ピアノのメンテナンスに欠かせない調律とは?
私は音楽に対して、割と思い入れが強かったりする。
というのも、私の母親は小学校の先生だったのだが、専門が音楽ということもあり、物心ついたときから家にグランドピアノがあった。
そんな私の中で今でも鮮明に覚えている光景が調律だ。
ピアノの構造と調律
ピアノは定期的に調律という作業をしなければならない。
というのも、ピアノは繊細なタッチが求められる楽器で、その特性を存分に活かして美しい音を奏でるには、定期的な点検と調整、つまり調律が欠かせないというわけだ。
ということで、調律のことを知るには、まずピアノとはどんなものなのか、その構造を理解する必要がある。
鍵盤が88個ある
鍵盤から1~3本の弦が張られている
弦の総数は220本になる
鍵盤と弦をはじめ約8,000個のパーツがある
ピアノのイメージというと白と黒の鍵盤の部分を挙げる人がほとんどだと思うが、ピアノの裏側には実はこれだけ複雑に設計されているのである。
グランドピアノを頭に浮かべてもらうとよりわかると思うのだが、あの大きな部分を覗き込むと、多くの弦やパーツがあることがわかる。
幼心に、大きなグランドピアノの複雑に見える機械的なのだけれどもキレイな配列や壮大な内部構造にはどこかワクワクさせらた記憶がある。
こうやって設計されたピアノは、鍵盤と連動したハンマーが弦をたたく、アクションという仕組みで音が発生する。
ピアノを弾くと漢字を充てることからも、弾く(はじく)イメージが掴めるはずだ。
そんなピアノだからこそ、ピアノのメカニズムや理論を理解し、バランスよく調整していく調律には専門技能が不可欠になる。
そして、専門としている人を調律師という。
調律師が一般家庭で行うピアノ調律の主な仕事は下記のとおりだ。
調律(チューニング):音程を調節する
整調:鍵盤のタッチを調整する
整音:音色を整える
ピアノの全般に関わる修理やアフターサポート
こういった仕事を遂行するため、調律師は約10kgにもおよぶ様々な道具を持ってピアノの調律を行うのである。
ピアノ調律の三本柱
ということで、具体的にどういったことが行われていくのか、もう少し具体的に説明していこう。
調律の作業では、弦の張力を加減しながら音の高さを調節して音律(平均率音階)をつくる。
まず、音を合わせたい鍵盤の弦のうち1本だけの音が鳴るように、フェルトウェッジという工具を弦の間に挟んで残りの弦を止める。
そして、チューニングハンマーを弦が巻かれたチューニングピンに差し込み、鍵盤をたたいて音を出しながら弦を緩めたり引っ張ったりして音を調節していく。
ほんのわずかな張力の加減で音は変わってしまうので、慎重にピンを回しながら音がまっすぐ伸びるポイントを探すのである。
注目したいのは、弦1本あたりの張力は約90kgあるということだ。
調律師の作業風景を見ていると、いとも簡単に行っているように見えるが、実はチューニングピンを回す力加減が難しい上に、素人では音の違いがまず聴き分けられないだろう。
これは調律師でも経験が大切で、少しずつ感覚を掴むようになっていくそうだ。
調律師は正確な音律を捉えながら、1本につき20秒を目安にすべての弦を素早く合わせていく。
この光景は私は幼い頃によく見ていて、流れるような調律師の作業に見とれていた記憶がある。
豆知識だが、アコースティック楽器の音には、基音とその周波数の整数倍の高さを持つ、倍音という概念がある。
基音にこの倍音を上手くのせて調律することもアコースティックピアノならではの豊かな音を引き出すポイントになる。
整調は、ピアノを弾きやすい状態にするために、打弦機構と呼ばれる鍵盤やアクションの動きを整える作業になる。
上述したとおり、ピアノは鍵盤と連動したハンマーが弦をたたいて音を出すが、ハンマーが弦に接触したままだと弦の振動が妨げられて発音しない。
つまり、弦にあたる寸前でハンマーから鍵盤の力が外されて惰性で弦をたたく仕組みになっているわけだ。
