勝手に事例調査第2弾:Target
概要
Targetは、デジタルトランスフォーメーションと顧客体験の向上に重点を置き、小売業界の中で強固な地位を確立しました。モバイルアプリの改善、AIによるパーソナライズ、音声コマースの導入など、最新の技術を取り入れることで消費者の期待に応え、特にパンデミック時には迅速な対応で顧客ロイヤリティを維持しました。
さらに、戦略的なパートナーシップを通じて、ファッションやビューティー市場における競争力も強化し続けています。これからも、Targetは持続可能なビジネスモデルを構築し、消費者ニーズの変化に対応しながら、より良い顧客体験を提供することで、その地位をさらに拡大していくでしょう。
Targetのルーツ:Dayton Dry Goodsからの進化と差別化戦略
1902年、ジョージ・デイトンがミネソタ州ミネアポリスで設立したDayton Dry Goods Companyが、Targetのルーツです。当時、彼の理念は「高品質な商品を地域社会に手頃な価格で提供する」ことでした。このビジネスモデルは、当初から「社会に貢献しながらビジネスを行う」という哲学に根ざしており、Dayton Dry Goods Companyはその後、1962年にディスカウントストア「Target」として再編されました。
ターゲットは価格競争が激しいディスカウント業界で、単に低価格を追求するのではなく、デザインと品質に重点を置くことで差別化を図りました。当時の競合他社、特にWalmartやKmartは大量の商品を低価格で提供することに集中していましたが、Targetはファッションやスタイルに敏感な消費者を引き寄せる戦略を採用しました。この「デザインと品質を重視するディスカウントストア」という位置づけは、現在もブランドの基盤を形成しています。
デザインと拡大戦略で築いたTargetの成長物語
1980年代から1990年代にかけて、Targetは店舗数を急速に拡大し、全米50州に進出しました。この期間中、Targetは有名デザイナーとのコラボレーションを推進し、スタイリッシュな商品を提供することで、消費者に独自のショッピング体験を提供しました。特に1980年代には、アイザック・ミズラヒやミッソーニとのパートナーシップが成功を収め、Targetは消費者に高品質なファッションと生活雑貨を手頃な価格で提供するディスカウントストアとしての地位を確立しました。
これにより、消費者は単なる「安さ」ではなく、「スタイルと質を兼ね備えた商品」に対する期待を持つようになりました。Targetは、価格だけでなく、顧客のライフスタイルや美的感覚を重視した商品を提供することで、他のディスカウントチェーンと差別化を図りました。2023年現在、Targetは全米で約1,900店舗を展開し、Walmartに次ぐ米国第2位のディスカウントチェーンとなっています。
Targetの成長を支えるプライベートブランド戦略:Cat & JackとGood & Gatherの成功
Targetの成長戦略において、プライベートブランドは中心的な役割を果たしています。Targetは、顧客のニーズに合わせた幅広い商品ラインを展開し、他の小売業者と差別化を図ることに成功しました。
特に、子供向けアパレルブランド「Cat & Jack」や食品ブランド「Good & Gather」は大きな成功を収めています。「Cat & Jack」は2016年にデビューし、1年で10億ドルの売上を達成しました。このブランドは、デザイン性と耐久性を兼ね備えた商品を提供し、親たちから高い評価を得ています。
一方、「Good & Gather」は、健康志向の消費者をターゲットにし、手頃な価格で高品質な食品を提供するブランドです。Targetの中でも食品セクターにおいて急成長しており、特に全米の健康志向の消費者に支持されています。
他にも、アパレル、ホームグッズ、日用品、化粧品など、Targetのプライベートブランドは消費者のライフスタイルに応じた幅広い商品ラインを揃えています。これにより、消費者が他では手に入らないユニークな商品を手にすることができ、他のディスカウントストアとの競争において強力な武器となっています。
2022年時点では、プライベートブランドの売上はTargetの総売上の約30%を占め、特にファッションやホームグッズにおいて強力なポジションを築いています。Targetはプライベートブランドの成長をさらに加速させるため、新しい商品ラインの導入や既存ブランドの強化に積極的に取り組んでいます。
Targetのプライベートブランドの主な例
Cat & Jack(子供服):デザイン性と耐久性が強み。
Good & Gather(食品):健康志向の高い食品を手頃な価格で提供。
