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もっと遠くへ、「未知」をひたすら追いかけて『一億年のテレスコープ』春暮康一(早川書房)読書感想💫

銀河に浮かぶ本の諸島。諸島を巡る舟の旅。本を旅するメンバーシップ、灯台守が照らす海洋に、浮かび上がるはどんな本?

本日はこちら🙌空間も時間もスケールが大きすぎて、本の宇宙に迷子になっちゃいそうだ!!ロマンフル、ロスト、イン、ウチュウ!

この作品を構成する要素はいくつかあり、大きい順に挙げると、ひとつめは「異文明との交流」です。私の小説では大抵そうなのですが、この世界でも〝フェルミのパラドックス〟がある時点で破られていて、宇宙には知的文明がひしめいています。主人公たち地球人はそうした文明と出会い、または出会わず、ときには痛い目を見たり途方に暮れたりしながらも関係性を築いていきます。

 大きな要素のふたつめは「旅」です。全篇を通してなんらかの旅が描かれていて、これは主人公の行動原理にも関わってきます。砂漠から密林、宇宙空間、さらに一層エキゾチックな場所まで、舞台は目まぐるしく移り変わります。多彩な風景を渡り歩くロードムービーのような作品にしたいという思いがありました。

 みっつめは「変な生き物」です。地球とは異なる環境や、地球人と異なる生態的地位で進化した生き物はどんな社会を作るか、といったことを考えるのは私の習性のひとつです。この作品においても、メインテーマとまではいきませんが、依然大きな要素ではあります。

 そのほかの要素を大小関係なくランダムにピックアップするなら、「天体観測」「メガストラクチャー」「過去と未来」「ポストヒューマン」「滅亡」といったところです。並べると節操がない感じもしてきますが、どうでしょうか。どんな話か気になった方は、ぜひ手に取ってみてください。

【8/21刊行】『法治の獣』の春暮康一氏による初長篇『一億年のテレスコープ』刊行記念! 著者自身による内容紹介「刊行に寄せて」を公開!

出会い、つながり、そして孤独

異星人、異文明との出会い、つまり「ファーストコンタクト」ってやつは、SF的文脈を外せば私たちにとって最も身近で何より重要な「問い」なのかもしれない。

自分とは異なる生活環境、文化背景、価値観を持つ他者と出会うと、お互いはどんな影響を受けるのか?どうするばお互いの期待する「出会い」「関係性」が築けるのか?

宇宙人とまではいかなくても、外国に留学しなくても、同じ村の中でも、なんなら毎日顔を合わせる距離で接する誰かとであっても…「異文明との衝突」はどこかしらで起こっているから。

「ファースト」コンタクトであろうと「デイリー」コンタクトであろうと、我々ニンゲンにとって(もしかすると宇宙人にとっても)自分以外の誰かとつながること、そしてつながり方ってのは、大きな関心ごとだよね。それはなんでなんだろう?

そう考えてふと思い出したのが、この本。

『一億年のテレスコープ』の中で、完全に成熟しきって新しい可能性がなくなった文明、知性が飽和した孤独な生命体の末路、みたいなものが描かれていた。
惑星文明レベルで語るスケールを、「個」のスケールにまで縮めてみたらどうだろう。自分の内部だけで完全に完結した世界を持つ、たったひとりの世界。未来に「未知」は無く、ただ過去を反復するだけの今が永遠に続くとしたら…

自分が何者になれるかの選択肢は実はあまり多くなく、採り得るすべての可能性を演じきってしまった後には、死という選択肢しか残らない。個人にせよ種族にせよ。

『一億年のテレスコープ』

クラッシュ!未知の衝撃がまわす生命力のタービン

つながり(Connection)のCは、他者とのコミュニケーション(Communication)のCだけど、お互いに傷付かずにはいられない衝突(Crush)のCにもなりかねない。

