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down the river 最終章⑩

この扉を開けるその時は、胸の鼓動に合わせて指先まで血液が循環しているのがわかる程に興奮していた。
何人もの人間が性欲を自分で解消してくれるという事がこれほどまでに承認欲求を満たすものだとはこの扉を開けるまで知る由もなかった。
敬人に抱かれている時ですらこれほど満たされた事は無い。
友原、弓下の2人を同時に相手をしてる時もない。

「あれは、俺の身体を愛していたわけじゃない。ただのレイプだ。でも、ここで俺を抱いてくれる人達はトットや俺を、俺達の身体を愛してくれる。俺達を必要としてくれている人達だ。」

ユウは留美の店の裏口前に立って独り言を呟いていた。
不気味な夕焼けがユウの頬を染める。
初夏を迎えるこの時期の夕焼けにしては酷く赤い。
そしてユウはドアノブに手をかけ、その扉を開いた。
ドアに仕掛けられた呼び鈴が綺麗な音を奏でる。

「あ、ユウ、いらっしゃい。表開いてるよ?表から入ればいいのに。」

ユウがメイクルーム兼休憩室につながる裏口から入ると、呼び鈴に反応した留美が出迎えてくれた。

「トットは?まだ来てないんですか?」

「うん、多分もうすぐ来るよ。1時間前くらいかな、電話来たからね。とりあえず座りなよ。ビール奢るけど?」

「ん、あぁ。水でいいです。」

「え?何で…?めず…らしいね。」

留美はユウの反応を見て何かを悟った様だ。
しかし確証は持てないといった様子だ。

「まぁいいわ。座って?飲み物持ってくる。」

「すいません。」

留美がキッチンへ向かったのを見送るとユウはメイクルーム兼休憩室の椅子に座った。
ユウはメイク用の大きな鏡に写る自分の姿を見つめた。

『普通…の…男なんだけどな…』

ユウはここで女へと変わり、心は花と化す。
その花は男の精を養分に大輪の花へと成長を遂げる。

『全部に決着をつけるんだ。普通じゃなくてもいい。普通じゃなくても…』

「はい、どうぞ。お水じゃあんまりだからコーヒーにしたけど良かった?」

留美がコーヒーカップとスティックシュガーとミルクを持って戻って来た。
ユウの鼻にコーヒーの香りが入って来る。

「あ、水でも良かったけど…でも嬉しいな。ありがたく…。」

ユウはスティックシュガーのみをコーヒーにさっと入れると雑にかき混ぜ、一口飲み込んだ。

「あぁ、美味い。んで、なんか落ち着く。」

「良かった。」

留美が微笑むのを一瞥するとユウは煙草に火を点けた。

「ユウ、どうするの?松川さんとの話。トットも楽しみにしてたけど。」

「松川さんのところに行きますよ。」

「本当に!?良かったぁ!!松川さんも喜ぶよ!そっか…ユウ、良かったよ…?」

留美は自分とユウの反応にギャップを感じ、ユウの顔を見つめた。

「ユウ…?迷いでもあるの?」

ユウが煙草の煙を吐き出すタイミングで留美は切り出した。

「ありましたよ、さっきまでね。今はありません。今はこの次の事を考えてます。」

ユウは留美の顔を見返し、微笑むともう一度煙草を吸い込んだ。

「でも、元気ない様に見えるな。」

「そうかもしれません。」

「どうして?」

「…。」

ユウが沈黙する事数十秒後、店の裏口に仕掛けられた呼び鈴が鳴った。
留美は呆れた様な顔でため息をつくと、裏口へと向かった。

「ユウ!トットが来たよ!ユウ!」

「トット…。」

留美の声と共に小走りする足音が聞こえてきた。
そしてメイクルーム兼休憩室の扉が開くと佐々木が入ってきた。
佐々木はニコリと可愛らしい笑顔をユウに向けた。
その笑顔はもはや女性のものだ。

「トット、俺は松川さんのところに行く事にした。悪い条件じゃないし、松川さんも良い人そうだしな。」

「うん!良かった!お嫁さんみたいなもんだね!」

「いやいや…タハハ…そこまではいかないよ。使用人…みたいなもんさ。」

佐々木はユウの隣に腰を降ろした。
佐々木見た目は男性そのものだが仕草や雰囲気は完全に女性だ。
佐々木から漂う「女」の色気と香水の匂いであろうか、バニラの様な甘い香りにユウは酔い痴れた。

