風雷の門と氷炎の扉14
『囲まれた!この数、この距離…ウリュ様の攻撃も間に合わないか…!』
『せ、せっかくこの子達が戦ってくれたのに…!私が無駄にしてしまった…私のせいだ…!ヒョウエまで巻き添えに…!それだけは…!!』
「ブモォオオオ!!」
その刹那、サンに取り付かれて身体を溶かされ始めたバーが叫んだ。
叫んだと同時にぐちゃぐちゃに溶かされかけた身体を起こしたのだ。
ウリュ達が何度起こそうとしても起きなかった身体を起こした。
「マタアエルゥあああああ!!マタアエルアエルゥアァァ!!」
バーは苦痛に歪んだ表情を浮かべると、自分に取り付いたサンに構わず、その巨体と頭を激しく振り乱し、ウリュ達に襲いかかってきたサンに突撃した。
ウリュ達に襲いかかってきたサンがまるでゴム毬のように宙へと跳ね上がった。
バーの最期の突撃でウリュ達は軽いかすり傷で済んだ訳である。
「ウゥおあああ!!ブモァ!アァァ!!ハヤクゥ!!ハヤクハヤクイゲェハヤクイゲェ!ハヤクイケェ!!」
しばらくサンと戦い続けたバーも限界だ。
遂に何体ものサンに取り付かれて身動きが取れなくなり、溶かされ始めた。
「ま、また話した!!ウリュ様!!」
「ええ…。早く行けって…あの子達…!!なんでそこまでして…なんで…」
ウリュはサンに跡形も無く溶かされていくバーを見て涙を止める事が出来なかった。
自分達はブーク、バーを狩り、そして食ってきた。
今までその肉を何度となく口にしてきたのだ。
今自分達の為にサンへ立ち向かったブークやバーの中に自分達が食ってきた個体の子孫がいるかもしれない。
つい先日ヒョウエが口にした、フウマが狩った個体の親兄弟もいるかもしれないのだ。
ウリュはそう考えると涙が止まらなくなってしまうのだ。
「ウリュ様、今度こそあの者達の思いに答えましょう!!さぁ!門へ!!行きましょう!!」
ヒョウエはウリュの両肩に手を置き、強い口調で行動を促した。
「う、うん!分かった!!行こう!」
ウリュはすぐに門へと向かった。
それに気が付いたサンの残党がカクカクと動きながらウリュ達へと向かってくる。
「な、なんでこいつらは…」
ウリュはギリッと歯を食いしばると、刃を縦にしてブツブツと何かを呟くと刃が赤く光り輝き始めた。
「消えろ!!邪魔よ!!うあぁ!」
ウリュはその光り輝いた刃をそのまま縦に振り降ろすと赤い龍が八匹水平に発射され、サンを消滅させていった。
『上に昇っていった八本の赤い光が目標に対して落下してくるのではなく、真横に進んでいった!!凄い…凄いぞ…』
ヒョウエは消し飛んでいくサンを見ながら門の突破は間違い無いと確信した。
100m程先に巨大な門は見えている。
巨大な門はゴゴゴォ!と稲光と共に轟音をがなり立ててその存在感を撒き散らしている。
「ウリュ様!さぁ!頑張りましょう!あ!また、サンが…!!ウリュ様!」
サンは無限に湧いて出てくる。
そして無差別に生物を襲撃する。
「何で…」
ウリュは途中で言葉を区切り、刃を赤く光り輝かせた。
「何で邪魔するのよ!!私がここを通るのがそんなに気に入らないの!?消えろ!!」
ウリュは刃をもう一度思い切り縦に振った。
『で、でかい!!』
ヒョウエは現れた八匹の赤い龍のその大きさに驚いた。
その龍は一気に辺りのサンを一掃した。
「うあぁぁぁぁ!!」
ウリュは怒りに任せて刃を横に振り抜くと、サンを消滅させた八匹の赤い龍はそのまま方向を変えて、門の巨大なかんぬき目掛けて飛んでいった。
『ウリュ様…す、凄い…。こんなにでかいならもしかして…門を打ち破れるかもしれん!!凄いぞ!凄い!』
八匹の赤い龍は、大きな口を開き、凄まじいスピードでかんぬきへ突っ込んでいく。
「ウリュ様!!」
「ヒョウエ!伏せなさい!!」
ズドン!!!
バシッ!!!
