見出し画像

僕らは「組織としての中国共産党」から何を学ぶべきなのか(「中国共産党 世界最強の組織」読書感想文)

今日のnoteでは、先日読んだ「中国共産党 世界最強の組織 1億党員の入党・教育から活動まで」という本を読んで学んだことを書きます。先日のnoteでもこの本については触れたのですが、そこでは書ききれないくらいの多くの学びがこの本にはありました。

その学びというのは、組織の運営や行政を担う主体としての中国共産党が持つ仕組みです。まさにタイトルにあるような「世界最強の組織」と呼ぶにふさわしいような仕組みを、少なくともシステム上、中国共産党は備えています。それがあるからこそ、中国共産党は70年にわたって中国を治め、また経済的・文化的にも大きく飛躍させてきたのだな、ということを知りました。

今日の記事では、その学びを大きく2つに分けて共有してみたいと思います。

知識をアップデートし、ビジョンを共有する仕組み

この見出しだと、なんだか意識高いビジネスセミナーの一節のように見えてしまうのですが、しかしどちらも組織にとっては大切なことです。中国共産党は、この「知識のアップデート」と「ビジョンの共有」を、仕組みによって実現しようとしています。

まず「知識のアップデート」について。中国共産党に入ろうとする人は入党にあたって厳格かつ煩雑な審査プロセスを乗り越えるにあたって、まずは熱意を持って政治思想などについて学ぶ必要があります。

しかし、それよりももっと重要なのは、入党後にも絶えず知識のアップデートが求められるということです。中国共産党の基本ユニットであり、各行政単位・教育機関・企業に設置される党支部の「基本機能」の中には、「支部の党員の政治学習を組織化して行う」ことが定められています。

つまり指導者が変わるたびに更新される重要思想や、それに伴って変更される指針、政策について、積極的に学ぶことが必要なのです。各党支部では、これを勉強会や討論発表などの形で実現しようとしています。その内容はどうあれ、このように「学び続ける」ことを重要視している組織が、日本の企業や政党の中にどれだけあるでしょうか。少なくとも中国共産党は、それを仕組みにしようとしています。

また、そうしてアップデートした知識を党内、さらには党の外で生活を行う「群衆」(共産党員でも、その他の政党員でもない、いわゆる普通の人々」)に、ビジョンとして共有していくことも重要だとされています。

これを実現するために、大小の各党組織はプロパガンダを含む宣伝や教育、各種のレクリエーションなどによってさまざまに「群衆」と交わり、その重要性を浸透させるべく活動します。

これは決して、「上からの思想の押し付け」で片付けられるようなものではありません。「群衆」を助け、導きながら、国や行政にとって、ひいては庶民自身にとって何が大切なのかを懸命に伝えようとする努力であるという面も、非常に大きいのではないかと思います。

「上位下達」と「下位上達」の両立

もう一つ本を読んで感心したのが、中国共産党が「上位下達」と「下位上達」の両立をしっかり目指そうとしている点です。中国共産党といえば独裁的で、厳しい統制によって抑えつけを行うものというイメージを持たれがちですが、本書を読むとそれが一面的な見方でしかないことを思い知らされます。

この本には農村部・都市部における各種の党委員会や、企業・学校における党組織の活動内容が紹介されていますが、それらの行動指針にはほぼ必ず「重要な問題について、構成員の討議によって決定すること」や、「民衆の意見を吸い上げること」のように、末端や現場のいうことに耳を傾けろ、というものが含まれています。

つまり必ずしも、中国共産党は組織として「俺たちのいうことを聞け」と力で抑えつけようとしているのではなく、むしろ末端の庶民の言うことをきちんと聞くことを奨励する態度なのです。

上が設定する課題や理想を下に伝え、下はそのさらに下の者をとりまとめながら課題解決や理想の実現のために動く。その過程で現場から出た意見を、有益なアイデアとして上に伝える。上はそれを生かし、改善のための指針を更新していく。こういった仕組みを、中国共産党は持っているのです。

最近話題となったゲーム・ネット利用時間の規制や、教育にかかる「双減政策」(校外学習の大幅な規制)に関しても、多数の人々からの不満を吸い上げた結果、実行されたという側面を持ちます。決して中国共産党は、思いのまま横暴に人民をコントロールする存在というだけではないといえるでしょう。

むろん、すべてが完璧ではないけれど

もちろん、これらは仕組み的なこと、理想のうえでのことであって、実際の運用が追いついていない部分も多々あります。人間関係guan xiがなによりもモノをいう中国人の社会において、特定の人物またはグループの利益が優先されてしまい、これらの仕組みが十全に機能しない場合も多いでしょう。また、他の「民主的な」国々の行政機構がそうであるように、仮にうまく機能したとしても、結果として失敗する場合があることも普通に考えられます。

ただ、少なくとも中国共産党は一般的にイメージされるような「独裁的で、ごく少数の特権者が大多数を抑圧している」というような言葉で片付けられないものを持っていることは、あらためて認識しなければならないとこの本を読んで思いました。

そして、何よりこれまで中国に暮らしてきて、多少の軋轢や不満を持ちつつもおおむね人々がいまの体制を支持しているのかということへの解像度が、一段と上がったような気がしました。僕自身、中国共産党がただの横暴な独裁者ではないとは認識できていたつもりだったのですが、実際の機構やシステムについて知ると、それでもたくさんの偏見を持っていたのだなと気付かされました。

先日も書きましたが、中国について語る上での必携書の一つだと思いました。ぜひ多くの人に読んでほしいと思います。

ここから先は

0字

月額マガジン「中国を言葉にするマガジン」の読み放題版はこちらからどうぞ。購読期間中は500以上の有料…

中国を言葉にするマガジン 読み放題版

¥800 / 月

この記事が参加している募集

いただいたサポートは貴重な日本円収入として、日本経済に還元する所存です。