Threshold(ホームグッズ):高品質でトレンドを取り入れたホームインテリア商品。
Up & Up(日用品):日常的に使用する必需品をリーズナブルな価格で提供。
Heyday(電子アクセサリー):スタイリッシュで使いやすいデジタルアクセサリー。
デジタルトランスフォーメーションへの挑戦:オンラインと実店舗の統合を進めるTarget
2000年代に入ると、インターネットの普及とオンラインショッピングの急速な成長に伴い、Targetは新たな競争に直面しました。特にAmazonとWalmartがオンライン市場でのプレゼンスを強化する中、Targetもオンラインショッピングへの対応を余儀なくされました。2014年にブライアン・コーネルがCEOに就任したことで、Targetはデジタルトランスフォーメーションを本格的に推進し、オンラインと実店舗の統合を強化しました。
モバイルアプリの強化
2019年、Targetは「Cartwheel」節約アプリをメインのTargetアプリと統合し、ショッピング、ディール、店舗内ナビゲーションなどを一元管理する使いやすいプラットフォームを提供しました。アプリのユーザーは、拡張現実(AR)技術を使用して、購入前に家具やインテリアを部屋に配置するシミュレーションを行うことができ、消費者に視覚的なショッピング体験を提供しています。
また、2020年には「Shop in Store」モードを導入し、顧客が店舗内で簡単に商品を見つけ、リアルタイムの在庫状況を確認できるようにしました。これにより、実店舗での買い物体験を効率化し、顧客のストレスを軽減する取り組みを行っています。
AIによるパーソナライズの強化
Targetは、AIや機械学習を用いてパーソナライズされたショッピング体験を提供するために多額の投資を行っています。具体的には、顧客の購買履歴や行動データを解析し、各顧客に最適な商品を推薦するために、予測分析を活用しています。2021年には、需要や競合の価格を基にリアルタイムで価格を調整するAI駆動の動的価格設定を導入し、消費者に最も競争力のある価格を提供しています。
さらに、Targetは「Guest Access」という独自のアルゴリズムを開発し、100以上の変数を分析して顧客ごとにパーソナライズされたマーケティングメッセージやオファーを作成しています。これにより、消費者一人ひとりに合わせたターゲット広告を実現し、消費者満足度と購買意欲の向上に寄与しています。
音声コマースの導入
2019年、TargetはGoogleと提携し、Googleアシスタントを通じて音声操作でのショッピングを導入しました。この音声コマースにより、消費者は音声コマンドで商品をカートに追加したり、価格を確認したり、注文を行うことができます。音声操作によるショッピングの利便性は、忙しい日常を送る消費者にとって大きな価値を提供し、Targetはこの分野での競争力を高めています。
店舗改革と顧客サービスの向上で顧客体験(CX)向上を目指す
Targetはデジタル戦略と並行して、店舗体験の改善にも多大な投資を行っています。
店舗リデザイン
2017年以降、Targetは全店舗のリデザインに70億ドル以上を投資しました。新しいデザインでは、短時間で買い物を済ませたい顧客向けにグラブ・アンド・ゴー商品を配置し、ゆっくり買い物を楽しみたい顧客向けには、店舗の入り口やレイアウトを工夫しました。また、オンライン注文の受け取り専用エリアや返品エリアを設置し、利便性の向上にも努めています。照明やモダンな備品の導入により、ショッピング環境全体の質を高め、顧客に快適な空間を提供しています。
当日サービスの拡大
2017年、Targetは同日配送プラットフォーム「Shipt」を5億5,000万ドルで買収し、全米50州で当日配送サービスを提供する体制を整えました。これにより、Targetはオンライン注文後の迅速な配送を可能にし、特にパンデミック期間中、当日サービスが大きな成長を遂げました。2020年には当日サービスが273%の成長を記録し、デジタル売上の30%以上を占めるまでに至りました。
Target Circle ロイヤルティプログラム
2019年に開始された「Target Circle」ロイヤルティプログラムは、顧客体験戦略の重要な柱となっています。このプログラムは、購入ごとに1%のリワードを提供し、誕生日特典やパーソナライズされたディールを通じて顧客のロイヤリティを高めています。さらに、地域の非営利団体を支援するためのコミュニティ投票機能も組み込まれ、顧客がTargetを通じて地域社会に貢献する機会を提供しています。2021年までに9,000万人以上の会員を獲得しました。
マーケティングキャンペーン
