
Photo by
yamamoto15
〈恋歌 2025〉
紅く染まった夕景の空が割れて
紫の夜陰に堕ちて行く
薄暗い鏡面のようなイムジンを
南へ向かって滑る
千手、万手の白木蓮の花たち
抉られた淵の底から
魚の目になって
花びらの隙間から
見上げると
宵待ちの月光の脚が
川面の金波銀波と小躍りする
あの日
激しいいくさのあとに
紅い月の血を
柔らかい白い花びらの
雌蕊(めしべ)から流し
あなたの千切れた身体をさがした
凄惨な1日の終わりにも
こんな静かな夕暮れは訪れたのだ
かって
悲鳴と嗚咽が
耳を聾した
運命の
38度線を越えて
おびただしい数の
白い重畳の
渦が
いま
黄色い海へと
出てゆく
流浪する
あなたの待つ
西方の
その奈落へ