短編小説 「僕はメロンパン。君はあんパン?」
中学校の帰り道、小腹が空いてコンビニのパンの棚の前で腕を組みながら選んでいた。
「メロンパン…、あんパン…」
どちらを選ぶか非常に悩みどころだ。メロンパンはバター味のメロンパンではなくメロン味のメロンパンだ。僕が好きなのは洒落たものじゃなくて、地味なメロン似せたバター味のメロンパンがいい。
かと言って、あんパンは粒餡。粒餡は嫌いって訳じゃない。たい焼きは粒餡がいいし、あん饅も粒餡がいい。だけど、あんパンはこし餡がいい。
悩んでいると突然、背中にゾクゾクと気配を感じた。どうやら、僕がお邪魔の様子みたいだ。一歩左にずれてじっくり悩もうとしたら、女性の微笑み声が聞こえてきた。
「ふぅ〜ん、悩みどころだね〜」
思わず振り返ると、グレーのスーツ姿で髪の長い美人な女性が僕を見下ろすように微笑みながら立っていた。
「私なら、あんパンかな。メロン味のメロンパンも悪くないけど、あんパンは粒餡だ。少年は…どっちだい?」
暑い。声がつかかって言葉が出ないし、ハッキリ言ってもうどっちだっていい。この場から逃げ出したい。
答えない僕を不思議に思ったのか、女性は僕に顔を近づけ囁いた。
「どうかしたかい?」
甘い息、甘い香り、さらさらした長い髪の毛。同世代の女子たちにはないものばかり。これが大人の女性なんだな…と、思いながら小さく答えた。
「僕はメロンパン…」
女性は優しく微笑みながら、棚からあんパンを一つ手に取ってレジに向かっていった。
心臓の鼓動がうるさく動いているのがよくわかる。こんなにうるさく動いていて大丈夫なんだろか?そんなこんなでメロンパンを持ってレジに並んだ。
会計を済ませて外へ出ると、さっきの女性がベンチに腰をかけながらあんパンを頬張っていた。僕に気づいた女性がベンチの座面を左手で軽く叩いた。
僕は隣に座れって勝手に解釈して隣に座った。座ると女性が口を開いた。
「私はあんパン。少年はメロンパン?」
面白い自己紹介だな…。
少しニヤつきながら答えた。
「そう、僕はメロンパン」
女性は大笑いしながら答えた。
「それって自己紹介?面白いね!」
「そう、私はあんパン!よろしくね!」
赤っ恥をかいた。
でも、笑ってくれたからチャラにできた。
時間を割いてくれて、ありがとうございました。