【ワークライフバランス指数 #2/5】なぜ日本人は働きすぎ?その歴史と文化的背景
「働き方改革」が叫ばれて久しいですが、日本人の長時間労働の習慣は一朝一夕には変わらないようです。前回の記事で見たように、日本の労働時間はOECD諸国の中でもトップクラス。でも、なぜ日本人はこんなにも働きすぎなのでしょうか?今回は、その歴史的・文化的背景に迫ってみます。
※参考
OECD Better Life Index
明治維新からの「追いつけ追い越せ」精神
日本の「働きすぎ」の起源は、意外にも明治時代にさかのぼります。1868年の明治維新以降、日本は急速な近代化を進めました。「和魂洋才」のスローガンのもと、西洋の技術を取り入れつつ、日本独自の精神性を保つ努力が続きました。
この時期、「富国強兵」「殖産興業」といった国策が打ち出され、国を挙げて西洋に追いつこうという機運が高まりました。この「追いつけ追い越せ」精神が、日本人の勤勉さの礎を築いたと言えるでしょう。
実際、明治時代の工場労働者の労働時間は驚くべきものでした。1911年の農商務省の調査によると、紡績工場の女性労働者の1日の平均労働時間は12時間を超えていたそうです。
戦後の高度経済成長と「企業戦士」の誕生
第二次世界大戦後、日本は焼け野原から奇跡的な経済復興を遂げます。1955年から1973年までの高度経済成長期、日本のGDPは年平均10%以上の成長を記録しました。
この時期、「モーレツ社員」「企業戦士」といった言葉が生まれ、会社のために身を粉にして働く労働者が称賛されるようになりました。終身雇用制度と年功序列制度が確立し、会社への忠誠心が高く評価される風潮が強まりました。
日本的経営の特徴である「稟議制度」も、この時期に確立しました。多くの人の承認を得る必要があるこのシステムは、意思決定の遅さや残業の増加をもたらす一因となりました。
バブル経済と「24時間戦えますか」
1980年代後半のバブル経済期、日本の労働環境はさらに過酷になりました。有名な「24時間戦えますか」というキャッチコピーが流行したのもこの頃です。
この時期、サービス残業や過労死が社会問題として認識されるようになりました。1988年、過労死の遺族らによって「過労死110番」が開設されたのも象徴的な出来事でした。
文化的要因:集団主義と「和」の重視
日本の長時間労働を支える文化的な要因もあります。日本社会の特徴である集団主義は、「みんなで一緒に頑張る」という価値観を生み出しました。これは良い面もありますが、同時に「周りに合わせる」という同調圧力にもなり得ます。
また、「和を以て貴しと為す」という聖徳太子の言葉に代表されるように、日本では調和を重んじる文化があります。この「和」の精神は、職場での人間関係を円滑にする一方で、意見の対立を避け、必要以上に会議を長引かせる原因にもなっています。
経済的要因:終身雇用制度の影響
日本的経営の特徴である終身雇用制度も、長時間労働を助長する一因です。「会社に尽くせば、会社が守ってくれる」という暗黙の了解は、労働者の会社への帰属意識を高め、時には過剰な献身をもたらしました。
また、年功序列制度と相まって、若いうちに「がむしゃらに働く」ことが評価される傾向がありました。これが、新入社員や若手社員の長時間労働につながっています。
技術の進歩:24時間働ける呪い
皮肉なことに、技術の進歩も長時間労働を助長しています。スマートフォンやリモートワークの普及により、「いつでもどこでも仕事ができる」環境が整いました。これは柔軟な働き方を可能にする一方で、仕事とプライベートの境界を曖昧にし、事実上の長時間労働をもたらしています。
変わりゆく日本の労働環境
しかし、近年では状況に変化の兆しが見えます。2018年に成立した「働き方改革関連法」により、残業時間の上限規制や有給休暇の取得義務化が進められています。
また、若い世代を中心に、ワーク・ライフバランスを重視する傾向が強まっています。2023年の調査によると、新入社員の58.7%が「プライベートを大切にしたい」と回答しており、この数字は年々増加しています。
さらに、コロナ禍を経て、リモートワークやフレックスタイム制の導入が加速しました。これらの変化は、従来の「会社に長時間いることが評価される」という価値観を覆す可能性を秘めています。
未来に向けて:日本型ワーク・ライフバランスの構築
日本の長時間労働の背景には、このように複雑な歴史的・文化的要因があります。単純に「残業を減らせばいい」という話ではないのです。
これからの日本に必要なのは、歴史から学びつつも、新しい時代に即した労働観を構築することではないでしょうか。例えば:
「和」の精神を活かしつつ、効率的な意思決定プロセスを導入する
集団主義の良さを保ちながら、個人の多様性も尊重する
技術を活用しつつ、「つながらない権利」も保障する
などが考えられます。
私たち一人一人が、「なぜ働くのか」「どう働くべきか」を真剣に考え、議論を重ねていく必要があります。その積み重ねが、日本独自の、バランスの取れた新しい労働文化を生み出すのではないでしょうか。
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