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【子ども】動物学⑤六甲山牧場にヒツジを見に行きたかったけど

手ごたえのあったタコの授業(→動物学③)と、ちょっと不本意だったライオンの授業(→動物学④)を経て、最後の動物はヒツジ。低学年の頃から、何度も登場している動物だけど、意外と知らないことだらけ。出会い直してみたら、どうなるだろう。そして、人間って何なんだろう。


六甲山ってそんなに寒いのか

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(↑ 絵を描くときの手順はみんな同じ。同じ絵を描くことには賛否両論あるかもしれないが、似たような絵になるのは低学年のうちだけ。個性が出てくる時期ともなれば出来上がりは様々だ。)


ヒツジも見に行けるかな、六甲山牧場まで車で送ってもらえるかな、と思って、軽い気持ちで保護者の方に尋ねてみたところ、
「冬に六甲山牧場は・・・」
とちょっと口が重そう。聞けば、道路が凍っているとか、それなりの服装でいかないといけないとか、雪とか。ドラえもんの「学校の裏山」くらいのイメージを持っていた私は、六甲山がそんなに寒いところだと知って(そういえば、スキー場があった・・・)びっくり。牧場にヒツジを見に行くって、簡単ではなかったらしい。

動物園にヒツジがいることは知っていたけれど、ふれあいコーナーでヒツジに触れてのんびりするような性格の子どもたちじゃないこともわかっていたので、ヒツジを見に行くことはやめにして、お話や羊毛だけで授業を進めていくことに決めた。


資料をさがす

ヒツジについて調べようと思って図書館で尋ねてみると、タコ以上に資料だらけ!司書さんが羊肉の図鑑を持って出てこられたときには、こんな本まであるのかと笑ってしまった。ヒツジってすごく身近な動物だったらしい。

●中でも参考になったのは、この3冊

手仕事で使う羊毛を思い出してみると、品種によって、触ったときの感じも縮絨(フェルト化すること)しやすさも違う。生息地が山だったり草原だったりと様々なので、もちろん食べる植物の種類も違うし、姿形も違う。いろんな角度からヒツジのことが知れて、おもしろい。

その中で、モンゴルのゲル(パオ)はヒツジの毛で作ったフェルトを使用しているということを知った。私の高校の修学旅行先は内モンゴルだったので、ゲルを組み立てたことがある。気温は-20℃くらいだと聞いていたけど、ゲルの中でストーブをつければ上着を脱げた。そうか、あの布は羊毛だったのか、どうりで暖かいはずだ。十数年経ってもまだ覚えている、濃い記憶。きっと活き活きと語れるだろう。

●もう一冊、違う角度からの本

イギリスの湖水地方で暮らす羊飼いのお話。学校への不満いっぱいの主人公が、退学して羊飼いとしての道を歩んでいく。生態を図鑑などで調べたのとは違うライブ感ある文章が、ヒツジのことを教えてくれた。

Twitterで話題になった「ヒツジを川に放り投げて洗う」話とか(「羊 なげる」で検索してみて欲しい)、干支のヒツジの話に触れても面白いかもしれないが、多岐にわたり過ぎると収拾がつかないのでカット。1回目は内モンゴルの話から始めて生態(特に反芻)の話を中心に、2回目は『羊飼いの暮らし』を抜粋して話すことにした。


反芻は気持ち悪い?

ひつじ_黒板画

(↑ 環境から描いて、ヒツジを浮かび上がらせるのにチャレンジ)

さて、子どもたちの反応はというと、予想通り「反芻は気持ち悪い~」と、今まで見たこともないようなしかめっ面。胃の中にあるものを口の中に戻してくるなんて聞くと、嘔吐の経験を想像してしまうようだ。無理もない。

でも、人間が消化できないような硬い草を消化してくれる草食動物のおかげで、私たちは栄養満点のミルクや肉をいただくことができる。植物にとっても大切な存在で、糞は肥料になるし、黄金のひづめで種が根付くのを手伝っている。そして、暖かい毛は人々を寒さから守ってくれる。

一日中、ずっと噛み続けるって、どんな感じなんだろうか。試しに、スルメを噛み続けてみると、顎が疲れる・・・。誰が一番長く噛んでいられるか競争してみたけれど、当然ながら、ある程度のところでギブアップ。一日中噛み続ける?なんて、骨の折れる仕事なんだろう。
「ヒツジ、すごすぎるやん・・・」
私たち人間が敵うはずもない。子どもたちの中でヒツジは「すごいヤツ」として認定されたのだった。


世界を作り、守る生き方

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内モンゴルで私が見てきた、地平線が見えるほど広い草原。そして、お話に登場した、世界遺産でもあるイギリスの湖水地方の景色。そんな美しい世界が守られてきたのは、羊飼いたちがせっせと身体を動かして働いているから。そして、草を食むことで、ヒツジたちが山や草原を守っているから。

生きていることが、世界を作り、守り続けることになる。そんな生き方をしているヒツジといろんな角度から出会い直すうちに、反芻は気持ち悪いことではなくなり、かわいいだけでなく「ヒツジは本当にすごいヤツ」という感想に変わっていった。


手の仕事

人間のはじまり

(↑ 「人間のはじまり」という外国の昔話をきっかけに、手足を動かして働くことの意味を考えた)

次の月は、これまで学んだ動物について振り返り、人間について子どもたちと話し合った。
頭が特徴的で賢いタコ、胸が特徴的でハートが熱いライオン、胴が特徴的で草を栄養に変化させるヒツジ。人間は動物ほど際立って特徴的な部分を持っていないけれど、いろんな特徴を少しずつ持っている。それでも、特徴的な部分を一つ挙げるとすれば「手」だ。春に描いた宇宙のような絵を思い出すと(絵はこちら→動物学②)、手の壮大さ、役割の重みが感じられる。

誰かが「この手をどう使うかは自分次第ってこと!」と言うと、この言葉を気に入った様子で、何度も繰り返しながら手仕事に精を出す子どもたち。そして、午後からは味噌を仕込み、友達と手を取り合って遊んでいる。遊んでいるときには手の意味なんてすっかり忘れているんだろうけれど、何かの折に「あのとき、人間について、しかも手について、真面目に話し合ったなあ」なんて思い出してくれれば嬉しい。

いつも素直に受け取ってくれる子どもたちに感謝しつつ、動物学はこれでおしまい。次は植物学のお話。


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えりか先生。神戸シュタイナーハウスでは、子どもクラスを担当。
小学校教員を経て、現在は放課後等デイサービスの指導員として働くかたわら、神戸・京都において日曜クラスの先生としても活躍中。
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