「松川さんとこに行くならユウは…今日のパーティーは参加出来ないか…。あたし一人で頑張んなきゃ。」

「トット、大丈夫か?」

「元々一人であの人数相手にしてたんだから別に平気だよ。気にせず松川さんとゆっくりしなよ。ね?」

「そうか…。」

ユウは理解出来なかった。
なぜ佐々木はこうして自分に訪れた幸運をここまで喜んでくれるのだろうか。
ユウには本当に理解出来ない感情だ。

「ユウ!松川さんも来たよ!店内に来て挨拶して!!…え?…うん、はいはい、わかりました…ユウ!全部服脱いで!裸でこっちきなさい!」

松川も到着した様だ。
留美からユウへの指示は全裸で挨拶しろとの事だった。

『裸で…?な、どういう事だ?まぁ、見られ慣れてるからな…別に構わないが…。』

ユウは佐々木に目を向けると、笑顔のまま首を縦にゆっくりと1回振った。
それを確認したユウは素早く全裸になった。
佐々木はユウが脱いだ服を丁寧に折り畳む。全て綺麗に折り畳み終えた佐々木の笑顔はどことなく憂いを帯びた笑顔に変化した。

「ユウ…楽しかった。」

佐々木の言葉と表情を受け止めた瞬間、堪えきれない程の快感がユウを襲った。
自分は勝った。
ユウはあまりの快感に暴れだしそうになり、それを抑える為に短く切ってある爪が掌に食い込む程に拳を握り込んだ。
確実な勝利という美酒はユウを奇行に走らせてしまいそうな程に美味であり、その覚醒作用は死人ですらその身を起こし走り出してしまうのではないかという程だ。
ユウは更に拳を握り込み、自身を何とか抑え込むと無言でゆっくりと頷いた。
そしてユウはメイクルーム兼休憩室の扉を開けて松川が待っている店内へと足を進めた。
普通ではありえない場所で全裸になっているという事実が内部からユウの男性の象徴を刺激し、廊下の湿った空気がユウの男性の象徴を撫で回し外部から刺激する。
内と外両方の刺激でユウの男性の象徴はムクムクと膨れ上がり、その先端はついに天を仰いだ。
興奮は最高到達点まで辿り着き、視界は赤黒く染まっていく。
ユウは目眩に耐えて辺りを見回すと廊下の床、壁から血が染み出している様に見えた。
見慣れたこの廊下全体がまるで血の滴る肉の塊の様だ。
だが不思議とユウの心に恐怖は無い。

「早く、松川さんのところに行かなきゃ…ハァハァ…」

ユウはその場で男性の象徴を慰めたいという衝動と戦いながらその足を進める。
短い店内までの廊下が恐ろしく長く感じる。

「ンアッ!クッ…!ウッ!」

清掃の行き届いた廊下を裸足で歩くとダイレクトにその振動が男性の象徴に伝わり、ユウは遂に艶めかしい声を上げてしまった。

「ま、松川さん…」

夢の中の様だ。
水中を歩いている様に足が進まず、視界は赤黒いままで霧がかかり始めた。

「ハァハァ…クソッ…なんだ?この感覚は…上手くいかない夢…悪夢みたいだ…ハァハァ…ここは…これは現実なんだよな…。」

ユウは力を振り絞り、足をひたすら前へと運んだ。
ユウは不遇の時代を思い返した。
その辛く長かった不遇の時代が終わろうとしている。
「普通」という対価を支払った代わりに大金を稼ぎ、憧れのバンドに加入できるのだ。

「ハハ…ふ、普通じゃなくて…良かった…なぁ…タカちゃん…鍵原…穴地…フフフ…ありがとうよ…」

ユウは自分を作り上げた敬人と鍵原、穴地にお礼を言い終え、顔を上げると店内に入る扉の前に立っていた。

「来ましたよ…松川さん…」

ユウは扉を開けた。

『暗い…真っ暗だ。』

照明は点灯していない。

「ユウ、そのまま。そこで止まって。僕が迎えに行く。目を閉じて、✕✕✕を突き出して。腰を思い切り前に突き出すんだ。」

『松川さんの声…セックス…するのかな…まぁでも早くイキたい…イカせてほしい…』

ユウは松川に言われた通り目を閉じて、腰を突き出した。
目を開いても閉じてもさほど視界は変わらない。
それほどの暗闇だ。
しかし、ユウは健気に松川に言われた通りに行動した。

「ユウ、ここだね。」

「あぁん…」

ユウの男性の象徴にねっとりとしたものが絡み付く。
ユウは松川に気に入られようと精一杯女らしい喘ぎをした。
そして実際に声を出さずにはいられない程に気持ちがいい。

『気持ちいい…温かい…松川さんの口の中、こんなに気持ち良かったっけ…』

ニュッニュッという音がユウの耳に入って来る。
その音のリズムに合わせて訪れるその快感は数十秒続き、ユウはその快感に身を沈めようとしたその時、ニュポッという音と共にその快感の波と音が途絶えた。

