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悲劇のヒロインは、春の訪れを恐れながらも勇敢に手紙を書いたとのこと。

 目を閉じて深く息を吸うと、胸にトンと落ちてくる匂い。冬という名前を借りて、春が顔をのぞかせた匂いはいつも少し切なくて、少しもやっとする。だから少し、嫌い。

なのに深く吸い込む。匂いだけに集中できるように、目を閉じて。吸って、匂いを感じて切なくて、嫌いだと思って、でも、どんな香りだっけか?なんて気になったふりをして、深く吸い込んで、切ない。

空気の話です。これは。なのに常にアナタの顔が浮かんでいる私は、相当アナタが好きです。多分。 

だから、ね?

はい。もうこの匂いは春が来た合図ですよね。わかっています。だってこの入れ替わり、迎えるのはもう24回目。だけどカレンダーではまだ二月だからと冬に留まろうとする、私。
「大丈夫。いきなり暖かくなってしまっては、衣替えとかその他もろもろ大変だろう?全部わかっているから大丈夫だよ。ゆっくりジワリと君に届けるから。」と、春。

え。
「人肌恋しくなる冬にいさせてはくれないんだね〜。」
不満。

「ねえ、冬にいよーよ。寒さを口実にしたらどこでも温かくなれるよ〜。」
願望。

春へ

少しずつ、でも確実に季節を染めるような小癪なやり方はやめてください。ちっとも私のためになりません。冬服も春服も必要になってしまっては、タンスに入りきらなくて部屋が散らかります。初めて話した時、こんな世間話をしたこと、覚えてない?大きく首を振って賛同したアナタがたまらなく可愛く思えて、二人の関係に名前がついた後も、その癖は変わらなくて、だあい好きなところでした。でもその賛同の激しさと、アナタの感動具合には何の関係もないと知ったのは、二人の関係に名前がついてから5か月目くらいだったっけ。世渡りが上手なアナタと、気付いた私。新しい一面を知るときは、いつも心がチクりとしました。沢山のアナタを知れた2年半。知らざるを得なかった面も山ほどでしたが、今だって、アナタに恋をしています。 

だから、ね?

はい。まあこんなこと、振り返っても何の効力を持たないとしっているし、これは春に宛てた手紙ですから。

とにかく、春さん。冬なら冬、春なら春。きっぱり、突然こちらを振り回してください。匂いなんて、ちょっとした変化で気づく瞬間が一番切ないです。じわじわなんて、やめてください。


フってください。


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