ゲームで負けたら、世界が終わると思っている子への対応
※この記事は、小児科医石川道子先生と言語聴覚士ももさんとのInstagram Liveの内容を引用しています。発達障がいの子がみな勝ち負けにこだわるわけでも、勝ち負けにこだわるからと言って発達障がいというわけでもない点は、ご理解下さい。ライブ全編はこちら⇩
https://www.instagram.com/hattatsu.hoiku.gakkou/
なぜゲームで負けて、大きく気持ちが崩れるのか?
発達障がいの子の中には、くじを引いたら絶対当たり、ゲームをやったら絶対勝つという、極端なイメージをもつ子がいます。裏を返せば、ゲームで負けるとか、くじが当たらないことが想定出来ていないということになります。だから、実体験としてゲームで負けて初めて「思ってたのと違う!」と混乱してしまうのだと思います。
また、発達障がいの子の中には、「バツ(✖️)」(だと自分が思うこと)にまつわる体験がとても苦手な子がいます。ゲーム以外にも、人から指摘を受けるとか、「できない」と相手に伝えることなどが苦手なタイプです。
つまり、負けると過剰反応する子は、自分の想定していないことが起こったり、負けることを過剰にバツだと思っていることで、極端にゲームで負けることを嫌がっているのだと考えられます。
そうすると、ゲームにかける心意気が半端ではなくなるのです。定型発達の子たちは、いろんな活動がある中の「たかがゲーム」くらいの感覚で捉えることができますが、発達障がいの子にとっては、「これが出来ないと世界が終わる!」「生きてる価値がない!」くらい一大事なのだと思います。
負けた時を見越して、先手をうつ
そう考えると、ゲームに参加してみるものの終わった後に泣き崩れるタイプの子は、確かに負けて気持ちは崩れるのだけど、決してゲームに参加したくないわけではないのです。
それも踏まえて、これまでの活動で負けで大きく崩れてきた子が参加する場合は、大人はゲームの前に「ゲームを続けたいのであれば、負けても怒らない」とルールを敷くことが大切です。
このルールを決めておくことで、負けてワーっと暴れた時には、このゲームをやめるという方向に進みます。そして、ゲームを続けたいのであれば、泣くのを我慢するとか、負けることを受け入れるという方向に流れます。
しかし、必ずしもゲームを続ける必要はない、ことは大人が前提として持っておく必要があります。もし、子どもが絶対勝ちたいのであれば、その気持ちを尊重して、一人でとことん遊び込む方法もありだと思います。例えば、神経衰弱であれば、通常人と交互にプレーしますが、自分一人で好きなだけめくって遊べばいいのです。
でも、多くのゲームで負けたくない子は、それは楽しくないということは分かるので、やはり「人とやっていくと負けることもあるね」という点で、折り合いをつける局面にぶつかるのです。
どうしても、ゲーム参加を拒否する時には
「負けるのが嫌で嫌で仕方がないから、活動には参加したくない。」と子どもが主張すれば、それを認めてあげれば良いと思います。その時には、参加しなくても、側でちらちらと活動の様子を見れるようにすると、良いのではないでしょうか。他の子達が盛り上がっている様子や、「もう一回やる!リベンジだ!」って言ってる様子をみて、「やっぱりやりたいな。」という気持ちになることもあります。
もしも、また参加したいと思っていそうな時には、そのタイミングで大人が活動の中に招き入れてあげると良いと思います。
極端に心が折れることを防ぐには
負けることで心が折れやすい子には、ゲームに参加する時に、最初は大人が側についていてあげた方が望ましいです。
大人が側につく意義としては、「もしかしたら勝てないこともあるよ。」「お約束覚えてる?負けても怒らないんだよね。」のように、ゲームで想定されることや約束を、ひそひそと確認してあげられることです。子どもは夢中になると、約束を忘れてしまうこともあります。この時に、頭ごなしに、「約束忘れてるでしょ」ではなくて、「しつこいと思うけど例のお約束はね・・・のような感じで伝えていきます。
また、前述したように、激しく崩れるのは、負けることでバツがつくことの嫌さに加えて、「予想が外れた(思ってたのと違う)」ということが加わるためです。
だから、途中経過を伝えていくことも、大人の大事な役割です。発達障がいの子の中には、ゲームに没頭するあまり周辺情報をうまく取れていないために、負けたことが青天の霹靂状態ということがあります。そこで、「もうすぐ負けそう」とか、「今相手の方が、勝ってるね」のような、経過を伝えていくことで、予想が外れたという気持ちの崩れを少なくできる、というわけです。
それでも負けてしまった時には(トランプを破り捨てたり、その行動はダメだよねという行動に出てない限り)、「凄い悔しかったよね。」「頑張ったよね。」と励ましてあげると良いと思います。
特に、ウルウルと涙を溜めている時なんかは、「負けちゃったけどすごい我慢してるの分かるよ。」とぜひ気持ちに寄り添っていきましょう。だって、約束を守ろうとしてくれてるのだから。
経験とともに負け嫌いは緩和されるのか
経験とともに、負けて大きく崩れることは減ってくることが多いですが、負けに対しての適応は時間がかかることが多いです。定型発達の子であれば、「負けたからもう1勝負!」とすぐに言い出すでしょう。それは、ある意味負けに対して切り替えが出来てるということです。また、定型発達の子は、「ゲームは友達と仲良く遊ぶことが目的だから、たかがゲームで大騒ぎすると、雰囲気を壊す」ということがあっという間に分かるようになります。
発達障がいの子は、こういった切り替えや、ゲームの本来の大義の理解には時間がかかります。だからこそ、負け嫌いの発達障がいの子が、「もう1回やりたい!」と言ったら、世界が終わるという思い込みでなく、次があると考えられる思考にステップアップしたと、ポジティブに捉えていきましょう。
そう考えると、幼児期に保育園の活動だけで、ゲームの勝ち負けに慣れていくのは、正直難しいのではないかと思います。
保育園時代の目標は、負けて心を打ちひしがれている時に、大人が慰めてたり、「悔しかったね。」と共感の言葉を添えてもらって、気持ちが和むことだと思います。
中には、勝つためには手段を選ばない子がいて、自分が負けそうになるとルールを自分都合に変えていく子もいます。
ゲームをみんなで楽しむことでなく、勝つことを目的にしてしまうと、いくら上手く対応してくれる友達も、どんどん離れてしまいます。
そういう子は、単に負けるのが嫌という子よりも、さらに保育の中で対応が難しいケースです。それこそ一対一の療育の場面や、家族のなかなど小さい集団の中で、自分のマイルールが通じないこともある、ということを学ぶ必要があるのではないでしょうか。ゲームに限ったことではないですが・・・
たかがゲーム、されどゲームですが、ゲームを通して「人と何かを取り組むことは楽しい」という経験につながるよう、大人は子どもの様子を見て対応を調整したいものです。