勝手に事例調査第4弾:Nordstrom
靴屋から始まったNordstromの歴史
Nordstromは1901年、ジョン・W・ノードストロームとカール・F・ウォリンによってシアトルで靴店として設立されました。当初の「ウォリン&ノードストローム」という名称で営業していた同社は、創業当初から優れた顧客サービスを重視していました。
1963年には「Best Apparel」を買収し、靴以外の衣料品にも取り組み始めたことで、フルラインの百貨店へと進化を遂げました。その後、1971年にNASDAQに上場し、ティッカーシンボル「JWN」として取引されるようになりました。この上場により、さらなる全米展開に向けた資金調達が実現し、成長を加速させました。
変化する消費者行動との共進化 ~クリック・アンド・モルタル戦略とデジタル統合への取り組み
高級百貨店として名高いNordstromが、デジタル時代における大きな転換期を迎えています。近年、消費者の購買行動は劇的に変化し、オンラインとオフラインを自在に行き来する「クリック・アンド・モルタル」型の購買が一般的となりました。この変化に対応するため、Nordstromは果敢な変革に乗り出しています。
特筆すべきは、デジタルとフィジカル店舗の統合戦略です。消費者は、スマートフォンで商品を検索し、実店舗で実物を確認してから購入を決めるという、複雑な購買行動を示すようになりました。Nordstromはこの傾向を早期に察知し、オンラインと店舗の垣根を取り払う取り組みを積極的に推進しています。
ノードストローム兄弟の革新的ビジョン ~ピートとエリックによるオムニチャネル戦略とデジタル変革
現在、Nordstromは共同社長であるピート・ノードストロームとエリック・ノードストロームのリーダーシップのもと、オムニチャネル戦略とデジタルトランスフォーメーションに注力しています。
ピート・ノードストロームは、顧客のショッピング時に感じる「摩擦」を減らすことに重点を置き、顧客の利便性を追求した小型店舗「Nordstrom Local」の展開に注力しています。
一方、エリック・ノードストロームは、デジタル変革への投資を拡大し、フルラインの店舗とオフプライスビジネス(Nordstrom Rack)の両立を目指しています。両者とも、フィジカルな店舗とデジタルの統合を図り、顧客体験をシームレスにすることに重きを置いています。
顧客体験の革新で成長し続けるNordstrom
伝説となった顧客サービス:タイヤ返品のエピソード
Nordstromのサービスには、多くの伝説的な逸話があります。例えば、「タイヤを返金した」という有名なエピソードは事実かどうかは不明ですが、顧客満足のためにどこまでも尽力するNordstromの姿勢を象徴するエピソードとして知られています。こうしたエピソードは、ブランドのサービス品質をさらに際立たせています。
デジタルとリアルの融合:BOPIS戦略とNordstrom Local
Nordstromは、早くからオムニチャネル戦略を推進し、特にCOVID-19パンデミックの間にその価値を証明しました。BOPIS(Buy Online, Pick Up In-Store)は、オンラインで注文した商品を店舗で受け取るサービスで、パンデミック時にはオンライン売上の約25%を占めました。これにより、店舗閉鎖時にも売上を維持し、顧客の利便性を確保しました。
BOPISは、特に利便性と効率性が評価されており、Nordstromの顧客満足度向上に大きく貢献しています。さらに、Nordstromは店舗に商品在庫を持たず、サービスに特化した小型店舗「Nordstrom Local」を展開しており、顧客の注文受け取りや返品、パーソナルスタイリングを提供しています。
顧客との絆を深める:Nordy Clubのパーソナライゼーション
Nordstromのロイヤルティプログラム「Nordy Club」は、数百万人の会員を抱え、パーソナライズされた体験を提供しています。顧客の購買行動に基づき、セールの先行アクセスや個別のおすすめ商品といった特典が用意されており、リピート顧客の増加や顧客生涯価値(LTV)の向上に寄与しています。
会員は非会員に比べて平均的に多くの消費を行い、全体の売上にも大きく貢献しています。このパーソナライゼーション戦略は、顧客との関係を深め、Nordstromの競争優位性をさらに強化しています。
パーソナルスタイリングの進化:Trunk Clubの展開
2014年にNordstromが買収した「Trunk Club」は、顧客に個別のスタイリングサービスを提供することを目的としたパーソナルスタイリングサービスです。当初はコスト面での課題がありましたが、現在ではパーソナライゼーション戦略の一環として、Trunk ClubはNordstromの強みの一つとなっています。
顧客からは、個別に提供されるファッションアドバイスが高く評価されており、これにより顧客のロイヤルティが強化されています。
ラグジュアリー戦略:高級ブランドとのパートナーシップ
Nordstromは、Gucci、Chanel、Valentinoといった高級ブランドとのパートナーシップにより、独自の製品ラインを提供し、競合との差別化を図っています。これにより、独自性を求める高所得層の顧客を引きつけ、売上増加に大きく貢献しています。
さらに、リテールメディアネットワーク(RMN)にも取り組んでおり、データを活用した広告パートナーシップを通じて新たな収益源を創出しています。
高効率店舗で150億ドル達成
近年のNordstromの年間売上は約150億ドルに達し、そのうちオンライン売上は約38%を占めています。Macy’sやSaks Fifth Avenueといった競合他社と比較しても、Nordstromは強力なオムニチャネル戦略や顧客サービスへの注力により、競争力を維持しています。
また、同社は他の小売業者に比べて、売上高に対する店舗面積の効率が非常に高い「売上高/面積」の指標で優れた成果を上げています。これにより、限られたリソースを最大限に活用して収益を生み出していることが証明されています。
テクノロジーが拓く新たな可能性 ~AI活用とフィジタル体験の革新
Nordstromは、AI技術を活用した在庫管理の効率化や、機械学習を利用したパーソナライズマーケティングに積極的に取り組んでいます。AIと機械学習を駆使して、顧客の購買パターンや好みを分析し、よりパーソナライズされた商品提案やマーケティングキャンペーンを展開しています。
また、フィジカルとデジタルを統合した「フィジタル」体験にも注力しており、拡張現実(AR)技術を活用して、店内で商品の試着や購入体験をさらに進化させています。これにより、今後5~10年で業務効率が向上し、顧客エンゲージメントがさらに深化することが期待されています。
このように、Nordstromは顧客体験の革新とデジタル化を推進し、競争優位性を確立しています。今後も技術革新や持続可能性への取り組みを通じて、さらなる成長が期待されます。
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