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「イノベーション統一理論」⑧~「ブルー・オーシャン理論」を「CAS理論」で解き明かす

前回ご説明したイエローテイルの戦略キャンバス・価値曲線です。原典に掲載されているものにビール・カクテルドリンク業界の価値曲線を追加したものです。

「油谷・梅澤統合理論」でこの戦略キャンバス・価値曲線を説明できるかが今回のテーマですが、つまりは、「CAS理論」(梅澤)と「NOHL理論」(油谷)にこの戦略キャンバスが整合しているのか、それぞれの理論でこのイエローテイルが説明できるのか?どう説明されるのか?ということが課題となります。

イエローテイルをCAS理論で説明する

ブルー・オーシャン理論が「商品価値」観点であるので、まずはこの商品への理解が深まることを期待して「生活価値」観点のCAS理論でイエローテイルの分析・説明をしてみましょう。CASとは以下のフレームワークであったことを思い出してください。

前回説明したように、イエローテイルの成功は「ビールやカクテルなど他のアルコールを好む人にとっても手が伸ばしやすい友人たちと気軽に楽しめる飲み物」であったという点にあります。それはイエローテイル以前の「ワインの選びにくさ、とっつきにくさ」という問題があったことが背景です。

それが発売されたことによって、「気の置けない友人たちとアルコールを楽しむ機会に選ばれるワイン」というブルー・オーシャン市場を創造したわけです。

これを、イエローテイル登場以前の生活に戻ってCAS分析をすると以下のようになります。

まず、イエローテイルは結果として「気の置けない友人たちとアルコールを楽しむ機会に選ばれるワイン」ですから、イエローテイル登場以前の「カジュアルなホームパーティ」などの機会に、そこに集う酒好きの友人たちの好みに気を配るホスト役の人たちのニーズを考える必要があります。すなわち、それが「ニーズを強く持つ一群の人々」です。そしてそのオケージョンでの「Doニーズ」は当然ながら、

「酒好きが集まるカジュアルなパーティで、友人たちの好みのお酒でもてなしたい」(友人たちの好みに気を配るパーティのホスト)

となります。これがQ1(生活Doニーズ)です。

そこでそのホストが取るであろう生活行動は、様々な友人たちの顔を思い浮かべながらそれぞれが好むであろうアルコールを買いそろえることです。つまりQ2(充足手段)

「多様な好みに応えるよう各種のアルコールをそろえておく」

となります。

しかし、友人たちの中に普段はワインを好むような人がいると「生活上の問題」が発生します。それを具体的に列挙すると上図のように

・もてなし用の高級ワインは種々うんちくや好みがあり多人数のカジュアルなパーティには堅苦しいし、選ぶのも難しく悩ましい(そもそもカジュアルではない)
・うんちく不要のデイリーワインではもてなしには役不足・失礼。ゲストの口に合うかも心配。
・結局カジュアルなパーティではワインは出せずワイン好きの人へのもてなしにはやましさがある。

要は堅苦しくとっつきにくく選ぶに選べないので、カジュアルなパーティではワインを出すのか出さないのかや銘柄をどうするのかの葛藤が生じるということです。結果として「無難」なビールやカクテルドリンクなどを用意するということになりますが、ワイン好きの人のことが気になるということになるわけです。

つまり、生活上の問題(BUT)は結局のところ

「ワインを出さなければワイン好きの友人に対してやましい思いがある」が
「ワインを出すには選ぶのに悩まされる」
すなわち
「ワインは気軽に出せないし、出すなら悩む」


ということになります。従って、Q1にBUTを反転して付加して創造するこのオケージョンで発生している未充足の強いニーズ

「酒好きが集まるカジュアルなパーティで、”ワインも含めた”友人たちの好みのお酒を”悩まず選んで”もてなしたい」

ということになります。すなわち、この分析によってイエローテイル登場以前には、イエローテイルが応えたニーズが未充足の強い状態で潜在していたということが明らかになったわけです。また、ここで分析にインプットされた情報はイエローテイルが登場する以前にもインタビュー調査などで収集し得たものです(事実、イエローテイルのメーカーは収集できている)。つまり、イエローテイル登場以前に戦略キャンパスと価値曲線がその登場と成功を予測し得たことはCASでも同様に予測し得たということになります。前者が「競合要因」すなわち「商品要素」に着眼した「商品価値観点」でイエローテイルの価値創造をしている一方、後者は「生活ニーズの達成」と「生活上の問題の解決」すなわち「生活価値観点」に着眼してイエローテイルの価値創造をしているということになります。つまりは両者はやはり表裏一体の関係であるということになります。表裏一体であるということは、複数の観点を持っていることでより確実に価値創造、未来予測が可能になるという意味を持っています。

この結論は①「商品価値観点のブルー・オーシャン理論と生活価値観点のCAS理論は表裏一体の関係にあり、どちらからアプローチしても同じ結論を導き価値創造を行うことが可能である」ということになります。

