
映画『ある海辺の詩人 小さなヴェニスで』
2011年/製作国:イタリア フランス/上映時間:93分
原題 Io sono Li
監督 アンドレア・セグレ


予告編(日本版)
予告編(海外版)
STORY
イタリア。
❝小さなヴェニス❞と呼ばれるラグーナ(潟)に浮かぶ美しい漁師町ー キオッジャ。
海辺に佇む小さな酒場❝オステリア❞には毎晩のように地元の男たちが集まり、小さな町で暮らす人々の心の拠りどころになっていた。オステリアの常連客ベーピは、地元民のように馴染んでいるが、遠い昔故郷を離れこの地にやってきており、心のどこかで孤独を感じていた。そんな彼は、同じく異国からやってきたシュン・リーと出会う。『川はすべて海へ降りてゆく 満たせぬままに吹く風は冷たくも 心を温め 小さな花のように あなたをほほえます』優しく静かに綴られる詩は、ほのかに光る燈明のように二人の孤独をそっと温め、次第にお互いがかけがいのない大切な存在となっていくのだったが、そんな二人に思いもよらない悲劇が待ち受けていた。時が過ぎ、シュン・リーが久しく訪ねてきたキオッジャにべーピの姿はなく、残されていたのはベーピからの最後の優しい手紙であった。その手紙に綴られていた、ベーピの胸を打つ想いとはー。
レビュー
初めて本作を鑑賞した頃の私は、そこに込められた意図や思いを全く理解することが出来ずに、「イマイチな作品だなぁ」と思ってしまった。
しかしそれから10年の月日を経たある日、海辺を散歩しているときにふと本作のことを思い出し、急に観たくなって、再鑑賞した。
すると記憶のものとは全く別のものであるように感じられ、思いがけずいくつものシーンに、強く心を動かされることとなった。
作品は変化したりはしないのだから、自分が変化したのだ。それも、自分でも少し驚いてしまう程に。
10年の間に、意図せず「移民」や「ブローカー」について学び、虚しさや悲しみの経験を重ね、人から優しさを分けてもらう機会を何度も得たことにより、私はやっと本作に、本当の意味で巡り合えたのかもしれない。
詩人を愛する主人公ベーピを演じたラデ・シェルベッジアは、実生活においても詩集を出版する本物の「詩人」。
シェン・リーを演じたのは、ジャ・ジャンクー監督作品に多数出演している、チャン・タオ。
ふたりの詩を介した静かな交流は、まるで穏やかな波のように、観る者の感情を心地よく揺らし、導いてくれる。
心に温かい炎を灯してくれる作品です。