ヒョウエが腹這いになり地に伏せるのとほぼ同時に凄まじい轟音と爆風が辺りに散らばった。
「ぐわぁ!」
ヒョウエは腹這いのまま頭を両手で抱え込んだ。
ヒョウエの腹には轟音の振動が波打ち、頭を抱えた両手には爆風がぶち当たる。
「ウ、ウリュ様!ご無事ですか!?」
「…。」
返事が無い。
ヒョウエは爆風が止むのを確認すると顔を上げて辺りを見回した。
「ウリュ様!!ウリュ様ぁ!!」
ヒョウエは先刻の自分と同じように腹這いになって両手で頭を抱えた体勢のウリュを発見し、すぐに駆け寄った。
「ウリュ様!」
ウリュはヒョウエの呼びかけに顔を上げて身体を起こした。
視線をヒョウエの後ろに向けたウリュは愕然したのだ。
「噓…噓でしょ…」
恐らくウリュの全力で放ったであろう赤い龍は門のかんぬきに直撃していた。
しかし、そのかんぬきは端が欠損しているだけだったのである。
「ば、馬鹿な…あれで…?」
ヒョウエもウリュの視線を追い、その事実に愕然とする。
「なんで…」
ぷちゅぷちゅとまた嫌な音が周囲から聞こえてくる。
「ウリュ様、動けますか…?」
「ハハハ…ごめん…正直立ってるのがやっと…ダメみたい…。」
「そ、そんな…」
「バー…ブーク…あの子達に報いる事は出来なかったな…」
「ウリュ様、一旦引きましょう。帰りますよ…頑張りましょう!」
弱気になるウリュをヒョウエは必死に奮い立たせる。
ぷちゅぷちゅと嫌な音は段々と増えてくる。
「帰って作戦を練り直しましょう。」
「ゼータ…あなたが行くべきだったのかな…」
「さぁ、お喋りする力は足に回しましょう。さぁ。」
「ゼータ…ごめんなさい…フウマ様も…ごめんなさい…フウマ様の言う事聞いておけば良かった…」
「ウリュ様っ!!!!」
ヒョウエはウリュの細く、小さな両肩に手を置くと思い切り大きな声を出した。
自分の無力さと、自分の為に散っていったバー、ブーク、そしてゼータへの思いで自分を見失いそうになっているウリュを現実へと引き戻す為にヒョウエは今まで出した事がないくらいの大声を上げた。
「ウリュ様はゼータを殺した!!呼ばれるその声に導かれてゼータを殺したのです!!そしてバーやブークもウリュ様に導かれて死んでいったのです!全てはウリュ様の為です!!私もウリュ様の為ならこの命を差出します!!ですがっ!今のウリュ様にはこの命を差出そうとは思いません!!ゼータも!バーも!ブークも!きっと今!そう思っているはず!!痛くて…苦しくて…それでもウリュ様の為ならばと命を捧げてきた!呆けてしまったウリュ様を見てみんなは落胆しているでしょう!!」
「ヒョ、ヒョウエ…。」
「戦う術を持たない私が偉そうに言うのは間違っているとは思います!ですが!力尽きるまで足掻き続ける事こそ!命を捧げてきた者達への礼儀ではないでしょうか!!私はそう思います!!」
「ヒョウエ…分かったよ…だからそんなに大きい声出さないで…お願い…。」
ヒョウエはウリュの潤んだ赤い目を見て、咄嗟に視線を外した。
「す、すみません…でした…。」
「ヒョウエ…私は…いつまで…どれだけ頑張ればいいの…?もう…見えないよ…先が見えないよぉ…」
ヒョウエの両手にウリュの肩の震えが伝わってくる。
「い、いつまで…どれだけ…」
ヒョウエは言葉に詰まる。
ウリュは小さく、細いこの身体で、そして幼く、純粋な心でここまで戦ってきたのだ。
ヒョウエはそれをウリュの両肩から感じ取った。
そう考えると下手なセリフを吐くわけにはいかない。
しかし、間もなくサンがその身体を完成させて再び襲いかかってくる。
時間がない。
ウリュを納得させ、身体を動かしてもらうにはどうすれば良いのか、ヒョウエは頭をフル回転させた。
数秒後、ヒョウエは何かを悟った。
そして何時ものようにニカッと笑った。
「ヒョ、ヒョウエ…?」
「簡単な質問です、ウリュ様。いつまで頑張るか…どれだけ頑張るか…」
ヒョウエはもう一度とびきりの笑顔を振りまいた。
「死ぬまで…死ぬほどです。」
「死ぬまで…死ぬほど…」
「そうです。簡単な話です。期間は死ぬまで!程度は死ぬほど!」
「ヒョウエ…」
「私はお供します。死ぬまで、死ぬほど。」
「…。」
ウリュの目から涙は消えていた。
そのかわりにこめかみに太い血管が浮き出してきた。
ウリュは拳を握り締めて、身体が硬直するほど全身に力が入っている。
「さ、さぁ…行きましょう。」
ヒョウエはウリュの両肩から手を下ろすと、退却の方向へ踵を返した。
「どこへ行くの?ヒョウエ…」
「退却です。もう一度作戦を練り…」
ウリュが手に持つ刃が赤く光り輝き始めた。
「ウリュ様…?もう力も限界なのでは…?」
「そうね…だから…?」
「…だからって…。」
「ヒョウエは言ったわ?死ぬまで…死ぬほどって。」
「…。」
「私は…まだ死んでないわ?」
「ウリュ様…しかしサンが…サンがもう…」
ヒョウエの言葉通りサンの実体化が完了した。
「何度でもやる。ヒョウエ、私は生きているでしょ?」
「い、生きています。」
ヒョウエの返答に疲れ切った笑顔で頷いたウリュは刃だけではなく全身を赤く光らせた。
「ですが…!!」
ヒョウエは慌ててウリュへ話しかけた。
「…?」
「死んではなりません。」
「フフッ…言ってる事がちぐはぐね。離れなさい、ヒョウエ。」
「分かりました!ですが!死んではなりません!!」
「分かったよ。さぁ…離れて!!」
サンがウリュとヒョウエに向かって不気味な動きで襲いかかってきた。
ウリュは下唇をガリッと噛むと、全身を赤く光らせたまま思い切り刃を振り下ろした。
お読みいただきありがとうございます。
次回更新予定は本日から7日後を予定しております。
最近長編連載の間にショートショートも投稿しております。
お読みいただけると幸いです。
尚、筆者は会社員として生計を立てておりますので更新に前後がございます。
ご理解のほど宜しくお願いします。
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