいました。経験は豊富なので安心して楽しんで下さい。皆で可愛がってあげて下さいね。お尻にする時は必ずコンドームを着けて、2人の嫌がる事は絶対にしないで下さい。」
佐々木の姉の友人が店のカウンターからその10人に声をかけると全員の目が血走り始めた。
そしてユウの鼓動は最高速度を打ち出す。
貧血の直前の様にユウの目の前がチカチカと細かく光り始めた。
『これから数秒後俺達はこいつらにめちゃくちゃにされる…。さ、最高だ…。ただで、なんの努力もせず✕✕✕がたくさん味わえるなんて…。しかも…なんの後腐れも無ぇなんて最高だ…。』
「ハァハァ…ぐっ…ハァハァ…」
ユウの紅い口紅が施された口が半開きになり息が荒くなるのを見た佐々木がユウの右手を握った。
「ユウ…大丈夫?」
ユウの右手はねっとりとした汗が吹き出ている。
「大丈夫…ただひたすら楽しみなだけだよ…お前の言った通り最高のパーティーじゃんか…。」
「ンフフ…頼もしいわ…一緒に楽しもう?」
佐々木が微笑むと佐々木の姉の友人が再び話し始めた。
「片付けとかあるので朝4時までに済ませて下さい。それではルールを守って楽しんで下さいね。トット、ユウ、皆さんを気持ち良くしてあげてね。」
店内に有線の音楽が流れ始めると、10人が一斉に佐々木とユウに飛びかかってきた。
華やかな衣装はあっという間に剥ぎ取られ、生々しい男の身体が現れた。
その後は阿鼻叫喚の地獄絵図だ。
荒い息づかい、低い喘ぎ声、水遊びでもしてるかの様な音、高い湿度、生臭い空気が店内に充満している。
次々と飛んでくる精液をユウ達は、顔や口で受け止める。
視界は様々な形状の男性の象徴が埋め尽くし、息も出来ない程だ。
そして最後に鼻の穴に精液を注がれ、ユウは咳き込んでしまった。
高い粘度を持った液体に気管を塞がれ、息が出来ない。
窒息してしまうかどうかというところでユウは何かに気が付き、目が覚めた。
「はっ!あ!熱っ!」
ユウはどうやら居眠りをしていたらしい。
煙草が燃え尽きようとしてユウの人差し指を焼いた痛みで身体が波を打つ様に跳ね上がり、椅子と共に倒れ込んでしまった。
「痛ぇ…」
ユウは臀部を擦りながら起き上がり煙草を灰皿に押し付けた。
「別に嫌じゃなかった…嫌じゃなかったのになんでこうも繰り返し夢に見るんだろ。ったくもう。これで何回目だよ。」
ユウは佐々木と初めて乱交に参加した時の事を何度となく夢に見てしまう。
ユウ自身はトラウマではないと思っているがどこか深層心理にトラウマとして刻まれているのかもしれない。
そしてユウも薄々とそうではないかと自身を疑い始めているのだ。
「くそっ…」
せっかく着替えた寝間着の襟が汗で濡れてしまっている。
「ふぅ…落ち着け…イライラしてもしょうがないんだ…。着替えればいいだけの事。」
ぐっしょりと濡れた襟を掴み寝間着を脱ぐ時に自分の汗の匂いが鼻に入り込むとユウのイライラはピークに達した。
「もう1回シャワーしなきゃいけねぇじゃねぇか…」
ユウは自分でもなぜこんなにイライラしているのか全く理解できない。
「…。」
まるでユウのイライラに怯えるかの様に部屋の中の時間が停止している。
「ふざけ…!!!」
抑え込んでいたものが暴発してしまう寸前にPHSの呼び出し音が鳴り響いた。
「はい、…お、お母さん…どした?…うん…あぁ…そうなの?いや、別にいいよ…え?あぁわかった。ありがと。あぁ楽しくやってんよ。大丈夫だって。あぁ。あぁわかった。あぁ。ありがとね。はいはい。あぁ。」
ユウは通話を切ると狭い部屋の天井を見上げた。
そして見上げた顔を今度は力無くガクッと下に向けると再び煙草に手を伸ばした。
そして煙草を口に咥えると、火を点けずにそのまま天井を見上げた。
「忙しいんだけどなぁ…」
未来とか運命とか全部知っていたら考え方とか生き方とか変わると思いますか?
恐らく変わらないでしょうね。
見てくださいよ、この川の流れを。
人間はこうやってただただ流れていくしかないんです。
行き先が海だろうと、田んぼだろうがこうやってひたすら流れて行くしかないんですよ。
分かれ道、分岐点、そんなもの考えてる暇は無いんです。
スピード感無いですよね、生きてると。
でも実際は凄いスピードなんです。
で、ゴールの瞬間思うんですよ。
あぁ、あっという間だったって。
そうは思いませんか?
後日談・某氏より
※未成年者の飲酒、喫煙は法律で禁止されています。
本作品内での飲酒、喫煙シーンはストーリー進行上必要な表現であり、未成年者の飲酒、喫煙を助長するものではありません。
※いつもご覧いただきありがとうございます。down the river 最終章③は本日から6日以内に更新予定です。
申し訳ございませんが最終章は6日毎の更新とさせていただきます。
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今後とも、本作品をよろしくお願いします。
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