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銭湯でおじいさん二人がアワビについて熱弁していた話
仕事が終わり銭湯へ行った。
身を清め、灼熱の個室へ入る。
サウナに入る時は、どっしりと正坐をし、
姿勢と呼吸を整えるのが、僕は好きだ。
今度は汗を綺麗に流し、極寒の水風呂へ入る。
身体を冷やし、熱を冷ます。
しっかりと水気を拭い、
外気浴で休む。
すると突然、
隣にいたおじいさんが二人、
何やら景気よく話し始めた。
「俺が若い時はよくアワビなんか採りにいったもんだよ」
「へぇ〜凄いねえ」
「今じゃもう採れねえけどな」
「潜ったらそのままあの世行きだべよ」
アワビ採りのおじいさんは、
気持ちよさそうに息巻いている。
もう一人のおじいさんは、
静かに聞きながら鋭くツッコミを入れている。
「なんかいいなあ」
そう思いながら、
僕は2セット目へ向かう。
「でもあれだよ、アワビはステーキで食うのが一番うまいんだよ」
「へぇ〜」
10分程経って、外気浴エリアへ戻ると、
二人はまだアワビの話をしていた。
この辺りからなんとなく
「今日は整うのは諦めよう」
そんな予感に駆られ始めた。
そう思いながら3セット目へ向かう。
「いや本当にねえ、俺はアワビだったら小指一本で取れちゃうんだから」
「おめえさん、プレエボウイだねえ」
また10分程経って、外気浴エリアへ戻ると、
二人のもはやアワビの話なのかなんなのか
よくわからない話はさらに加熱していた。
洗練された、
最新の施設も良いけれど、
こうした古き良き風景が、
僕はなんだか好きだ。
男というのは、いつまでも子供であり、
いつまでも助兵衛である。