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奇想の力で世界を変える!京都のアートシーンにみる創造性

奇想天外な発想が世界を変える力になる、そんなことを感じさせる展覧会が京都で開催されていました。この記事では、スターリング・ルビー、坂本龍一+高谷史郎、塩田千春の展覧会を紹介するとともに、奇想について考えてみます。



幽霊が伝える未来の危機


京都の古い町屋に幽霊が現れました。でも、それは本当の幽霊ではありません。アーティストのスターリング・ルビーが作った幽霊です。彼は、日本や欧米の昔話や伝説に出てくる幽霊をリサーチして、奇抜な世界を表現しました。ラフカディオ・ハーン(小泉八雲)の怪談話を取り入れたろくろ首や、世界中に伝承されているゴースト・ブライドなど、さまざまな幽霊がいます。彼らは、町屋の暗い部屋で、不気味に光っています。

スターリング・ルビー 「SPECTERS KYOTO」


この展示は、「SPECTERS KYOTO」というタイトルで、タカ・イシイギャラリー 京都で見ることができます(2023年11月25日〜2024年1月20日)。ルビーは、物質的な世界と精神的な世界の境界に興味があります。

幽霊は、人間の奇想の産物です。どの国にも幽霊の話がありました。人々は、幽霊を恐れたり、幽霊から教えられたりしました。今の都市では、闇が消され、幽霊は居場所を失ってしまったのです。代わりに、気候変動やパンデミックという、やはり目に見えないけれど、より現実的な脅威が迫ってきています。この展示は、私たちに、幽霊の意味や役割を改めて問いかけています。

非同期の音楽で調和を崩す


京都新聞ビルの地下に、音楽と映像からなるインスタレーションが展示されています。これは、坂本龍一さんと高谷史郎さんの共同作品《async - immersion 2023》。坂本さんのアルバム『async』をもとに制作されたものです。インスタレーションを作りました。『async』とは、“asynchronization”「非同期」という意味です。

坂本さんが『async』を発表する際、次のように語りました。

僕自身は確かに非同期的な人間かもしれませんが、同期するのが悪いとは思いませんし、非同期的に生きるべきだとも思わない。いま自分がやりたい音楽が非同期的なことだったというだけです。ただ僕がやっていたテクノミュージックは、同期するための音楽。行き着く先は個人の消滅です。そこには昔から危機感があったということがいまにつながっているのかもしれません

坂本龍一、新作『async』を語る──「いちばんわがままに作った」

私たちが接する音楽の多くは調和を保っています。音楽だけでなく、社会の仕組みも同期され、その状況が楽で安心なのです。でも、坂本さんは、自分の音楽を超えて、非同期の世界を見せてくれました。それは、奇想と言っていいでしょう。

坂本龍一+高谷史郎 async - immersion 2023


この展示では、坂本さんの音楽と高谷さんの映像が流れます。29台のスピーカーと6台のサブウーファーで、音が立体的に広がります。音と映像は同期しておらず、同じ組み合わせは、二度と出てこないといいます。

このインスタレーションは、決して居心地の悪い空間ではありませんが、非同期の映像と音楽を受け取り続けるには、かなりのエネルギーを消耗します。私たちが、どれだけ同期の世界に住んでいるかを実感させてくれる展示です。非同期を創り調和を崩すことで、新しい価値や可能性を生み出すことを提示しています。

夢の手紙を紐でつなぐ


京都精華大学で、塩田千春さんの作品が展示されています。塩田さんは、人々の記憶や想いを集めて、糸やロープで作品を作ります。彼女は、生きることや存在することについて探求しています。

今回のテーマは、「夢」

人はなぜ夢を見るのだろう。夢の世界は脳の中でどのように広がっているのか。なぜ人は同じ夢を繰り返し見るのか。眠りの中で見る夢と、未来を描いて見る夢はなぜ同じ言葉で表されるのか。

京都精華大学55周年記念展「FATHOM—塩田千春、金沢寿美、ソー・ソウエン」

これらの疑問に応えるため、塩田さんは、夢についての手紙を募集しました。学生や先生や一般の人から、1,000通もの手紙が届きました。手紙には、夢の話や感想や思い出などが書かれています。塩田さんは、これらの手紙を赤い紐でつないで、壮大なインスタレーションを制作しました。紐の向こうには、キャンパスの広がりを垣間みることができます。

塩田千春《夢について》


夢は奇想の一つです。眠っているときに見る夢は、現実とは違うことが起こります。でも、未来を描く夢は、どうでしょうか。私たちは、少し努力すれば叶えられるような夢を描いてしまいがちです。

しかし、奇想天外な夢を描き、それに向かって一歩一歩進んでいくことこそ、人生を面白いものにしてくれます。夢は奇想であるからこそ、同じ言葉が使われているのではないでしょうか。

一見、実現不可能にも思える壮大な夢、これに向かって取り組んでいる人たちの想いが、赤いロープで紡がれることで、実現させる力と勇気がわいてきます。その向こうに新たな地平が広がっているのです。


アーティストたちは、普通では考えられないような発想で、作品を作っています。私たちも、奇想を考えられるように思考に磨きをかけたいものです。奇想は、社会を面白くワクワクしたものに変貌してくれるのです。


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