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短編小説 「ゼリーの海」


ゼラチン王国と寒天王国が、ゼリーの食感を巡って二年間も争っている世界。戦場から遠く離れた場所に、「ゼリー海」と呼ばれる美しい海が広がっている。そこでは、戦争に参加しない人々がバカンスを楽しんでいた。

ゼリー海は、ゼラチンの弾力性と粘性、寒天の硬さとなめらかさが絶妙に混ざり合った、不思議な海。その波はぷるぷると揺れ、人々はその上を浮かんだり、泳いだり、時には沈んだりして遊んでいる。

ある晴れた日、ゼラチン王国から訪れた家族がゼリー海の砂浜にやってきた。子どもたちは歓声を上げながら、海に飛び込む。一方で、寒天王国から来た若者たちも近くで遊んでいた。彼らは互いに国が違うことを気にする様子もなく、笑顔で言葉を交わす。

 「このゼリー海、本当に素晴らしいね」

 「そうだね。自分たちの国にもこんな海があればいいのに」そんな会話が自然と生まれる。

やがて、人々はこのゼリー海の魅力を自分たちの国でも再現できないかと考え始めた。ゼラチン王国の人々はゼラチンを使い、寒天王国の人々は寒天を使って、それぞれ「究極のゼリー」を作ろうと試みる。

しかし、どちらもなかなかゼリー海のような食感を再現できない。夕暮れ時、ゼラチン王国の老婦人と寒天王国の少年が、砂浜で出会った。老婦人はゼリー作りに悩んでおり、少年も同じく行き詰まっていた。

 「どうしてもうまくいかないわね」

 「僕たちも何度も試しているけど、ゼリー海みたいにはならないんだ」

二人はしばらく考え込んだ後、ふと顔を見合わせた。

 「もしかして、ゼラチンと寒天を一緒に使えば…」

 「それだ!」

国が違う二人は協力して、新しいゼリー作りに挑戦した。ゼラチンの弾力性と粘性、寒天の硬さとなめらかさを組み合わせて、試行錯誤を重ねる。夜空に星が輝く頃、ついに「究極のゼリー」が完成した。そのゼリーはまさにゼリー海の食感そのもの。二人は喜び合い、他の人々にも食べてもらうことにした。

翌日、砂浜にはゼラチン王国と寒天王国の人々が集まり、新しいゼリーを口にした。みんなの顔に驚きと喜びが広がる。

 「これが本当のゼリーだ!」

 「こんなに美味しいゼリーは初めてだ!」

人々は国の違いを忘れ、共に笑い合い、ゼリーを楽しんだ。しかし、その頃、遠く離れた戦場では、両国の国王たちが険しい表情で向き合っていた。互いに譲れないプライドから、ついに「さくらんぼ砲」を使おうとしていた。

 「これで終わりにするぞ!」

 「受けて立つ!」

その瞬間、伝令が駆け込んできた。

 「国王様!国民たちが共に『究極のゼリー』を作り出しました!戦う理由がなくなったのです!」

国王たちは驚き、しばらく沈黙した。やがて、お互いに顔を見合わせ、重いため息をつく。

 「我々は何をしていたのだろうか…」

 「国民たちは最初から分かっていたのかもしれないな」

こうして、ゼラチン王国と寒天王国の長きにわたる争いは終わりを告げた。人々は「究極のゼリー」を通じて、共に手を取り合い、新たな未来へと歩み始めた。

ゼリー海は今日も穏やかに波打ち、人々の笑い声が響いている。そこには、名前も持たない、ただゼリーを愛する人々の姿があった。




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