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構造と機能を切り離す:イノベーションの創出のもう一つの鍵

私たちは普段、モノの形状を見て、その機能を自然に想像します。椅子は座るもの、スマートフォンは連絡や情報収集の道具、といった具合です。これは「構造」と「機能」を1対1で結びつけて捉えているからです。しかし、これらをあえて分離して考えることが、ビジネスにおける革新的なアイデア創出の鍵になるかもしれません。


冨井大裕氏のアートに見る「構造と機能の分離」

現代アーティストの冨井大裕氏(1973-)は、日用品や既製品に最小限の手を加えることで、それらを本来の機能から解放し、新たな価値を見出しています。例えば、次のような作品があります。

27,225本の画鋲を整然と並べて壁に押し込んだ作品《ゴールドフィンガー》では、画鋲が本来の「紙を留める」という機能から解放され、絵画作品を創り出しています。

何百本ものストローの端どうしをつなぐことでボール状の彫刻作品にした《joint (ball)》、これはストローのドリンクを飲むという機能から切り離し、レゴのように組み上げるパーツとして見立てています。

現在、慶應義塾大学アート・センターで展示されている《塵取りの関係 #1》では、2つの塵取りを柄で接合しただけのシンプルな構造ですが、塵取りとしての実用性は排除され、見る角度によってポストのように見えるユニークな彫刻作品になっています。

冨井大裕《塵取りの関係 #1》:筆者撮影

日常的な物が特定の機能をもつことに囚われていると、このような作品を創ることは難しい。これらの作品は、構造と機能を分離して、従来の枠組みを超える思考の実践例です。

ビジネスイノベーションへの応用

冨井氏の「構造と機能の分離」という発想をビジネスに応用すると、製品やサービスの可能性を広げ、新たな市場を切り開くことができます。以下に、その具体例を挙げてみましょう。

機能を問い直す

成功例として挙げられるのは、スマートフォンの進化です。当初の携帯電話には物理的なボタンがついていましたが、これを取り払い、全面をスクリーンにしたデザインが登場しました。この「ボタンが必要」という構造への先入観を捨てた結果、今日のスマートフォンのスタンダードが生まれたのです。

ダイソンの扇風機も同様です。従来の「羽が風を起こす」という常識を覆し、羽のないデザインを提案しました。この構造変更により、安全性やデザイン性が飛躍的に向上し、ユーザーに新たな価値を提供しています。

Photo by StockSnap from Pixabay

サービスの再構築

構造と機能の分離は、製品だけでなくサービスにも応用可能です。シェアリングエコノミーがその好例です。「モノを所有する」という従来の枠組みを外し、「一時的に利用する」という機能に焦点を当てた結果、AirbnbやUberのような新たなサービスモデルが誕生しました。これにより、未開拓の市場が生まれ、多くのビジネスチャンスを創出しました。

構造と機能を切り離しアイデアを創出するステップ

構造と機能を分離し、イノベーションを起こすための具体的なステップを以下に示します:

  1. 既存の製品やサービスを分解する:対象の要素を細かく分け、構造と機能を切り離して考える。

  2. 機能の本質を探る:そのモノやサービスが果たす役割を深く掘り下げる。

  3. 新しい形態を想像する:従来の構造にとらわれず、機能を実現する新たな方法を模索する。

  4. 異分野との接点を探る:他分野のアイデアや技術を取り入れることで、斬新な構造を生み出す。

日常の枠を超える創造力を磨く

冨井氏の作品が教えてくれるのは、ある機能をもたらす構造は一つという思い込みを破ることの重要性です。ビジネスにおいても、このような固定観念を打ち破ることで、新たな市場や価値を創造できます。冨井さんは、自分が制作した作品で「自分自身が驚きたい」と言います「驚き」と「新しさ」を伴ったアイデアこそが、顧客に深い感動を与え、競争優位性を生むのです。

意識的に「構造と機能を分離して考える」ことに挑戦してみましょう。大胆に既存の枠組みを壊し、新たな視点を取り入れることで、ビジネスの世界でも大きなインパクトを生み出せるはずです。構造と機能を切り離すことで見えてくる可能性の扉。その鍵は、あなたの手の中にあります。

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