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坊と夢と鬼太郎の話

 起きて、歯磨きをして、顔を洗って、着替えをする。
 朝のルーティンの「歯磨き」のところで、寝ていた筈の坊がやって来た。

「もう起きたの?」
「……」
「どしたん?」

 顔を顰め半泣き状態で立ち尽くす坊に驚き傍に寄る。ちなみに「どしたん」は大分の方言で「どうしたの」である。
 坊はくしゃりと顔を歪め、起き抜けのガラガラ声も相まって掠れた様子の、絞り出したような声を発した。

「ぎだろうど、もっど、いっじょに、いだがっだ……!!」


 …なんて?

 一瞬唖然としたが直ぐに抱っこして、訳も分かっていないのに、そっかーきたろうと一緒にいたかったのかーとトントン背中を叩いた。秘儀、オウム返し。
 坊はうん、と小さく頷いてぎゅっと私にしがみつくと肩にぐいぐい顔を押し付けて泣くのを堪えているようだった。

 最近坊はアマプラでゲゲゲの鬼太郎第6期を観ている。そう、坊の言う「きたろう」は鬼太郎のことなのだ。当たり前だがシティボーイズではない。「おいっ、きたろう!」「なんだい大竹」ではない。
 毎日少しずつ観てどんどん鬼太郎が好きになった坊は、「坊は、鬼太郎。ママはねこ娘ね」などと言ってくる。ポジション的にはママは目玉のおやじではないかと思うのだが「ねこ娘は可愛いから、ママ」らしい。うちの子本当にいい子。
 ちなみに6期のねこ娘は本当に可愛く、真名ちゃんという人間の女の子も出てくるがねこ娘の方が断然ヒロインだ。何なら真名×ねこ娘と言っても過言ではない。(は?)
 私の観た鬼太郎(何期かは分からない)にはゆめこちゃんというヒロインがいた気がするのだが…。

 そんな坊の夢に、どうやら鬼太郎が出てきたらしい。
 鬼太郎と一緒に遊んだのかな。悪い妖怪を退治したりしたのかな。楽しい夢だったのかしら、と一瞬微笑ましく思いそうになったのだが、先程の坊を思い出す。
「鬼太郎と、もっと、一緒に、いたかった」

 え、鬼太郎死んだんか?

 どんなシチュエーションで何がどうなって鬼太郎と離れ離れになってしまったのか分からないが、抱っこして背中トントンしているうちに再び坊は眠りに落ちてしまい、次に起きた時には夢の内容はすっかり忘れてしまっていた。
 鬼太郎の生死がめちゃくちゃ気になっている私のことなど気にもとめず、「そんな話しましたか?言い掛かりはやめてください」とばかりに坊は朝から自らDVDプレイヤーの操作をし「妖怪ウォッチ」を観始めた。

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