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あえて言ってないこと | ボールのようなことば。糸井重里

ボールのようなことば。糸井重里

糸井重里の膨大な原稿のなかから
行く道を明快に照らす短いことばを厳選。
すべての成長する人に贈る、
詩的で、哲学的で、
ユニークな分かりやすい道しるべ。

心に残ったことば

大切にしたい相手と向き合おうとするとき
読み返したくなることば。

少しずつ分かって、知って、自分なりに理解して、
「あぁ、この人にはこういうところがあるな」
「こういう状況って前にも同じ事があったな」
と、そのことが変わらないまま時間が経つと
「やっぱり、そうなのだろう」と
だんだんと当たり前になっていく。

少しずつ知っていることが増えても、
それが積み重なっても相手の全部にはならない。
本当はいつまでもそのままというものもない。
分からないことが多いことを分かっていたい。

あえて言っていないこと。

やさしい人と暮らしている。
ふたりで穏やかに、そして賑やかに過ごしている。

「いい日になりますように」と家を出て
「美味しい」「幸せ」とご飯を食べて
「いつもありがとう」と今日の出来事を話して
「ぐっすり眠れますように」と眠りにつく毎日。

気持ちの波の振れ幅が大きい私にとって
彼はこころのお守りのような人だ。

それでも、たまに
朝起きて仕事に行くのが辛そうだったり
ご飯を珍しく無言で食べすすめていたり
なかなか寝付けずにいたりすることに気づく。
ふたりの時間が前向きで穏やかであるために
悩みや不安、どうしようもないこと、焦り苛立ち
あえて言ってないことが多い人だ。
それ忘れそうになって思い出す。

彼の強くて優しいふたりを守る方法に
私たちはこれまで何度も助けられてきた。
もっと自分のことを話してほしい、
はっきり意見を言ってよと文句を言いながら
誰といるときよりも、のびのびさせてもらう。
彼の美徳への感謝をうまく言えていないまま。

かつて周りに秘密があるのが嫌だという人がいた。
嘘も秘密もないことが相手への誠実さだと。
それでは意思も思考も必要ないのではないか。
伝え方にこだわるのではなくて、そもそも、
伝えることでふたりは幸せな気持ちになるのか
知ってもらう必要があり相手も知りたいものか
取捨選択できることのほうが、相手のことやふたりの関係を大事にしていると思う。
あえて言っていないことに守られる幸せだってある。

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