「ま、松川さん…今…止めないで…」

「最後までするよ。大丈夫。さぁ目を閉じたまま…こっちにおいで?」

ユウは目を閉じた暗闇の中で手を引かれるといつものカラオケステージであろう場所に辿り着いた。
シーツの感触が素足に心地良い冷たさを演出している。

「さ、横になって。足を広げて。」

松川はユウに指示を出すとカチャカチャと何かを準備し始めた。

『この音…ローション…か…あぁ、抱いてくれるのか…早くイカせてほしい…。』

ユウは仰向けの状態で足を広げて待っていると肛門にヒヤリとした感触がした。
そして中にローションが流し込まれていく感触がユウの身を震わせた。

「ユウ、欲しい?」

「はい…早く欲しいです…」

「僕の家で働く?決めたのかい?」

「決めました…」

ジーと何か聞き慣れない音がユウの耳に入って来た。
しかしそれが何の音か考える余裕は今のユウには無い。
松川の質問は続く。

「決めたってどっち?」

「松川さんに仕えます…ハァハァ…」

ユウは段々と我慢が効かなくなってきた様だ。

「僕の言う事を聞いて、キチンと僕の世話をするという事でいいね?」

「もちろんです!ハァハァハァハァ…!」

ユウの息が限界まで荒くなっていく。

「よし、じゃあ契約成立だね。僕の言う事をちゃんと聞くんだよ?」

「ハァハァ!はい!わかりました!ハァハァハァハァ!」

「よし、これからよろしくね、ユウ。」

「ハァハァ!はい!わかったから…わかったから!早くして…!早くしてください!!」

「目を開けて。」

「はい!開けるから!…早くし…し…て…?」

照明が灯った。
急に明るくなった事でユウの視界は白く染まりよく周りが見えない。

「松川…さん…?」

ユウは広げた自分足の間に写る影を見て驚いた。

「じゃ…じゃない!?」

パンパンに張った大胸筋と、6つに分かれた腹筋、丸太の様な腕、それは明らかに松川のものではない。
そしてユウは混乱しながらも状況を確認していく。
筋骨隆々の男が少なくとも2人、スーツ姿の松川らしきシルエット、そしてその他に何人かいる事は話し声などから把握できた。
恐怖がじわじわとユウの心を染めていく。
そして視界が戻る頃、ユウは両手を押さえ込まれて動けなくなっていた。

『ビ、ビデオ…カメラ!?まさか!松川さん!まさか!』

今まで聞いた事が無いあの機械音はビデオカメラだった。
本格的でかなりの大きさだ。

「る、留美さん!留美さぁん!撮影してる!駄目だろ!?留美さん!撮影は禁止してるはず!!留美さん!留美さん!」

ユウの視界に留美が写った。
留美は撮影を止めようとはしない。

「留美さん!」

「ユウ、松川さんのところで頑張るのよ?」

「留美さん!どういう事だ!留美さん!」

留美は一言だけ言うとその場からいなくなった。

「ま、松川さん!どういう事!?」

「うわぁ、ユウ、✕✕✕縮んできちゃったね。おい。」

「はい。」

筋骨隆々の男の1人がユウの男性の象徴を口に含んだ。

「ちゃんとカメラ回しときなよ?照明もちゃんとして。」

松川は細かく指示を出している。

『こ、この感触!さっきのはこいつか!松川さんじゃなかった…。』

「うぁあ!や、止めろ!クッ…松川さん!説明して!ねぇ!松川さん!松川さん!」

「ユウ、はい。これ名刺。」

松川は仰向けのまま筋骨隆々の男にされるがままのユウに名刺を見せた。

  High brilliant企画(株)
   代表取締役副社長 
    松川 勇斗
           Tel xxxx-xx-xxxx

「は、ハイブリのしゃ、副社長!!?まさか!」

「さすが変態ユウくん。ウチの会社の作品見ててくれてたんだ。」

「う、嘘…クッ!う…アン…」

High brilliant企画はユウお気に入りのゲイやクロスドレッサー等を取り扱うAVメーカーだ。
その界隈では「ハイブリ」の愛称で親しまれており、有名な会社だ。

「く、こんな田舎になんでハイブリの副社長が…?どうして…うぁっく…ウン…」

筋骨隆々の男は周りの声が聞こえていないかの様に一心不乱にユウの男性の象徴を口で弄んでいる。

「なんでかって?知りたい?」

松川はニヤニヤしながらゆっくり名刺を裏返した。
その瞬間ユウの男性の象徴を咥えていた筋骨隆々の男が咳き込んだ。

「ぐ、ゲホ!おいおい、ユウくん。ゲフ!ゴホッ!急にお漏らしするなよ…ゲホ!」

ユウはあまりの恐怖に失禁してしまったのだ。
尿が出ていくにつれそそり勃っていたユウの男性の象徴は小さく萎んでいく。

「あ、あ…うそ…だろ…あ…」

「これからよろしくね。ユウ。」


 虎遠会 武谷組 若頭
 
  虎遠会 ✕✕✕支部 総統括兼務

    松川勇斗
        
            Tel xxxx-xx-xxxx



※未成年者の飲酒、喫煙は法律で禁止されています。
本作品内での飲酒、喫煙シーンはストーリー進行上必要な表現であり、未成年者の飲酒、喫煙を助長するものではありません。

※いつもご覧いただきありがとうございます。down the river 最終章⑪は本日から6日以内に更新予定です。
申し訳ございませんが最終章は6日毎の更新とさせていただきます。
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もう少しで本作品も完結となります。
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