研究費はボールペンで
ボーナスが蜜柑で支払われたというツイートを見かけた.
僕は蜜柑星人だが,これは辛い.ちなみに僕はボーナスをもらわないほうの大学教員だが,もらえると思っていたお給料が蜜柑で支払われたら,何度目かの転職を真剣に考える.タクシー代を小夏で払って「優しい世界」と呟いた女性もいたが,全然やさしくない.はちゅい.
大学の教員には,運営費交付金という資金が供給される.これは給与ではなく,教育や研究に使いなさいというお金で,大学が管理している.教員は大学に「これこれを買いたい」「どこどこに出張したい」と申請して許可をもらい,大学に支払ってもらう.だから給与と混ざることはない.この運営費交付金が無ければ,教育も研究もできない.例えばプリンタに入れる紙を買うのも,この運営費交付金を使って申請しなければならない.
運営費交付金が年々減らされているのは報道されているとおりで,運営費交付金だけではもはやまともな教育研究は不可能である.
そして,時代の最先端をいく蜜柑星人である僕は,はじめて勤めた大学で,空前絶後とも言える運営費交付金カットを受ける.なんと,前年比90%カットだ.
その時の混乱ぶりを描いてみようと思う.
いずれ事情はこのnoteに書いておこうと思うが,僕は年度始まりの4月ではなく6月に着任した.新設の学部で,建物も設備も新しい...はずだった.確かに建物は新しかったのだが,必要な設備が間に合わなかった.
なにせ予算が1/10になったのである.
机がない.
大学の教員になったのに,机一つないのである.
そこで机を会議室から借りた.
椅子がない.そもそも会議室にも椅子が足りない.
仕方ないので,当面は書籍を詰め込んだ段ボール箱に座ることにした.(その後椅子は融通してもらえた.)
本棚がない.既存学部からいらなくなった食器棚をもらった.
プリンタが無い.上司がスーパーハッカーだったので,英語しか印刷できない中古のプリンタを魔改造して日本語も印刷できるようにしてもらった.
プリンタに入れる紙がない.母校に車で行き,裏紙を大量に分けてもらった.まさか大学教員になって最初の仕事が裏紙回収になるとは思っていなかった.
いや,最初の仕事は他にあった.当初予算を当てにして前任者が発注してしまった機材や消耗品があったため,業者に連絡を入れることだ.もし納品前ならばキャンセルを,納品後なら返品を,そして使ってしまったものならば「業者に泣いてもらえ」と,大学の上層部に指示された.
もちろん,教育研究に必要なものは買えない.事務室へ行くと「ボールペンだけは在庫があります.好きなだけ持っていって下さい」と言われる.いわば運営費交付金の現物支給である.ボールペンだけあっても,書くのは他大学から分けてもらった裏紙なのだが.
学部長が文部省(現文科省)へ直談判へ行き,予算はかなりの割合で復活してもらったそうだ.その後,文部省が国立大学を潰すモデルケースにされたのではないかという噂が流れた.
文科省は財務省から,いつも予算削減を押し付けられている.国立大学の予算を10%程度削除するのが当初の目標だったように思われる.国立大学は90校前後あるから,10校程度潰せば10%削減となるのだろう.これがうまく行かなかったためか,その後は阪大と九大を潰せと言ったり,文系学部を廃止しろと言ったりしている.
そして,結局は運営費交付金の一律大幅削除という方針に落ち着いたようだ.こうすれば,大学の方も音を上げて,学部の削減とか,大学の統廃合に動くのではないかという意図が見え隠れする.
本稿の最後に,大学の縮小に関する私見を述べておく.
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