数学とアート思考が引き出す考え抜く力(ネガティブ・ケイパビリティ)
生成AIの進化により、人間のように創造的なものを作れるようになってきました。これは、とても便利なことですが、一方で、私たちにとっても問題を引き起こしています。それは、わからないことがあっても、すぐにAIに答えを求めてしまうことです。
この記事では、わからないことを自ら考えることは楽しく、さらにイノベーションにつながることを紹介したいと思います。
「ネガティブ・ケイパビリティ」
どうにも答えの出ない、どうにも対処しようのない事態に耐える能力のことを「ネガティブ・ケイパビリティ」といいます。私たちは、なにかわからないことや不確実なことがあると、非常に不安になり、早く答えを見つけようと、インテーネットで検索したり、AIに聞いたりしてしまいます。わからないという状態のままでいることは苦手なのです。
そのため、完全にはわかっていなくても、単純化やマニュアル化をして凌ぎます。ところが、その理解は非常に浅いものです。一方で、わからないことをじっくり時間と労力をかけて考えることで、自分なりの発見をして、深く理解できるようになります。それが、イノベーションにつながる斬新なコンセプトを創出する原動力となるのです。
数学は、わからないことが面白い
考えることの素晴らしさを語ってくれたのは、数学の研究者です。先日、その方とお話する機会がありました。その方は、工学部の学生だったのですが、三年生のときに、数学科の位相幾何学入門という授業を聴きにいったところ、一文字もわからなかったそうです。これには衝撃を受けました。
でも、その方のすごいところは、何一つわからない世界があるというのが、逆にすごく面白いと思ったところです。自分なりに調べて色々やってみたらわかるんじゃないかと思い始めて懸命に取り組んだことで、数学がすごく面白くなったそうです。そして、わからないものに真剣に向き合う学問に惹かれて、数学の道に進んだと言います。
今は、学生に対して次のようなアドバイスをしています。
まず数学の本を読んで理論を理解する。翌日、真っさらな紙に昨日学んだことをそのまま書いてみる。理解したつもりなのに大抵の場合書けない。本に書いてあったことを必死で思い出すことと、自力で考えることの境界を彷徨う、それを続けていると、数学がわかってくるのだそうです。
数学は、紙と鉛筆さえあれば、自分の思考を辿ることができる、この手触り感がいいと語ります。子供のころ、なにかわからない道具を触り、五感を使ってどう使うかを考えていたときの感覚と似ています。
「アート思考」で「ネガティブ・ケイパビリティ」を鍛える
数学だけではなくて、「アート思考」もネガティブ・ケイパビリティを身につけるのに非常に適していると思います。「アート思考」とは、「自らの興味・関心を起点に、既存の常識にとらわれない斬新なコンセプトを創出する思考」と定義づけられます。斬新なコンセプトを創出するにあたり、興味をもった事象について徹底的にリサーチすることが必要です。
アーティストのアルフレド・ジャーは、2023年に広島で展覧会を行いました。その際のインタビューで、次のように語っています。
展覧会を行うに値する理解を得られるまで、わからないとういう状況を数年続けているのです。そして、ジャーは、若者に対して次のように指導しています。
私が行っているMBAでの授業や企業研修でも、受講生の皆さんに、斬新なコンセプトを導けるようになるまで徹底的にリサーチをしてもらっています。これは正解を導くような行為ではなく、自分が納得するまで続くことになります。AIに聞くことに慣れた人にとっては、困難な状況かもしれません。しかし、ここを乗り越え、自分なりの発見をすることができると、論理的に考えたのとは違うアイデアを発想できるようになります。
「わからない」ことを楽しむ
この記事では、数学、アート思考とネガティブ・ケイパビリティについて、お話ししました。わからないことを自分で考えることは、とても大切なことです。それは、イノベーションにつながる斬新なコンセプトを創出することにもなります。
しかし、わからないことに耐えることは、簡単なことではありません。AIに頼ってしまうこともありますし、単純化やマニュアル化に逃げてしまうこともあります。それを克服するには、数学やアート思考のように、五感を使って、わからないことを考え続けることが必要です。
「わからない」を楽しむことにチャレンジして、社会を前に進めていきましょう。
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