それでも他者を求めるのは、自分の中には見つけられない「未知」に出会えるから。新しい可能性に、わくわくできるから、なのかな。

「彼らと会って話がしたい。彼らが何を教えてくれても、教えてくれなくてもかまわない。まだ見たことのないものを見たい」

『一億年のテレスコープ』

あぁ、そうか。シンプルに未知の刺激は、永遠の孤独から生命を蘇らせてくれるから、かな。動きがなくなること、成長が飽和して止まること、それは生命が終わるってことだからね。未知は生命力のタービンをまわしてくれるエネルギー。

そう考えると「わからない」こと、なんなら「わかりあえない」ことも、なんだか尊く感じるよ!

ちなみに『一億年のテレスコープ』に出てくる登場人物たちは、お互いに「わからない」背景を持ちながらもみんなそこに肯定的に働きかけあってるんだよね。相手の世界を、相手の目を通して(文字通り、相手の肉体を複製したアバターに精神を乗せて!)経験してみたり、共通の関心ごとでつながったりね。

そうそう、「相手の目を通して相手の世界で生きる想像してみる」「自分以外の人から見た自分の世界の見え方を知る」といえば、今実行中のプロジェクトメンバーと取り組んでいる「タニモク(風ゲーム)」だな!

関係性はお互いの「運動」から生まれる

働きかけあうつながりのあり方といえば、ぜひともこの本を引用したい。

関係性を作り上げるとは、握手をして立ち止まることでも、受け止めることでもなく、運動の中でラインを描き続けながら、共に世界を通り抜け、その動きの中で、互いにとって心地良い言葉や身振りを見つけ出し、それを踏み台として、次の一歩を踏み出してゆく。そういう知覚の伴った運動なのではないでしょうか。

これこそが関係性そのものであり、そして、そんな何本ものラインが動きを止めず、世界を通り抜けるラインを次へ次へと促しながら時に交差し、場所となり、でも動きは止めずに先に進んでゆく。
それが多様性なのではないでしょうか。

『急に具合が悪くなる』宮野真生子・磯野真穂(晶文社)

この本は改めて取り上げたいから、ここではサラッと引用だけ…!

まだ見ぬ世界を追いかけて

主人公「望」と、行動を共にする仲間たちの未知へのまなざしに、思い出すのはあのお方…

親王はなにかを求めて、ひたすら足をうごかしていた。
なにを求めているのか、なにをさがしているのか、自分でもよく分らないようなところがあった。そしてつらつら考えてみると、自分の一生はどうやら、このなにかを求めて足をうごかしていることの連続のような気がしないでもなかった。

どこまで行ったら終るのか。なにを見つけたら最後の満足をうるのか。しかしそう思いながらも、その一方では、自分の求めているもの、さがしているものはすべて、あらかじめ分っているような気がするのも事実であった。

なにが見つかっても、少しもおどろきはしなかろうという気持ちが自分にあり、やっぱりそうだったのか。すべてはこの一言の中に吸収されてしまいそうな予感がした。

『高丘親王航海記』澁澤龍彦(文春文庫)

唐突に占星術ネタをぶち込むけど、この世界観はとっても射手座(9ハウス)的だなぁ、と思う!

※灯台守の言う「占星術」は、性格診断や運勢やら占いの類としてではなく一種の「神話と象徴の分類学」的なものとして捉えていただければ、と🙌

射手座は未知を求めるサイン。9ハウスはレールの途切れたその先の世界。どこに続いているのかはわからないけど、ここではないどこかを目指して飛び出せるのは、世界を信頼(肯定)しているから。射手座の支配星、木星の楽観的世界観がそこにある。

生命の「進化」の可能性

地球とは異なる環境や、地球人と異なる生態的地位で進化した生き物はどんな社会を作るか。地球人がサル型だとして、トリ型、バッタ型、タコ型、オオカミ型、ハチ型、粘菌型…
『一億年のテレスコープ』に登場する宇宙人たちの姿形、文明の在り方、価値観は、「どんな惑星環境だからそう進化したのか」って考察がちゃんと織り込まれててオモシロイ。

