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映画『監視資本主義 デジタル社会がもたらす光と影』

2020年/製作国:アメリカ/上映時間:94分 ドキュメンタリー作品
原題
 The Social Dilemma
監督 ジェフ・オーロースキー



予告編(海外版)


STORY

 インターネットは現代人の生活に必要不可欠なツールとなった。
 SNSには日々膨大な情報が行き交い、人々はコミュニケーションをはじめとする多くの時間を画面上のやりとりにより行うことが当たり前となっている。
 しかしその一方で情報化社会を制したテック業界の巨大グローバル企業は、私たちの個人情報を取得し、その情報を商品として扱うことにより巨額の利益を上げるようになった。
 そしてそこにはもはや、「倫理」も、「良心」も、存在しない。
 そのような企業の内情を、テック業界にて働く人々が暴露し、私たちに警告する。


レビュー

 私たちがインターネットの世界にて、どのように大企業に操られ搾取されているのかという「負の部分」を、論理的且つ分かり易く解き明かしてくれる作品です。
 主な登場人物は、ユーザー心理を操る技術の開発に関わった人々とそれらの技術に精通している人々。
 また、一般的なユーザーモデル(ネット利用者)は劇映画の手法を用いて描かれております。

印象に残った言葉は、

 ・「私たちはサービスに対価を払わない。広告主が払うんだ。広告主こそが顧客だ。私たちは商品だ。よく言うだろ。タダで商品を使っているなら、君がその商品だ」

 ・(色々な有名SNSを羅列し)「どうすれば最大限に人の気を引けるかを研究する。何時間使わせられるか。どのくらい人生をもらえるか」

 ・「SNSによって所属感や意思疎通の方法が操られ、操られたものしか知らない。そんな世代を作り出してしまった」

 ・「グロースハックという分野がある。人間心理を研究し、ビジネスを成長させるんだ。新規ユーザーやその行動が増え、より大勢を招待する」

 ・「現実世界での行動や感情は、ユーザーには気づかれずに操れる。ユーザーは全く気づかない」

 ・「自転車が子どもとの関係を疎遠にして民主主義を破壊するという人はいない。道具は静かに、ただ存在し、使われるのを待つ。しかし道具じゃないものは要求をしてくる。誘惑し、操り、何かを引き出そうとする。道具としてのテクノロジーから、中毒と操作の技術に移行したんだ。そこだよ。ソーシャルメディアは道具ではない。独自の目標を持ち、それを追求する手段がある。人の心を操るんだ」

 ・「顧客を《ユーザー》と呼ぶ業界は2つだけ。違法薬物とソフトウェアだ」

 ・子どもの利用に関して。「関心のある部分を操作するだけではない。子どもの潜在意識にも浸透し、奪っていく。自分の価値や、アイデンティティーまで」

 ・「幻想にすぎない完璧さを求め、自分の人生を編集する。《いいね》などで短期的な報酬(ドーパミンの放出等)を得られるから。《いいね》を価値や真実と勘違いする」

 ・「(いわゆるZ世代は)不安やさみしさや恐怖を感じても、自分の力で対処できない、デジタルおしゃぶりに頼る世代を作ってしまった」

 ・「(ターミネーターのような世界が到来するまでもなく)世界は既にAIに支配されている」

 ・「アルゴリズムは作り手の意思が現れる。客観的ではない。それは成功の定義によって最適化されている。営利企業がアルゴリズムを構築するなら、当然、成功の定義は商業的利益となる。収益のことよ」

 ・コンテンツの影響力に関して。「人類にはもう制御できない。我々が見る情報は機械が制御している。機械に統制されている」

 ・「彼らが(ネットで)見るのはコンピューターに計算された結果なんだ。2.7憶人による『(映画)トゥルーマンショー』だ」

 ・質問「もしトゥルーマンが世界の真実に気づかなかったらどうなったのか」回答「提示された現実を受け入れる。簡単だよ」

 ・「皆が自分に同意してくれると勘違いする。同じ意見しか見ないから。そんな状態に陥れば簡単にだまされる。手品にだまされるようにね。カード手品を見ている観客は、カードを一枚選べと言われたら、仕組まれた一枚を選ぶ。これがフェイスブックのやり方だ。《友達を自由に選べ》というのは手品師と同じく全部嘘だ。選ぶのはフェイスブックだ」