この表裏一体の関係をさらに具体的に検討します。

イエローテイルが応えた「未充足の強いニーズ」は
「酒好きが集まるカジュアルなパーティで、”ワインも含めた”友人たちの好みのお酒を”悩まず選んで”もてなしたい」
ですが、元の生活ニーズQ1「酒好きが集まるカジュアルなパーティで、友人たちの好みのお酒でもてなしたい」に付記された”ワインも含めた””悩まず選んで”の部分において新たな価値が創造されていると言えるわけです。これは充足手段Q2における生活上の問題BUTに対応する部分です。このBUTの解決によって新たな価値が創造されていることになります。

そのBUTを解決することによって生まれる新たな価値は従来商品からの商品要素の変化によって具体化されるわけです。すなわち「4つのアクション」によってもたらされた競争要因=商品要素の変化です。

この「4つのアクション」と「BUT」の関係をまとめると下図のようになります。

この図はいくつかのことを示唆していますが、特に重要なことは
CAS分析を行うと4つのアクションの方向性を明確にできる
③CASと共に4つのアクションを行うと未充足の強いニーズに応える具体的商品アイデアが生まれやすくなる
④ブルー・オーシャン理論はディファレントニーズに応える理論であり、すなわち生活変化をもたらす
ということになり、これらも上記の①に加えてこの検討の結論となります。②ですが、これはブルー・オーシャン理論への批判的な言い方をすると従来の「4つのアクション」が試行錯誤的であったり、業界の価値観点と生活者の価値観点がよく整理できていなかったりした点をCASが改善できるということでもあります。この批判観点はいずれ整理したいと思っています。

④の観点では、イエローテイルのもたらした新たな生活は

「気軽にパーティ用ワインを選べる生活」

です。4つのアクションの「付け加える」に「楽しさと冒険」というのがありますが、そのような生活に変化しホストが気軽に選べてカジュアルなパーティにイエローテイルが供される結果、それまでは愛好家同士でしか話題にできなかったワインについてイエローテイルならカジュアルなパーティでも話題にして楽しめるし、ワインを飲まない人も気軽にワインにチャレンジする冒険が味わえるといった生活も派生的に生まれているわけです。

ディファレントニーズに応え、新たな生活を生み出したということは「新たな満足」を創造したということでありすなわちイノベーションを起こしたということに他なりません。そしてブルー・オーシャン理論がCAS理論で説明できるということはブルー・オーシャン理論もまた「生活工学的観点」を持っているものである、ということになります。すなわちこれも結論に加えるべきであり、

ブルー・オーシャン理論は生活工学的観点を持っており、生活工学的観点を共通の基盤としてCAS理論と統合できる。

ということになります。

キム&モボルニュはおそらく生活工学については知らないでしょうが、我々の見方ではブルー・オーシャン理論は潜在的にでも明らかに生活工学的観点を持っており「6つのパス」にも「それとなく」あらわれています。下図は「6つのパス」を私なりに解釈して「生活工学的観点」との関係を簡単にまとめてみたものです。僭越ではありますが、これはキム&モボルニュが言っていないことですがその真意、あるいはあるべき表現はこうではないかという分析です。

その結論ですが、下図のように6つのパスにおけるレッド・オーシャン的観点とブルー・オーシャン的観点はそのまま人間工学的観点と生活工学的観点の違いになっていると言えます。言い方を変えると、

⑥「ブルー・オーシャン戦略」とは「商品・サービスの開発を人間工学的観点から生活工学的観点に切り替えること」
であるということになります。

本稿の最後にもう一度この分析の結論をまとめておきます。

①商品価値観点のブルー・オーシャン理論と生活価値観点のCAS理論は表裏一体の関係にあり、どちらからアプローチしても同じ結論を導き価値創造を行うことが可能である
CAS分析を行うと4つのアクションの方向性を明確にできる
③CASと共に4つのアクションを行うと未充足の強いニーズに応える具体的商品アイデアが生まれやすくなる
④ブルー・オーシャン理論はディファレントニーズに応える理論であり、すなわち生活変化をもたらす
ブルー・オーシャン理論は生活工学的観点を持っており、生活工学的観点を共通の基盤としてCAS理論と統合できる。
⑥「ブルー・オーシャン戦略」とは「商品・サービスの開発を人間工学的観点から生活工学的観点に切り替えること」である。

前回、原典からイエローテイルを含む4つの商品・サービスの戦略キャンバス・価値曲線を以下のように引用・提示しています。

これらについてそれぞれCASを行ったものが下図です。上図のようにメリハリ、独自性、訴求力のある戦略キャンパス・価値曲線を持つブルー・オーシャン商品はすべてCASで説明できることの検証です。

次回は同様にブルー・オーシャン理論をNOHL理論で解き明かしてみることとします。



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