どんな環境であれ、その環境のどの部分をどう取り込んでサバイブするか、がその生物の世界観(環境をどういう世界として経験するか)を決めるわけで…。

ああ、そうだ。宇宙生物学者が主人公のあの小説。
あれはSFじゃないけども、彼が息子に聞かせるいろんな惑星の気候や地質的特徴と、そこに生まれるであろう生物のハナシが面白かったなぁ。

他の皆がどこにいるのか突き止めることのできなかった惑星がかつてあった。その惑星は孤独が原因で滅びた。同じことは私たちの銀河だけでも数十億回起きた。

『惑う星』リチャード・パワーズ(新潮社)

宇宙みたいな壮大なスケールと文字通り天文学的な桁の数字を前にすると、「1」である存在の「孤独」ってテーマが際立ってしまうのかもしれない。

肉体を離れても「情報」として残る意識

意識だけ抽出して、データ世界で自由自在に生きられる未来が舞台になってるんだけど、どうだろうね!身体を離れた意識は、ほんとうに同じような意識を保てるんだろうかって気はする。意識の在り方は、身体の在り方とか経験のフィードバックにかなり依存してるから、切り離してしまったら、意識の在り方もすっぽりなにかが抜け落ちてしまうんじゃないかな。その抜け落ちる部分に、その人らしさがあるような気さえする。

そういえばカズオ・イシグロの『クララとおひさま』でも「その人らしさ」はどこにある?って問いがあったな!

この物語の場合は、行動パターンや身体の癖、姿形も、「その人らしさ」と言われるものを全てコピーできたとしたら…って状況だったかな。「意識だけ残す」の逆パターンだね!

カパルディさんは、継続できないような特別なものはジョジーの中にないと考えていました。探しに探したが、そういうものは見つからなかった―そう母親に言いました。

でも、カパルディさんは探す場所を間違えたのだと思います。

特別な何かはあります。ただ、それはジョジーの中ではなく、ジョジーを愛する人々の中にありました。

『クララとおひさま』カズオ・イシグロ(早川書房)

その人らしさは、その人が世界とどんな「つながり」をもっていたのか、に現れるのかもね。

「ぼくたちは、ぼくたちが集めたもの、
かちえたもの、読んだものではないんだ。
ぼくたちは、ここにあるかぎり、ただ愛するものだ。

ぼくたちが愛したものだ。
ぼくたちが愛したひとたちだ。

そうしたものはね、
そうしたものは永遠に生き続けるとおもう」

『書店主フィクリーのものがたり』ガブリエル・ゼヴィン(早川書房)

『一億年のテレスコープ』周辺の島々

以上、メンバーシップ特典記事、第一弾!ちょうど昨日読み終わった宇宙スケールの小説で、銀河を照らす灯台の光が最初に浮かび上がらせる島として相応しい本だったんじゃなかろうか、と満足気分な灯台守とと子です♡

島の桟橋に書き置いた灯台守の航海日誌、ここまで読んでくれてありがとう✨

この島に上陸して「実際に読んでみる」という探索を終えた(もしくはこれからしようと計画している)漕ぎ手は、コメント欄に「今の自分が見つけたコトバ、想い、感覚」をキロクしてみてね。この本についての書き置きでも、この記事を読んで「ふと思い出した全く別の案件」についてでも。

漕ぎ手が流すボトルメールを拾い集められた頃、いつかラジオ(音声配信)でこの海域を巡る漕ぎ手たちにお届けするつもり。
置き手紙式のブックトークとして、楽しんでもらえたら嬉しいな。

「この島も照らしておくれ✨」って本のコメントも待ってるよ🤗

さ、次の島に漕ぎ出そう🛶💫

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珠楽(tamarack)とと子
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