独から生まれたる
土台レシピ17・サブジ
- とるにたらない みちたるひ -
この詩を書いたのは友人の写真家、田渕睦深さん。ふと思い出しては日々の暮らしに当てはめます。
例えばそれは、
フクロウの声を聴いた夜。
春の雪解けのときだけに現れる沢の流れに耳を澄ますとき。
羽釜の蓋を開けたときにカニ穴ができているとき。
食卓で夫と「おいしいね」と喜んだ日。
何でもない日常を毎日祝えるのは、私にはどんなことよりも嬉しいのです。
最近は惹かれることだけに目を向けて、人付き合いも少し避けるようになりました。良い意味で孤独というか、ひとりでいることに心地よさを感じています。「しーん」と音がするほど静寂に満ちた森にいると、心はやすらぎ、ザワつかず、凪のように鎮まります。万事大丈夫、と思えるのです。
創造していく。
これは人間にとってかけがえのないことです。一番大切なことと言ってもいい。
この言葉を辞書で引くと、新しいものを生み出すこと、とありますが、私が考える‘創造’は、自分らしく生きるために知恵を使うこと、でしょうか。
創造は才能がなければできないことではなく、生まれたときにすべての人が天から授かったものです。どんな立場でも、どのような環境でも、その中で発見し、自分らしい言動していくことが、この言葉の真意であると思います。
創造はモノ作りに限ったことではありません。自らで心を動かしていく行為のことです。自分を喜々とさせたり、安心を得たり、または辛いことや嫌な気持ちを変換させていったりする。そういう‘力’のことかもしれない。精神や暮らしの中に存在しているものです。
微細の出来事を、宝物を見つけたように発見していくことも創造であると思います。私がフクロウの声を聴いたり、カニ穴を見つけたときのように。
昔、家の前の木に毎日、水をあげる人がいました。その人はいつも木に話しかけながら、互いの存在を確かめ合うかのようでした。二つの魂だけが知る、小さいけれどすてきな世界。これが創造です。
私のことで言えば、手縫いで布あそびをしているときとか、台所で料理しながら新しいことを見つけたときでしょうか。些細なことを形にしていったり、それを広げていくことが嬉しくてしかたがないのです。
愉しさと創造は同じ括りなんだなぁと、改めて思います。
ちなみに’愉しさ’は能動的に愉しむもの。’楽しさ’は与えられたもので楽しむもの。自力と他力の違いは大きいですね。
そして、ここが肝心なのですが、
この‘創造’は、みんなで一緒に群れながら、ではできません。あくまで「個」が創造していくものであり、誰かと共有することとは違います。確かにみんなで一緒に生み出すことはあるでしょう。しかし共有の喜びと、個の創造は別です。
そして創造していくときに大切なことは、「独」という力を信じることです。
「独」というは孤独の独。ひとりという意味ですから、どこかマイナスのイメージがあるでしょうか。けれど私はこの「独」こそ、個が個でいる喜びを表した字であり、独は「自分が自分で自分を自分する」(これはいつも胸に刻んでいる言葉で、記憶違いでなければ、故人の老師・内山興正が何かのときにおっしゃった言葉です)の略語だと考えています。
独というのは周りに毒されず、翻弄されず、自分だけの道を歩むための、いわば‘言霊’のような字。人やモノをアテにせず、自分で考え行動していくという意であると思っています。
「独」「創造」「愉しい」、この3つは三位一体であります。
独であることで愉しみが生まれ、それが創造を育み、‘個’を形成させていきます。
情報をたやすく共有できる世の中で、独と創造だけは「わたし」だけが育めるもの。携帯を握りしめてもダメなのです。創造は外から得られるものではなく、自分で見つけなければなりませんから。日々の暮らしに目を凝らし、耳を澄ませ、静かにひとり創造していく。何が「わたし」を高めるのか。喜びをもたらすのか。自身を見つめ、それに素直に従う。
’とるにたらない’日常に意識を向けていくとやがて、今まで素通りしてきた物事にもみちたるようになるのです。
そして、料理家として一言。
「料理は独の中で創造し,愉しむものである。」
土台レシピ17・サブジ
さて、今回の土台レシピは「サブジ」。
サブジとは、野菜をスパイスで炒めたり蒸し煮した、インドの家庭料理です。カレーよりも簡単にでき、西洋料理の付け合せや、エスニック料理の副菜としても重宝します。
キャベツ、じゃがいも、カリフラワー、かぶ、茄子、ズッキーニ、大根、インゲン、オクラ、れんこんなど、一種類の野菜だけで作れますし、使用するスパイスも少ないので、ハードルの低い料理だと思います。
シンプルな味なので、ほかの料理との相性がよく、我が家ではおかずキッシュと組み合わせることもあります。
今の季節は春キャベツがおいしいですね。
夏の定番はオクラでしょうか。
下記の写真はオクラ、ヤングコーン、シシトウを使いました。このときはマスタードシードは使わず、クミンシードと少量のカレー粉を加えて作りましたが、サブジの場合はカレー粉より単品のスパイスを使うほうが、まっすぐな味になって、食材の個性を邪魔しないような気がします。個人的な感想ですが、インドの屋台や友人の家で食べたカレーに近づいて、懐かしさを覚えます。
今回はサブジの一例として、
ズッキーニのサブジ
をご紹介します。
「宮本しばにの素描料理」(アノニマ・スタジオWeb連載)でも掲載していますので、ぜひそちらも読んでみてください。
サブジに使用するスパイスは3種類。
クミンシード、マスタードシード、ターメリック。
あとは鷹の爪と生姜です。
1.野菜を食べやすい大きさにカットしてボウルに入れる。
塩をふたつまみほど入れて手で混ぜる。
野菜を舐めてみて程よく塩味が付いているくらいの量。浅漬けを作るような感じで、手で揉むようにして。
2.フライパンに油、クミンシード、マスタードシード、鷹の爪を入れて火にかける(弱めの中火)。
3.マスタードシードがパチパチとはねてきたら、生姜のみじん切りを入れてさっと炒める。
4.水で溶かしたターメリック(こうすることで焦がすのを防げる)を加えてさっと炒める。
5.野菜を加えて炒める。(中火)
6.バターを加えて炒め、溶けたら蓋をする。野菜が柔らかくまで蒸し煮する。(弱めの中火)
7.野菜が柔らかくなったら蓋を取り、水分が残っていたら火を強めて水分を飛ばす。(強火)
8.味をチェックし、必要に応じて塩を足す。出来上がり。
難しい料理ではありませんが、最初は作り方を理解するために、まずは野菜1つで作ってみてください。慣れてきたら、半端な野菜をいくつか使ってオリジナルサブジを作ってもいいですね。