 ・「みんな自分なりの真実を生きている。しかし規模が大きくなると、自分の世界に相反する情報は、受け入れられなくなる。客観的で建設的な人間にはなれなくなる」

 ・「アルゴリズムは(中略)、君を陥れるための有効な落とし穴はどれかと試しているんだ」

 ・「真実より偽情報の方が金を生む。真実はつまらない」

 ・2016年の大統領選について。「第三者による操作はハッキングではない。ロシアはハッキングはしていない。フェイスブックが作ったツールを合法的に利用して汚い目的を達成した。遠隔戦争だ。国境を侵略せずに、他国を操ることが出来る」

 ・「解ける問題のように見せかけているけど、それは噓よ。AIに真実がわかる日は来ない。フェイクニュースはAIには解決できない」

 ・「人の関心を得るための競争は終わらない。技術は更に生活を侵食する。画面から目を離させないように、AIは進歩し続ける」

 ・「我々が何もせずに20年経ったら、故意的な無知により文明は滅びるよ」

 ・「歪んだ社会にいると、その歪みに気づかない」

 ・「(初期の)ネットの世界は変わっていて実験的だった。(中略)でも今では巨大なショッピングモール。なにかもっと出来ることはあると思う」

 ・「テック業界の人は子どもにSNSを使わせない」

 ・「何かが改善されるときはいつだって、誰かがこう言った時だ。アホらしい、直そう。批判して改善するんだ。批判者こそ、楽観主義者だ」

という感じです。

 鑑賞者は、「多くの人々の行動や考え方は緩やかに、しかし確実に大企業の望む方向へと日々変化させられていっている」というリアルな現状や(もちろん多くの人々にその自覚は無く、自分が選択した生き方だと思い込んだままに)、その流れに抗うことは非常に困難であるといことを知ることとなります(AIはビックデータの分析結果を駆使し、私たちの行動パターンや心理までをも熟知した上で、精度の高い狙撃を絶え間なく行ってくるため)。
 そして作品内にて語られているように、現在の状況は「技術が人間の本性を支配したチェックメイト(詰み)の状況にある」というのは、我が身を振り返っても間違いないと思いました。

 悔しいのは、アメリカでは10代の子たちの精神疾患の割合が急増し、10代の女の子の自殺率に至っては、恐ろしいスピードで増加しているという事実です(日本でも、その他の国々でも「10代」の女の子の自殺率は増加していますよね)。
 特に女の子の自殺の多くはネット上での人間関係にたんを発する「外見を気にして」の悲劇と推測されることが多いようですけれども、実際はそのような単純なものではない気がします。ただ、映画『エイス・グレード 世界でいちばんクールな私へ』でも描かれていたような状況よりも遥かに過酷な状況に、多くの女の子たちが囚われ、追い込まれてしまっているゆえの結果であることは間違いないように思うため、現状のSNS等の利用環境の改善や、利用者がさらされることとなる負の心理状態の研究&サポート体制の構築は急務であると感じます。
 本来は人間関係を豊かにするために開発されたはずの技術が、分裂や分断、差別や混乱、そして10代の子たちの自死にまで深く関与してしまっているのは、技術や道具は諸刃の剣であるということを改めて実感させられると共に、深く考えさせるものがあります。

 救いは、この作品のラストが、改革や改善への健康的で建設的な提言を積み重ねて終わるということです。解決方法の提示もいくつかあります。
 ゆえに問題は山積しているものの、決して諦めることなくコツコツと問題に取り組む一人になることが、大切なことであるように思いました。
 SNSやネットを利用している全ての人におすすめの作品です。

その他

 【デジタルツインについて】
 デジタルツイン(DigitalTwin)という用語は、多くの人が聞いたことのある言葉ではあると思いますけれども、その本当の恐ろしさを理解している人はどれくらいいるのかしらと思うことがあります(私自身は理解出来ておりません)。

 私たちのネット上の足跡(観覧履歴)や食事の痕跡(購入履歴等)そしてフン(投稿した写真や書き込み等)はもちろん大企業という狩人に日々追跡、監視、記録されており、大企業はその収集したデータを元に、まるで私たち自身であるかのようにネット上で私たちの分身を、限りなく本人に近い形で再現することが「既に」可能な状況です。
 そしてその追跡を振り切る方法は、もはやデジタル断ち等の少数の方法しか残されていないと言われるようになってからずいぶん経ちます。
 写真や映像の加工技術はもはや一般人には見抜けないレベルに達していますし、今後その精度が更に上がってゆく状況を考えると、ネット上において本人となりすましの違いを見分けることは近い将来、もしかすると本人にすら不可能になるかもしれないと感じます。

 将来を見据え、自分のネット利用時のルールと個人的なガイドラインの線引きを考え直す日々です。
 ※まぁ「365日連続記事投稿を目指している」時点にて、既に企業の思う壺なのですけれども(笑)


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