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「マスクガール」 - 顔が不細工だから、何?
★★★★+
面白かったです。面白かったのですが、なんとも表現しがたい後味の作品。まさにウェブトゥーン原作といった趣きの世界観、どろどろ地底を流れるような前半から表出て殴り合っていく後半への切り替え、とても韓国ドラマっぽいなと思いました。初めこそルッキズムに苦しめられる登場人物たちの苛酷(でありつつどこか身勝手)な苦悩が軸にあるのですが、中盤からは復讐と反撃(どっちも行き過ぎ)の追いかけっこですっかりアウトレイジなエンターテインメントに。血飛沫のテンションの高さが「パラサイト」にも似ているなと思いました。なので後半は展開も読めるというか、そこまで中身が重要でもなくて、観終わったあとはなんか「長い旅が終わった…」みたいな気分になりました。
主人公のキム・モミ(イ・ハンビョル)は幼いころから人に注目されることが大好きで、歌手になることを夢見ていました。けれど彼女はスタイルはグラマーで抜群なのに顔立ちはいわゆるブス。母親にも不細工と言われ、学校でも顔をけなされ、夢が叶うことはなくいつしか普通の会社員になっていたのです。
そんなモミですが、仮面をつけて歌や踊りをライブ配信することを思いつき、スタイルの良さや得意の踊りを活かして「マスクガール」としてネットで人気を得ていきます。
ですが会社では相変わらず不細工枠のモミ。イケメンなチーム長に恋をしますが、報われるはずもありません。しかも顔で人を贔屓しないと思っていたチーム長が同僚の分かりやすい美人と不倫関係にあることを知ってしまい…。
一方、モミと同じ会社で働く課長のチェ・オナム(アン・ジェホン)は、熱狂的なマスクガールのファン。観察力のある彼はふとしたことからモミがマスクガールであることに気づきます。自らも外見に強烈なコンプレックスを持っていたオナムは一気にモミへの想いを募らせていくように。チーム長の不倫に自暴自棄になるモミ。そんな彼女の後をつけるオナム。とある事故が起こり、それぞれの道は最悪な方向に向かい始めてしまうのです。
まずはモミ役のイ・ハンビョル。オーディションでこの役を射止めた新人女優さんのようですが、すごく的確にモミを表現しているのだと思います。たぶん普通にしていたら綺麗な人なのですが(スタイルめちゃめちゃいいし)、目つきや表情がとても不美人。さらに顔でずっと挫折してきたわりに内には相も変わらず沸るような承認欲求を抱えているのがモミ。そこから来るひねくれや凡人的な性格の悪さまで滲み出るように伝わってくる演技だと思いました。
そしてモミが途中で整形したあとを演じるのはナナ。いや整形したにしたってお手本のような美人になりすぎだろ!とは思いますが、顔のせいであらゆるものを失っていたようなモミがこんな風に変われたのならなんかよかった、みたいな気持ちに。さらに年を経てコ・ヒョンジョンになっていくとちょっと系統違いすぎて同一人物として観辛くはあったのですが、いずれも過去の不細工だった時代の闇を消さずに目の奥に秘めている感じはさすがです。
で、劇画的なバイオレンステイストをほぼひとりで担ってくのがオナムの母・キョンジャを演じるヨム・ヘラン。ちょうど「悪霊狩猟団: カウンターズ」のシーズン2を観ているので同じヨム・ヘランでこうも違うか(子供を愛してハードに闘うおばさんという点は同じなのに)と感心しきりでした。途中からはほぼキョンジャが主役のホラーです。
いずれにしろみんな自分にとっての正義しか見ていないのでぶつかる他ない状態なのですが、自分の罪もどこかで分かっていて自覚を持って一線飛び越えてるので最終的にはデスマッチ。観ていて削られる感じがしました(笑)。
作品通してのテーマというと分かりませんが、単純にルッキズムを批判するような話でもなく、モミはむしろ自分には魅力的な肉体と才能があるのになぜ顔が不細工なだけでみんな自分を見ないのだろうと心底不思議に思っているような印象がありました。なので彼女は逃げるしかないところに来るまで整形はしないのです。早々にすべてを諦めて二次元に逃避していたオナムにはそんな彼女が想像もしていなかった希望のように思えたのではないでしょうか。後半に行くにつれ顔がいい・悪いのウェイトがどんどん希薄になっていく展開にも似た感想を抱きました(そんなことはどうでもいいからこの手でお前の息の根を止めるみたいな世界へ)。
不細工の象徴みたいな役でデビューしたイ・ハンビョルですが、この先きっと普通に魅力的な女性の役を演じればいい女優さんとして人気が出そうですし、そういう側面でもキム・モミというキャラクターが顔の良し悪しという概念を蹴散らしていく、そんなドラマかもしれません。
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