映画『ぼくたちのムッシュ・ラザール』
2011年/製作国:カナダ/上映時間:95分
原題 MONSIEUR LAZHAR
監督 フィリップ・ファラルドー
予告編(日本版)
日本版の予告編には重要なネタバレが複数あるためおすすめしません・・・
予告編(海外版)
STORY
レビュー
本作は静かに、繊細に、観客の心にゆっくりと染み入る様に、親しい人を突然失う悲しみと苦しみを、そして社会に蔓延する欺瞞の数々を描くと同時に、そのような状況下にある人々の、互いに支え合い行動する姿、悲しみと苦しみに向き合う勇気、相手を思いやる温かい気持ちの連鎖、等を、描いています。
主役は、「訳あり」の男性教師ラザール。それから担任女性教師(以下:マルティーヌ)の自殺を目撃してしまう男子生徒シモンと、女子生徒のアリス、の3人。
その3人を軸に周りのたの子どもたちや、大人達を描いてゆくわけですけれども、予想通りだったのは大人たちの反応やその後の対応です。
日本と全く同じく「最高に事なかれ主義」なのでした・・・
校長も建前では「こんな時こそ私たちは団結すべきです」などと宣言するものの、直ぐに1人のいい加減なカウンセラーに丸投げし、とっととマルティーヌの自殺などは無かったかのように振る舞い、挙句の果てにラザールがアリスの記した文章から「大人達や他の生徒との【死】に関する対話を求める気持ち」を察し、「子どもたちと真摯に向き合うべきである」と提案すると、それを権力を行使し半ば「暴力的」に阻止します。
また他の教師たちも、誰一人として子ども達と真摯に向き合おうとはしません。
ただ、これは現状の学校というシステムを知っていれば99.9999・・・%はそうなることは誰にでもわかる(or経験のある)事ではあります(作品内では教師達の置かれている状況を説明するシーンがきちんとあり、教師たちもなかなかに苦しい立場にあることが示されます)。
しかしラザールだけは違って・・・(これ以上記すとネタバレとなってしまうため、この件はここまでとしておきます)
大人達のまともな(というか人間的な)サポートの無い中、子どもたちはそれぞれに苦しみます。中でもマルティーヌの自殺の現場を見てしまったシモンとアリスのトラウマは深刻です。
それをふたりがどう乗り切るのか。というのが本作の最大の焦点のひとつとなっているのですけれども、個人的にはその回復過程に若干の物足りなさを感じたものの、子役ふたりの演技が素晴らしかったこと、そして非常に奥深い問題提起が用意されていたことにより、最後まで興味深く鑑賞することが出来ました。
また本作の見どころのひとつとして、それとなく示される数々のメタファーがあったように思います。
例えば、ラザールが教室の机を昔の並べ方に変更したり、教室の自分用の机の引き出しにノートパソコンを入れようとするも机の引き出しのサイズが小さくて入らなかったり、初日に生徒を出迎える際に自ら階段を下りて生徒を迎えに行こうとするラザールに、階段の上に留まっている他の教師たちが「ここで待っていればいいのよ」と言ったり・・・
アリスが母親と暫く離れなければならないときに2つのクッキーをそれとなく触っていたり、ラザールに薦めた本がジャック・ロンドンの『野生の呼び声』だったり・・・
と、そういったちょっとしたシーンに何かを発見することが出来たなら、本作の面白さは大きく広がるかもしれません。
心に残るセリフやシーンも沢山ありました。
ひとつだけ上げるなら、マルティーヌの自殺の現場を忘れられないと言ったアリスに対する、ラザールの言葉。
その言葉を知るためだけにでも、本作を鑑賞する価値はあるように思います。
ラストシーンも素晴らしかった。
明るく楽しい話ではありませんけれども、観た者の心にそっと、優しいそよ風の吹く・・・
そんな作品です。
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