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【子ども】美しい形②多面体の謎を探れ!

オンラインでの開催は、たくさんの学びを与えて過ぎ去り(詳しくはこちら)、対面での開催が戻ってきた。不安はある。参加者数は戻らない。けれど、会える喜びの方がずっと大きい。
植物学の復習をして、まとめをして・・・さて、次は何をテーマにしていこう。まさか、あんな結末が待っているとは、このときは思いもしなかった。


鉱物学をやりたかったけど

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動物→植物ときたら、次は鉱物かな?と、昔作った石の標本を引っ張り出して眺めてみた。いろんな姿があって、触った感じの違いも興味深い。けれど、中学生が石を眺めておもしろがるだろうか。

ならば、始めはフィールドワーク!自分で標本を作るのもおもしろそう!と思ったけれど、私のオススメの水晶谷は京都だし、河原へ出かけるにも神戸にはどんなところがあるのかわからない。それに、石を叩き割ろうと思ったら、それなりの装備がいるらしい。つるはしとか、安全メガネとか・・・。そんな専門的なものは一つも持っていなかったし、貸してもらえそうな知り合いもいない。

図書館で10冊ほど本を借りてくると、鉱物学の切り口は本によって様々だった。身近な石ではなくゆで卵を用意して、地球を卵にたとえ、地殻の話から始めるのもおもしろそうだ。全体的な話から始めて照準を絞っていくのか、身近な話から始めて世界を広げていくのか・・・。

鉱物学について、シュタイナーが何と言っているか調べようと思ったら、いつもの本には特にこれといった記載がない。コロナの心配もあり、普段お会いしていない先輩方とこの時期に会うのは気が引ける。
どうしようか迷っていたとき、部屋の片隅に置かれたタッパーが目に入った。


うちに粘土がやってきた

粘土

そういえば、シュタイナー療育士養成コースで粘土を使った後、「ご自由にどうぞ」と言っていただき、いくらか持ち帰っていた。よく学校で使う油粘土や紙粘土ではなく、焼き物に使えるような、本格的な土の粘土。久しぶりにタッパーを開けてみると、独特の土の香り。触った感じも、ひんやりとして気持ちがいい。

動物、プラトン立体、骨、球、たまご、家・・・教員養成や京都の日曜クラス、放課後等デイサービスで子どもたちと一緒に粘土の作品に取り組んだときのことを思い出してみる。そういえば、土に触れるということは、癒しだった。中学生になり、新しい環境それもコロナ禍で、日々頑張っている子どもたち。鉱物学ではなくとも、土に触れる経験をしてもらうのが良いかもしれない。

これまで、五芒星や六芒星など、規則正しい形を描いてきた。ならば、その発展として、規則正しい立体を作ることにしよう。


球を作る

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毎回、粘土の時間の冒頭には、球を作りながら粘土と仲良くなる時間を作った。不思議なことに、学校のこと、ゲームのこと、子どもたちの口からいろんな話が出てくる。そして、形が整っていくとともにだんだん口数が減り、意識が球を作ることに集中していくのがわかった。

子どもたちの向き合い方は様々だった。
「細かいところにばかり気をとられないように、全体のバランスを見て整えて・・・」
と時々声をかけるものの、目の前の小さな傷を直すのに必死になる子がほとんど。水をつけてこすって、無理矢理小さな傷を直すと、その部分が大きく凹み、球への道のりは遠くなる。凹みを膨らませることはできないので、周りを凹みにあわせて再度成形していくしかない。
「人間もそうだよね。合唱コンクールで、大きな声が出ないパートがあるなら、周りの声を抑えてみたらどうだろう。美しく調和のとれたハーモニーになるかもしれない」
なんて言ってみたかったけれど、なんだか押しつけがましい。中学生って、正論を振りかざされると耳をふさいでしまうような気がする。具体的な話に落とし込むのはやめ、心の中で「人間もそうだよね」と思いつつ、抽象的な話を繰り返した。彼らなら、私の言葉の真意を、見えないところで受け取っているに違いないーーそう信じて。

作ったものをお互いに交換してみると、粘土の温度や密度が全然違う。そして、どんなに不格好でも自分の作った球に愛着がわき、並べてみても、どれが自分の球なのかすぐにわかる。

私個人のことで言えば、粘土を触ったときの印象が、数年前とは変化していた。数年前は乾燥が気になって頻繁に水をつけたくなったものだが(子どもたちの反応とそっくり)、今回は、手と粘土がお互いに水分や熱の交換をしているような気がして、それを楽しむことができている。少しのひび割れにとらわれて全体を整えられない、なんてことにはならなかった。我ながら内面が成長しているのを感じ、同時に、中学生には難しすぎたかもしれないなと思う。

そうして、だんだん冬が近づいてきた。熱を作る力が追いつかなかったら、ひんやりとした粘土に熱を奪われてしまう。冷えた状態は学ぶのに適していないと私は思う。いつもの会場は水道をひねるとお湯が出るので、バケツに汲んでおくことでカバー。さすがに、窓を開けた状態で使用するという規則がある海辺の会場では、ミツロウ粘土に変更した。両方使うことで、違いも感じられて良かったと思う。


多面体を作る

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球を作った後には、いろいろな正多面体を作った。プラトン立体とも言われるその形は、正〇角形をいくつか組み合わせてできている。例えば、正四角形(正方形)が6枚でできる立方体は正六面体、正三角形が8枚でできる立体が正八面体だ。

思った通り、子どもたちは正多面体に夢中。植物以上に、きちんとした法則に則った形。”昨日言ったことと今日言ったことが違う大人”に腹を立てる中学生からしたら、こんなにきっちりとした在り方は、清々しくて心地よいに違いない。

小学6年生と中学1年生の一番人気は正六面体。馴染み深くイメージしやすいのだろう。安定感があるのに、サイコロのように動くイメージもある。それに、マインクラフトのイメージも。中学2年生の一番人気は正二十面体。難しそうで、自分たちの手に負えない形が良いらしい。


あれ?癒しの時間は?

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いつの間にか、子どもたちは粘土をこねる手をせっせと動かし、ペンやホワイトボードを使いながら、多面体の謎を解こうと頑張っていた。それぞれの形の関係性を考えながら、ああでもないこうでもない、と話し合って。

「あー!教科書見たい!」
って、中学生のセリフとしては珍しいのではないだろうか。心落ち着く癒しの時間のはずが、頭をフル回転させていて、どう見ても忙しそう。でも、なんだか活き活きとして楽しそうなので、これで良しとしよう。


伏線回収まで、きっちりと

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最終的には、子どもたちの提案で名札がつけられ、『球と多面体』というクラス作品が出来上がった。1年前、テーマを考えていた時に眺めていた石の標本が思い出される。まさか、こんな形で伏線回収してくるなんて。彼らは、私の頭の中を見ているんだろうか。やっぱり、神戸シュタイナーハウスは不思議の連続だ。


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えりか先生。神戸シュタイナーハウスでは、子どもクラスを担当。
小学校教員を経て、現在は放課後等デイサービスで障害児支援にあたりつつ、神戸・京都において日曜クラスの先生としても活躍中。
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