「More in Store」キャンペーン
このキャンペーンは、Targetのオムニチャネル戦略を強調し、オンラインと実店舗を組み合わせたショッピング体験の利便性を訴求しました。実際のTarget従業員が登場する広告によってブランドの人間味を伝え、2019年第4四半期には売上が4.5%増加しました。
「What We Value Most Shouldn't Cost More」
このキャンペーンは、パンデミック中に展開され、Targetの必需品やプライベートブランドを強調しました。また、従業員の福利厚生や賃金への投資を前面に打ち出し、企業としての社会的責任を強調しました。この取り組みにより、2020年には売上が19.3%増加しました。消費者の支持を得るために、Targetは顧客にとって重要なものを手頃な価格で提供し、信頼を築くことを目的としたメッセージを展開しました。
「Target Run and Done」
このキャンペーンは、Targetでのショッピングの手軽さと当日サービスの利便性をアピールし、日常的な買い物の簡便さを強調しました。広告では多様なキャストを使用し、幅広い顧客層に共感を呼び起こすシナリオが特徴です。このキャンペーンにより、来店者数と購入点数が増加し、Targetのデジタル売上をさらに押し上げる効果がありました。
パートナーシップとコラボレーション
Targetの成長には、他の企業との戦略的パートナーシップが大きく貢献しています。
デザイナーコラボレーション
Targetは、著名なデザイナーとのコラボレーションを20年以上にわたって継続しています。2019年にはこれまでのコラボレーションを記念した限定版コレクションを発表し、大きな話題となりました。最近では、Lilly PulitzerやVineyard Vines、Alexisとのコラボレーションも成功を収めており、ファッション性を強調した商品展開で顧客に新しい価値を提供しています。
ディズニーパートナーシップ
2019年、Targetはディズニーとの提携を発表し、ディズニーストアの「ショップインショップ」を25のTarget店舗に導入しました。この取り組みは成功を収め、2020年末までに160店舗に拡大されました。また、Targetのフルフィルメント能力を活用した共同ブランドのオンライン体験も提供され、両社の強みを活かしたユニークなショッピング体験が提供されています。
Ulta Beautyパートナーシップ
2020年、TargetはUlta Beautyとの新たなパートナーシップを発表し、800店舗以上のTarget店舗にUlta Beautyの「ショップインショップ」を設置する計画を進めています。これにより、Targetはプレミアムビューティー商品のラインナップを強化し、消費者に幅広い選択肢を提供しています。ビューティー市場におけるプレミアム商品と大衆市場製品を一箇所で購入できるという新しいワンストップショッピング体験を提供することに成功しています。
パートナーシップの例
e.l.f. Cosmetics: クルエルティフリーでヴィーガンのコスメを提供。
Apple:TargetにApple製品を特別セクションで販売。
Levi's:デニムブランドLevi'sと提携し、限定アイテムを提供。
Lilly Pulitzer:ファッションデザイナーとの限定コレクションを展開。
Magnolia(Chip & Joanna Gaines):インテリアブランドのMagnoliaと提携。
Hunter Boots:レインブーツの人気ブランドとのコラボレーション。
Vineyard Vines:アパレルブランドとの限定コレクションを実施。
Casper:マットレスブランドとの協力で寝具の提供。
A New Day:Targetのファッションブランドの展開におけるデザイナーコラボレーション。
競争力強化と今後の展望
Targetの戦略的な取り組みは、競争の激しい米国小売市場において、その地位を大きく強化しました。2020年、Targetのデジタル売上は145%増加し、Walmart(79%)やAmazon(39%)を上回る成長を記録しました。同年、当日サービス(Drive Up、Order Pickup、Shipt)は273%の増加を達成し、売上は60億ドルを超えました。これにより、Targetは2021年時点で米国小売市場の7.1%のシェアを獲得し、2019年の5.5%から大幅に上昇しました。
また、Targetのプライベートブランドは、他の小売業者との差別化要素となり、10のプライベートブランドが年間10億ドル以上の売上を達成しています。特にアパレルやホームグッズ分野での成功は、消費者の「質の高い商品を手頃な価格で」というニーズに応え続けています。