このハンマーのリリースを鍵盤のどの深さで行うか、鍵盤内部のねじ山の高さを変えたりして調整するのが、整調というわけだ。
そして、整調は鍵盤のタッチの調整にも繋がる。
整音は、主にハンマーを調整するという作業だ。
ハンマーヘッドの形状や、弦をたたいて離れる一連の動きを整えることで音色や音質を調整していくのである。
ピアノは経年により、ハンマーの弦にあたるフェルト部分が硬くなると音質が変わってしまうという特徴がある。
その硬化したハンマーヘッドをやすり掛けして整えたり、針を刺してフェルトの弾性を整えて弦からハンマーが離れるタイミングを調節したりする、音質を調整するのが整音の作業というわけだ。
調律師としての価値
上記に述べた3つが調律のおおまかな工程となるわけだが、実際はこれ以外にも細かい作業や調整はたくさんある。
おおよその目安として、調律師は家庭用のピアノなら1回の調律の目安時間を90分で調律するように訓練されているという。
また、単純に音を基準に合わせるだけでなく、技術と理論、経験、さらに感性や想像力も駆使して、依頼者の求める音をつくり出すこともまた重要な役割だといえる。
例えば、ピアノを弾く人に、明るい音にしてほしいと注文されたとしよう。
ただ、明るい音といっても人によって感覚は異なるので、依頼者にとっての明るい音がどういうものかコミュニケーションの中から探らなければいけない。
明るさを叶えるにはどのように調整するべきか、頭の中で調律の設計図を描くという、依頼者が表現した音の形容詞を技術に変換していくイメージが重要になるわけだ。
そうやってよりよい音と弾き心地を追求していくところに調律の醍醐味があり、演奏者の要望に沿うことで 、いい音楽を支えられることが、調律師のなによりの喜びであり価値なのである。
ピアノの調律を行うタイミング
ピアノは木や羊毛、紙など天然素材が多く使われているため、演奏による摩耗や気候の影響を受けやすく各パーツの相関関係に狂いやズレが生じやすいという特性がある。
そこで、家庭で普通に使っているピアノなら、1年に1度、調律をするのが理想とされている。
また、アコースティックピアノは、弾く人によって多彩な音色が生まれるところが大きな魅力だ。
デジタルにはない、こうした繊細な表現力を維持するためにも調律は必須ということになる。
毎日弾いているとわずかなズレには気づきにくいものだが、調律をすると音や鍵盤タッチが良くなったことを実感できる。
そして、ピアノに限った話ではないが、定期的にメンテナンスをしていれば大きな故障になりにくい。
音楽とはその名のとおり、音を楽しむことにあり、その入口にあるのが調律ということになるわけだ。
まとめ
ピアノの調律という言葉を聞くと、ほとんどの人は聞き慣れないかもしれない。
ただ、冒頭に書いたとおり、私にとっては比較的、馴染みのある風景だった。
小学生の頃、土曜日の午前中は学校で午後から家にいるというタイミングで、定期的にピアノの調律が来るからと母親からの依頼があった。
今でも覚えているのだが、挑発のいかにも音楽家といって容姿の調律師が定期的に我が家に訪れては、ピアノの調律をする光景をじっくり見ていた。
その姿はいかにも職人という感じで、たまにグランドピアノの中を覗いてみるかと見せてくれたりと、独特の世界に連れて行ってくれたことはいい想い出だ。
なによりも、ピアノの調律が一通り終わった後に、その調律師がピアノを弾き始めるのだが、その姿がとてもカッコよくて、調律している姿よりも惹きつけられた。
上述したとおり、確かにピアノの調律の目安の60〜90分くらいだったと思うが、調律を終えた後に渡すように依頼されていた報酬を渡して仕事道具を持って帰る姿は鮮明に覚えている。
そして、蛇足ではあるが、なぜかこの歳になって、ピアノを弾きたいという気持ちが人生で最大になっている自分がいることも書いておこう。
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