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短編小説 「正月の餅残り」
正月休みが終わり、成人の日も過ぎた。すっかりいつもの日常に戻った頃の一月下旬。リビングの窓際で日向ぼっこをする、猫のチャピ太郎がくわぁーと大きなあくびをした。私は正月に食べきれなかった切り餅をかけうどんに入れて力うどんにして食べていた。炭水化物に炭水化物を足して食べるだなんて鬼畜の所業かもしれない。
だが仕方がない。
うどんが食べたかったのだから。
うどんも食べられて、残った餅も美味しく食べられるのは力うどんしか思いつかなかったのだから。これぞ一石二鳥さ。構わないじゃないか。ちっとばかしか太るだけさ。太ったら痩せればいいのだから。罪悪感を抱く前にさっさと食べ終えて太ろうじゃないか。チャピ太郎もだらしなく腹をだしている。私もそのうちそうなるだろう。
ところでチャピ太郎、君は好きな人の前で固まったことはあるか?
私はある。
高校三年生の頃、ちょうど正月明けの初登校の日の夕方、隣のクラスの彼奴を校舎裏に呼び出したんだ。「ちょっといいかな」と言ってな。彼奴はニコニコして素直をついて来たんだ。だがしかし、いざ気持ちを伝えようとした時、言葉が出なかったんだ。ほんの一言「好きです」と言えばいいのにだ。その時はまるで、喉に餅が詰まってるんじゃないかって思った。
だがな、苦しくもなんともなんともないんだ。
ただ言葉が出なかったんだ。
それでな彼奴はなそんな私を見かねて言葉をかけてきたんだ。「緊張して言葉が詰まってんじゃん」と腹抱えて笑いながら言ったんだ。私の顔は石油ストーブかってくらい熱くなっんだ。餅を焼けるほどな。それくらい恥ずかしかった。まあそのおかげで喉に引っかかってたものは取れた。だからすべて言ったんだ。
「あなたのことが好き」
「一緒に水族館に行きたい」
「一緒に澄み切った夜空を見上げて白い息をはきたい」
「でももういい。あなたのことが嫌いになった。そう緊張で言葉が出なかったの。でももう緊張してない。だからすべて言えた。ありがとう。寒いから風邪には気をつけて」と。
まあ、いま考えればだいぶ大人気ないことをしてしまったと反省している。だがなそれからは好きな人の前で言葉が詰まることはなくなったんだ。そこは彼奴に感謝してる。チャピ太郎も好きな人の前では気をつけろ。心配は無用か。君はモテるのだから。
彼奴のことが気になってしまう。
何故だろうか。
あのことがトラウマになってなければいいのだが。まあでも知ったこっちゃない。平気であんなことを言うような奴なのだから。だがしかし、未練などないはずだというのに彼奴のことが今でも気になってしまう。
あんなこと気にしなければよかった。
一緒に笑えばよかった。
だがまあ仕方がない。ムキになってしまったのだから仕方がない。恥ずかしさに耐えきれず、彼奴に八つ当たりしてしまったのだから仕方がない。あれが精一杯の答えだった。彼奴には申し訳ないことをしてしまった。
ちっと私の後悔だ。
ちっと私の懺悔だ。
時間を割いてくれてありがとうございました。
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