街のちょっとステキなフレーズから、翻訳の難しさを知る
今朝、散歩をしていると、とある飲食店の壁に、こんなものが貼ってあるのを見つけました。お店のキャッチコピー的なものだと思われます。
写真では左端が少し切れてしまっているのですが、全文は「这个世界除了筷子/什么都可以放下」というものでした。ベタベタに直訳すると、「この世界には箸を除いて、どんなものも置いていく(≒放置する)ことができる」となります。
無粋を承知でその含意を説明すると、「箸以外に必要なものはない」、すなわち「食べること以上に大事なことなんてない」というようなことでしょうか。
僕はこれを見た時、とてもステキなフレーズだなと思いました。食べることを何よりも大事にする中国らしさに溢れているし、その「食べることが大事だ」ということを直接的に言わずに「箸」(筷子)というアイテムによってメタファー的に示そうとしていることが、とてもオシャレだなと思ったのです。
そんなわけで、街で見かけたこの小さな感動を日本の皆様にも伝えねば……と、Twitterでつぶやこうとしたのですが。
なんだかピンとくる翻訳が思いつかず、ニュアンスがうまいこと伝えられないなあ、と思ってしまったのです。
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上述したベタ訳のように、「この世界には箸を除いて、どんなものも置いていくことができる」などとしてしまうと、雰囲気がぶち壊しなうえに何が言いたいのかよくわかりません。
かといって僕がTwitterに書いた「この世界には、箸以外に持っておくべきものなんてない」というのも、なんだか日本語として小慣れていないというか、若干の不自然さが否めません。
Twitterにこれを投稿する前に、他にも候補は思いついていました。「この世界には箸より重要なものなんてない」「箸の他には必要なものなんてない」「箸の他には何もいらない」などですが、どれもいまいちピンと来ません。
もう少し意訳に寄せれば「食べることこそ至上の喜びだ」「食べることこそこの世の全てだ」とかもできそうですが、原文から少し離れすぎてるような気がするし、何より僕が感動した「箸」(筷子)という言葉のメタファー性が再現できていません。
最後まで投稿する候補に残っていたのは「箸以外はすべて捨ててしまおう」というものだったのですが、少し冷静になって「B’zじゃあるまいし」と思って候補から取り下げてしまいました。
ともかく、こういうフレーズの翻訳ってやっぱり難しいなあ、と改めて認識した出来事でした。
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このフレーズについてウンウン考えながら、もう一つ思い出したことがありました。以前連絡を取り合っていた、中国の大学に通う日本語科の学生さんに、学校から出された課題を見てほしいと言われた時のことです。
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